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人国 星にかけた誓い

 私は何をすべき、なんだろう?

 私にできることとはなんだろう?


 ヴィクトール様との会議の夜。

 私はベッドで考えていた。

 真剣に、本気で、いっぱい考えた。

 で、考え過ぎて寝付けなくなった私は、もそっと、ベッドから起き上がった。

 そして、こっそりと部屋を抜け、外に出たのだ。

 魔国の王宮だったら難しいけれど、ここはアインツ商会の村だから護衛とか見張りも私達の滞在する館にはいなくって、護衛のアリーシャ様や、侍女のリサも眠っていて。

 私はすんなりと外に出ることができた。


 真夜中だから、村の中に人影はない。

 本当に静かだ。

 夏だから、夜着で出歩いても、寒さを感じはしない。

 でも人に見られたら少し恥ずかしいかも、とは思った。

 少し気持ちを切り替えたら、早めに帰ろう。

 そう思いながら歩き出す。


 空を仰ぐと天上に貼り付けたような星が見える。

 魔国には星空が見える所はほぼ無いから、こうしてゆっくりと星を見るのは久々な気がした。そういえば、この世界には月が無いんだ。と今更ながらに気付いた。

 でも星の灯りは強め。真っ暗で周囲が見えないってほどの事も無かった。

 外に出てきたはいいけれど、何をするでもなく、ぼんやりと空を見上げていたら。


「何をしてるんだ?」

「!」


 背後から声が耳に届く。

 一瞬身構えたけれど、優しいアルトの声。誰かは直ぐに解って力が抜ける。


「ウォル……」

「こんな夜遅くに。村の中だから怪しい奴とかはいないだろうけど、危ないぞ」


 振り返ればそこにはウォルが立っていた。

 彼も寝間着に上着を羽織っているだけの姿。

 私の気配を察知したのだろうか? それとも……。


「星を見ていたの」


 私はウォルから視線を外し、空を仰ぐ。

 転生した異世界人としての私の本当の名前はステラ()だ。地球での本名(星羅)にも星が入っているのでけっこう思い入れがある。


「地上世界の星空って変わらないよね。いつ見ても同じ形」


 地球世界で解明された宇宙の摂理、星の運行や法則はどうやらこの世界では適用されないようだ。そう何度も地上世界の星を見た訳ではないけれど、どの季節、どの時間に星を見てもいつも同じ形をしている。

 だから、だろうか。ヴィッヘントルクには天文学とか占星術、という概念はない。


「何が言いたいんだ?」

「別に。ただなんだか、ちょっと羨ましいなって。

 私の周りはバタバタと色々変わってるのに。空で悠々と輝いていればいいのは楽そうだから」


「導きの星」


 どこの誰からかとも解らない『予言』『神の言葉』は私をそう呼んだ。

 ヴィッヘントルクでも、その動かない性質からから、旅路の指針にはなっているようだけど。

 周囲に流され、自分も揺れて右往左往する私とは大違いだ。


「セイラ。お前、何にそんなに迷ってるんだ?」

「迷ってる? そう、かな? 確かにちょっと迷ってるのかも」


 私はこの世界、ヴィッヘントルクを舞台にした物語の作者だし、人々を導きたいという意志と知識を持っている。


 でも、元来は平凡な小市民。

 貴族とかましてや王族とかとは全然縁がないのだ。


「魔国の王女として、覚悟を決めたつもりだったんだけど、ね。

 同世代のお貴族や王族と渡り合えって言われたら、なんだか急に怖くなってきたんだと思う」


 いつの間にか魔王の養女、次期魔王なんて言われて、今度は人国の王族貴族と渡り合う事になる。

 はっきり言って怖い。

 お貴族様の我儘は職員だった頃に身に染みているから、何をされるかも想像がつくし、女の集団のやっかいさは地球世界の学校や職場で、イヤと言う程履修済みだ。

 まず間違いなく、今まで自分が見下していた商人の娘が同じ立場に立つことにイラつく。そして意地悪が始まるだろう。

 アインツ商会の娘、成金で王族貴族も欲しがる垂涎の品々を抱えているから、表向きは擦り寄ってくるだろうけれど、裏では絶対に見下してくる。


 イジメ、いびり、悪役令嬢。

 そんな向こうの記憶が脳を過った。

 私はこれからその只中に放り込まれる。


「私に何ができるのかなって」

「難しい事、考えなくっていいんじゃないか?」

「え?」

「自分がやってもらって嬉しい事をして、やって欲しくない事をやらなければいい。

 基本だろ? セイラは難しく考えすぎなんだ」


 ウォルの言葉にぽろっと、目から鱗が落ちた気分になった。

 情報収集とか、懐柔とか、あれもしなきゃ、これもやらなきゃと思っていたのがスーッと溶けて行く気分だ。


「それで、いいのかな?」

「俺達は子どもなんだし、陛下だってそこまで要求しやしないさ」


 いや、お義父様は平気で要求してきそうだけれど、でも。


「そもそも、そんな大人しくイジメられてるような正確じゃないだろ? お前」


 そっか。

 相手をやり込めようとか、そんなことを考えずに自分が正しいと思う事を貫けばいいのか。

 人が弱い者いじめをするのは、大抵、相手が自分に逆らえない、逆らわないと思っているからだ。やり返し、はっきりとイヤだと主張すれば、止まることが多い。

 まあ、逆らえない相手を選んでいるというのもあるけれど。

 その点で言えば、私にはイヤならイヤと言える性格もなんとかする力もある。

 向こうとは違うのだ。

 いじめが怖くてちょっとトラウマっぽくなっていたけれど、せっかく異世界に生まれ変わってきたのだし、囚われ怯えているのは損でしかない。


「ありがとう。少し、気持ちが楽になった」

「王女になって、地上に戻って来て、立場も変わって。焦る気持ちは解るけどあんまり気負うなよ。一緒にやるって約束したんだからな」

「うん。頼りにしてる」


 ウォルは静かに笑うと自分の上着を私の肩に着せかけてくれた。

 こういうところ、カッコいい「主人公」だよね。

 私の理想を形にしたような存在だから少しときめく。まあ、そんなことを考えるのも失礼ではある。ウォルはウォルあって、私が書いた小説の主人公ウォルフラムとは性格も考え方も違う一人の存在だ。

 彼や皆と一緒に、小説の書き直しではなく、より良い世界(物語)を一緒に作る。

 一人の人間として。


 私は夜空を見上げ、変わらぬ星にそう誓いをかけた。


 翌日から、私達はアカデミア留学の準備を進めて行った。

 持ち物の準備から勉強の予習まで色々。

 私とウォルは思いっきり人国の教育課程を詰め込まれてグロッキー。

 でも、0から、ではないからなんとか頑張った。

 前にアカデミアの事務員をしていた時に、教育課程を理解していたことも助かったし。


 そして一週間後、私達は再びアカデミアの門を潜ったのだ。

 今度は学び舎で学ぶ生徒として。


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