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人国 新しい命と伝わった思い(修正)

3月10日 8時から19時まで前と同じ話になっていました。

現在は修正済み です。

 有翼族の出産は難産になる。

 ジュスターさんが言った通り、子宮口が完全に開き切ってもまだ、子どもはなかなか出て来てくれなかった。

 理由も解っている。

 子宮から出てくる時に、翼が引っかかって出てこないことが多いのだ。今回も頭は見えているのにその先になかなか進まないのはきっとそのせい。


「アリーシャ様! 合図をしてお母さんがいきんだら、少し強めにお腹を圧してください」

「解ったわ」

「リサは汗を拭いて。あと少し、みんな、頑張りましょう!」


 それから体感1時間くらい、一生懸命にお母さんを励まし、声をかけ続けたけれどなかなかひっかかりは取れない。苦痛に耐えるお母さんにも疲労の色が濃い。体力も気力もきっと限界に近いのだ。


「あと少し、あと少しなのに……」

「ここに、聖女様達や神官がいたら……」


 この村には神官がいない。神殿もない。人国の神殿を作るわけにはいかないし、魔国の神官を呼ぶのには目立ちすぎる。

 だから、怪我をした時など治療を行うことができないのだ。

 あ、そうだ!


「私が、魔国から聖女様を連れてきます! だから、あと少し、頑張って!」

「セイラ様!」「セイラ!!」


 思い出した。私には転移術が使える。魔国からベルナデッタ様を連れてくればいい。


 私は少し離れた所で目を閉じると、精神を集中した。

 魔国の大神殿、ベルナデッタ様の元へ!


「わっ! いきなりどうしたのです? セイラ?」


 目を開くとそこはベルナデッタ様の執務室だった。

 良かった。ここにいらっしゃらなかったら治療中で、仕事中、ということだからもしかしたら時間がかかったかもしれない。


「ベルナデッタ様。前触れも無しにすみません。

 ちょっと人国の隠れ里に来て頂けませんか? 有翼族の出産が難産で、母子共に命の危機なんです!」

「なんですって!?」

「私が転移術でお連れして、事が終わったら直ぐに戻れるようにいたします。どうか、御力をお貸し下さい」


 本当だったら国の宝である聖女ベルナデッタ様の移動には色々と手続きがいるのだけれど


「解りました。今、幸い、緊急で治療が必要な者はいなかった筈。

 ……出産、しかも王女のお召しです。暫くこちらは任せます」

「解りました。お気をつけて」


 出産は魔国では最優先されることと、私が王女になってその願いということが効いて即と言っていい形でベルナデッタ様は、私の依頼に応じて下さった。

 手続きも最小限。時間にしておよそ十分も経たないうちに、人国の産屋に戻ることができた。


「ベルナデッタ様?」

「本当に? 魔国から??」

「驚くのは後で。礼も要りません。少し、場所を貸して」

「はい」


 ベルナデッタ様は分娩台の横に立つと目を閉じて妊婦のお腹に手を当てる。


「確かに翼がひっかかっているようね。私が来てもあまりできることはないかもしれません。

 とにかく時間をかけて子どもの姿勢が変わって翼が取れるのを待つしかないわ」

「仕方ない、ですね。……もう少し、頑張れますか?」

「は、はい……」


 お母さんもかなりギリギリぽいけれど、気丈に頷いてくれた。

 握り棒を掴む掌に力が籠る。


「有翼族の出産は、魔国でも本当に大変なのよ。人の身体は、有翼の生き物を産めるようにはできていないの」

「そう、ですね。竜魔族も角が子宮を傷つけてしまうことが良くあります」


 体力回復の治癒をかけて下さるベルナデッタ様に、私は頷く。

 翼を持つ生き物の多くが卵生なのはきっとそういう理由があってのことなのだろう。

 勿論、翼を持つ胎生生物がいないわけではないけれど、彼らも手と翼が一体化していることが多く、こんなことにはならない。

 昔、蝙蝠の赤ちゃんの写真を見たことがあるけれど、手で顔を隠すようにして翼がひっかからないようにしていたことを覚えている。


「あんな風に、赤ちゃんが翼を前に引っ張ってくれていたら……」


 お腹をさすり、祈るように呟いたその時


「あれ?」


 お腹の張りがスッと、薄くなったような気がした。

 赤ちゃんの体勢が、変わった?


「セイラ様! 肩が子宮から出てきているようです。ひっかかりが取れた?」

「そうかもしれません。アリーシャ様! お腹の上から押し出すように力を入れて!」

「はい!」

「あと……少し! お母さん! いきんで!!」

「う~~ん! あっ!」

「出た! 出ました!!!」


 引っかかりが取れてからは後はスムーズに、最後の産道を潜り抜けて赤ちゃんの全身が外に出て来る。


「! 赤ちゃんは?」


 泣かない。

 仮死状態なのか、呼吸を、なかなかしてくれない。

 ベルナデッタ様が治癒をかけて下さっても、まだ顔は真っ白だ。


「貸して!」


 リサが、赤ちゃんを逆さにして掴んだ。


「しっかりして! 目を覚ましなさい!

 お母さんを……泣かせるつもりなの!」


 そう赤ちゃんに言い放つと

 バチーン!!

 お尻をおもいっきり引っぱたいたのだ。

 と同時。


「は……ふ、ふぎゃああ、ほぎゃああ!!」


 呼吸の切り替えスイッチが入ったのだろう。赤ちゃんが産声を上げた。

 確かな、命の歌声。

 産室に安堵が広がって行く。


「よくやりました。リサ。ありがとう。可愛い、女の子ね」


 ぼんやりとしていたリサからベルナデッタ様が赤ちゃんを預かって、産湯と祝福を授けてくれた。


「セイラ、リサ。アリーシャも。見てごらんなさい」


 ぼんやりとしていた私達をベルナデッタ様が手招きする。


「うわあ、翼を抱えている?」


 よく見てみれば、赤ちゃんは自分の胸の前に組んだ腕に身体の半分はありそうな翼の先を抱えている。


「もしかして、翼の引っかりを減らす為、でしょうか?」

「そうかも、しれないわね。今まで有翼族の子の出産を何度か見てきましたけれど、始めて見ました。皆の願いがこの子に届いたのかもしれないわね」


 暖かいお湯につかり筋肉が弛緩したのか、ふにゃりと解けた腕から翼が抜けて白鳥のような美しさを取り戻す。

 そうして他の女性達の協力で後産と移動が終わったお母さんの横に生まれたばかりの赤ちゃんは真っ白な産着にくるまれて、寝かされた。


「良かったですね」

「皆様のおかげです。ありがとう……ございます」


 疲れてきっているだろうに、お母さんは顔をくしゃくしゃにしながらも私達にお礼を言ってくれた。


「お母さんが頑張ったからですよ」

「私は、何も……」


 アリーシャ様は少し照れた様子。

 リサは逆に、どこか申し訳なさそうな顔をしている。


「あの……赤ちゃんを、叩いちゃってごめんなさい」

「いいえ。貴女のおかげでこの子は目を覚ましたようなものです。気にしないで」


 優しい笑顔で笑いかけてくれるお母さん。柔らかい薔薇色の瞳がリサに少し似ているかも。


「子守歌、歌ってあげてもいい?」

「ええ、お願いします」


 周囲の皆が、片付けなどに慌ただしく動く中、リサは美しいスプラノで優しい歌を紡ぐ。


「おやすみ~、愛しいわがこ~

 ゆめをみて~ おねむり~♪」


 私が教えたのではない歌。魔国で覚えた歌なのかな?

 我が子を見つめていたお母さんの頭が、ぴくんと跳ねた。何かに驚いたように。


「蒼のひかりあびて~、金の風につつまれ~。

 目を閉じてねがえばいつも~

 よみがえ~る、あの空」


 丁度、その時、中に促されたらしいお父さんもなんだか目を丸くして、立ちつくしている。なんだろういったい?


「共に、いつか、帰ろう。

 光のせかい。ゆめのこきょうへ~」


「あ、あの……貴女?」

「なあに?」


 歌を歌い終わった後、優しく赤ちゃんを撫でたリサに呼びかけたお母さん。

 でも、丁度のその時、ベルナデッタ様が私達を呼ぶ。


「セイラ。リサ、アリーシャ。

 後は家族の時間ですよ。戻りましょう?」

「は~い。じゃあね。あかちゃん」


 私が促すとリサは何のためらいもなく、外に向かっていく。


「何か、リサにご用事が?」


 声をかけて追う、訳ではないけれど何か言いたげだった感じだったので、ちょっと声をかけてみる。

 でも


「あ、いえ。そういうわけでは、ないのですが……ちょっと……」

「すみません。僕らも赤子が生まれたばかりで、ちょっと色々いっぱいいっぱいみたいです。後程改めて」


 本当に戸惑っている様子だったので私はそれ以上追求せず


「解りました。リサは、私の侍女みたいな存在なので、何か用事がある時はジュスターさんにでも」

「はい。今日はありがとうございました」


 産屋を後にした。

 人国に戻って早々に大騒ぎだったけれど、とりあえずは一件落着。


 どうしてリサが、あの時的確ながらも乱暴な行動に出たのか、魔国の子守歌と共に少し気にはなったのだけれど今は、疲れたので後にしようと思う。

 ベルナデッタ様もお送りしないといけないし。


「赤ちゃん、無事に生まれて良かったね」

「うん。リサのおかげだよ。ありがとう」


 私達は並んで、人国での日常に戻って行った。


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