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人国 『聖女』との出会い

 王立教育学府 ラヴォラーレ・アカデミア。

 白亜の宮は人国連合 フォルトリックに住む者達の憧れ。

 ここで学ぶことができれば、その将来は安泰と、誰もが思い、確信する輝ける殿堂だ。


 各国の王族さえも入学は義務。

『儀式』の後は必ず学ぶこの最高学舎に、私 異世界転生者 西尾星羅。

 もとい。セイラ・ヴィクトワールは在籍している。

 間諜。

 つまり情報を集めるスパイとしての任と目的を帯びて。


 数か月前と立場や目的は変わっていないけれど、一度潜入したここを離れ、戻ってきた私は、予想はしていたけれど色々と変わった環境にやはり戸惑いを隠せなかった。

 

「う~ん、まあ、仕方ないか」


 授業終了を伝える鐘の値と共に私は立ち上がる。一人で。

 

「お疲れ様でございます。セイラ様」

「いつもありがとう。アリーシャ。ずっと立っているだけなのは退屈でしょう?」

「お気遣いありがとうございます。でも、私の事はお気になさらず。

 むしろタダで新しい知識に触れられるのは有意義で興味深い事です。感謝したい程」


 部屋の後方に控えていた護衛のアリーシャ様が、私に駆け寄って背中を守る様に寄り添ってくれた。人のぬくもりと暖かさに安堵する。

アカデミアに来てから丸二日。

主と護衛のけじめだと呼び捨てにさせて貰っているけれど、彼女のことはもう友達だと思っていた。授業を受ける私の部屋の後ろで、彼女は周囲を警戒し、私を守ってくれている。ほぼ一日中立ちつくしなのに文句も言わないで仕えてくれるのには感謝しかなかった。


会話してくれるのもほぼ彼女と侍女待遇のリサだけだし。


 

 アカデミアに私とウォルが生徒として戻ってから、生徒も先生方もどう関わっていいのか困っているようだった。

 先生方からしてみれば、事務職員としてあれやこれやの仕事を手伝わせてきた相手がいきなり生徒になって、尊重しなければならなくなってしまった。

 何せ、私達、授業内容はみんな理解しているし、なんならテストの採点もやったくらい問題傾向から仕組みまで知っている。正直授業は退屈で仕方ない。

 9年過程で飛び級アリとはいえ昨日入ったばかりの10歳の私達を上級クラスに入れるのは上位貴族達の反発もある。

 という理由で対応が決まるまで真ん中、四年生待遇にあたるクラスに入っているように言われた。


 で、今は大人しく授業を受けているのだけれど、誰も来ない。

 驚くくらい、誰も話しかけて来ない。

 私とウォルをまったく、いない者のように皆、扱っていた。


 私達が戻ってくるのも、生徒として入ることも緘口令が敷かれていたようで、集会が開かれ全校生徒に伝えられて以来大騒ぎになっているのだけれど、直接話しかけて来る者は本当に誰一人としていない。

 アカデミアに戻ったら、現在販売が差し止められている化粧品などを求める女性が擦り寄ってくるかと思ったのにそれもない。遠まわしに見ているだけだ。

 多分に。

現在、第二王女アルティナ様の威光に皆怯えているのだと思う。

 アカデミアに現在在籍する唯一の女性にして最上級生。

 彼女がリュドミラ様の追放劇の後、私を取り込もうとして失敗、投獄したという噂は多分広がっている。

救出してくれたシャルル王子は隠してないだろうし、私達の帰還以降、ヴィクトール様は化粧品と砂糖をアカデミアに流していないと言っていた。


「向こうに行っても自分からアルティナ様に折れてはいけませんよ。

 砂糖、化粧品その他、アインツ商会の商品は可能な限り回します。

どう配分するかはお任せしますが、アルティナ様から正式な謝罪があるまでは譲らないように」


 ヴィクトール様からはそう言われている。

 だから、私に気安く声をかけて来た侯爵令嬢ソフィア様さえも近寄って来ない。


 正直、適当によいしょしていい気にさせて、懐に潜り込んだ方が早いのだけれど、そうするとまた王族が懲りずにアインツ商会に手を伸ばしてくるかもしれないから、って。

 気持ちは解るけれど、やり辛いなあ。


「こちらから生徒達に関わりかけてみてはどうですか?」

「う~ん。相手の出方が解らないうちにそれをやっちゃうと、声をかけた相手が困っちゃうかもしれないから」


 私と関わったことで王女様やその派閥から弾かれたりすると可哀相だ。

 勿論、王女が私と敵対すると決めたなら、こちらも黙っているつもりはないけれど。

 投獄された時の借りもあるし。


「こういうどっちつかずなのが一番困るよね」


 敵対するのか、そうでないのかはっきりさせて欲しい。

 まあ、いつまでもこの状態は続かないだろうから、今日、悪くしても明日には何か動きがあると思う。

 シャルル王子達も、一度『神の塔』を降りたらアカデミアに戻ってくるつもりだと聞いているし。


 敵対するにしても友好関係を作るにしても、実際の所、私は選択するつもりはない。アルティナ様が決める事。そして私にとってアルティナ様は正直アウトオブ眼中なのだ。

 情報収集の踏み台だ。使えれば便利かもしれないけれど、無くても問題はない。

 プライドを曲げて謝罪し、化粧品などを求めるか。それともこのまま自分は悪くないと無視を貫くか。

 私はどっちでもいい。その結果に合わせて動くだけ。

 敵対された時には恩は倍返し。恨みは三倍返し。

 きっちり利息込みで返す所存である。


「もうすぐ、男子部も授業が終わって戻って来るよね? そしたら一緒に食堂でお茶しようか? お父様が持たせて下さったクッキーがしけっちゃう前に」

「ウォル様の方も大変でしょうから、そうされると喜ばれますね。きっと。

 ああ、でも部屋で留守居をしているリサが拗ねるでしょうか?」

「その時は部屋でもう一回、お茶会すればいいよ。今度は女の子同士で」


「あら! でしたら、その女子会に私も、混ぜて頂けませんか?」


「「!」」


 廊下で雑談をしながらの戻り路、背後から突然かけられた声に私達は振り返った。

 聞き覚えの無い声、知らない顔。

 金髪、碧眼、ショートカットの華やかな少女が、私達に向けて満面の笑顔を向けている。

 年齢はきっと10歳くらい。私達とほぼ同じだ。


「あの……どちら様ですか?」

「あら? 私の事をご存じありませんか? ああ、昨日正式に編入してきた方では解りませんよね。失礼しました」


 少女は制服のドレスのひだをつかみゆっくりと、優雅なお辞儀をして告げる。


「私はミア。現在、アカデミアで学ぶただ一人の『聖女』です」


 って。満面の笑みを浮かべながら。


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