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魔国 物語の始まりはボーイミーツガール

 光を紡いだような銀髪に、湖面の水面のような透き通った水色の瞳。

 とても、キレイで可愛らしい男の子だなあ。

 第一印象はそんな感じだった。

 額にはバンダナのようなものをしている。

 私が昨日、王城で見た時にはちょっと薄汚れた印象があったけれど、お風呂に入れて貰って綺麗な服を着せてもらったのだろう。

 見違えた。

 ああ、そうか。

 私もこんな感じだったんだ。

 魔王様が私を見て、小綺麗になった、と言ったのがよく解る。


 魔国に来るまで私も髪を洗うどころか解かしたこともなかったけれど、キレイに洗ってみればステキな金髪してた。目の色は自分で解らなかったけれど、黒色なんだって。

 陛下と同じ色ね。珍しいって奥様に言われたっけ。


「こいつの名はウォル。今日からここで働くことになった。

 セイラ。面倒を見てやれ」


 親方が私を名指してきた。

 リサよりは私の方が話は通じるということだろう。この厨房で働く子どもは私とリサだけだし。


「はい。よろしくね。ウォル。

 親方。彼の住む場所は?」

「それも同じ、俺の家だ。元々夫婦2人で住むにはデカすぎる家だ。子どもが二~三人増えようとどうってことはない」

「ありがとうございます。じゃあ、きょうだいみたいなものだね」

「……ちがう」

「え?」

「俺にはきょうだいなんていない。俺にかまうな!」

「ウォル?」


 握手を求め差し出した手はバチン、と払われてしまった。


「こら! ウォル!」


 親方が声を荒げるけど、彼、ウォルはぷい、と顔を背けたまま。


「これから。もしかしたらかなり長く一緒に仕事をし、同じ屋根の下で生活していくことになるんだぞ!

 もう少し、ちゃんと挨拶しろ!」


 大人達もどこか呆れたような顔でため息をついている。

 みんな、事情を知らされているから怒ったりは(今の所は、かもしれないけど)しないでくれている。

 そして、本人も。

 逃げ出したりしないあたり「他に行くところはない」ってことは解ってるんだろうなあ。


「まあ、その辺の話は後だ。

 とりあえずは、セイラに教わって下働きの仕事を覚えろ。気に喰わなくてもここではお前は一番下っ端なんだからな。言う事を聞いてしっかり働け」


 拗ねたような表情やそぶりは見えるけれど、命令や指示に逆らう事はしないようだ。この年頃の男の子にしては聞き訳がいい。

 ここで私達に割り振られるのは、野菜洗いや、皮むき、掃除や片付けなど。

 王宮の皆さん、優しいので子どもでもやりかたを覚えて頑張ればできることしか命令したりしない。

 だから、ウォルも。

 最初は勿論、勝手の解らない職場での仕事だから失敗することもあったけれど、徐々にできることが増えてきた。


「ウォル、ナイフの使い方上手ね」


 ウォルは特に野菜の皮むきが上手で、するすると芋やニンジンの皮を剥いていく。

 最初は上手く身体を動かせない子どもは指を切ることが多いのに。

 だから、リサにはまだ刃物を持たせられない。危なっかしくてこっちが心配になる。

 その点ウォルは刃物の扱いが板についている。


「母さんの手伝い、よくしてたからな」

「そっか。スゴイね。ウォルも。ウォルのお母さんも」


 しまった! 口を滑らせた。というような感情が一瞬、ウォルの瞳に過る。

 でも、それ以上に


「母さん、も?」


 お母さんが褒められたことがうれしいのかもしれない。ウォルの芋を握る手が止まり、サファイアのような瞳が私を多分初めて、じっと見つめ、写す。


「うん。ウォルが大きくなっても困らないように、ちゃんと教えてくれたんだもの。

 子どもにお手伝い、ちゃんとできるように教えるのってけっこう大変なんだよ。

 自分でやったほうが早い。って。

 でも、ちゃんと教えてくれたんだもの。優しくて、頭が良くて、そしてステキな人だと思う」


 微かに。ホントに微かにではあるけれどウォルの眦が下がって、口元が笑みを形作る。

 凄く、嬉しそう。

 ああ、やっぱり子どもの笑顔っていいなあ。

 と、思って魅入ってたら、直ぐにハッとしてまた固い顔つきに戻ってしまった。

 残念。


 でも……。事情が事情だから、周囲に恐怖感を持ったり警戒心や絶望を持つのは仕方ない事だ。

 ゆっくりと、心が解きほぐれるのを待つしかないだろう。

 私はそう思いながら、彼の横で剥いたじゃがいもを水に落とした。


 その日の夜、私達は司厨長の家に戻って一緒に食事をした。

 王家の料理を作る、貴族待遇の親方なので本当はあり得ない事なんだろうけれど、私達が来てからというもの、一緒に食事を作って一緒に食べてる。

 魔国の主食が芋料理だと知って、司厨長が優しいのをいいことに、いろいろと提案してしまったのがことのはじまり。

 実際にやってみたら美味しかった、と言って司厨長はそれから毎日、私の話に耳を傾けて、教えた料理のレシピを一緒に試してくれているのだ。


「セイラは色々な料理を知っていて、凄いな。

 どこで勉強したんだ?」

「え~っと、色々と必要に迫られて~」


 人国で働かされていた時は料理に携わる機会は殆どなかった。

 皿洗いや掃除はさせられたけれどね。


 私の料理知識は基本、向こうの世界。

 転生する前の地球でのものだ。

 料理は好きだった。数少ないストレス解消。

 調味料やその他が違うからまったく同じ味にはならないけれど、イモがメインならただ、ゆでて潰したり、切ったりするだけではなくニョッキにしたりガレットにしたり、でんぷんを作ったりとか工夫することはできる。

 少しは味に変化もつけられるだろう。

 私も美味しいものが食べられるし、一石二鳥。


「今日のこれは、なんていう料理なんだ?」

「いももち、ですかね」


 ジャガイモを潰したものに片栗粉(ジャガイモで作ったでんぷん)を混ぜて焼いたもの。

 醤油や味噌タレが美味しいけれど、塩味でもまずまず美味しい。

 油とか砂糖とか使えるともっと美味しくできるんだけど、そこは中世異世界のどうしようもない所。仕方ない。

 あ、でももしかしたら魔国のどこかに大根とかはあるかもしれない。砂糖大根。甜菜とかが見つかれば、砂糖がGETできるかも。


「大勢で食べる食事は楽しいわね。

 それにセイラが来てから、食事がとても美味しくなった気がするわ」


 そんなことを考えながら、どこか上の空だった私に奥様が楽し気に微笑み声をかけて下さった。親方は巨人族だけれど、奥様は獣人族。人猫科なのだそうだ。

 お顔は完全に猫。尻尾もある。でも、手や足は人間で私達が想像する獣人そのものだ。

 身長は160cmくらい? 女性としては低くないけれど高身長で、巨人族の親方と並ぶと凄く小柄に見える。

 異種族婚、普通なんだね。

 種族ごとに食べちゃいけないものとかないのかな? と思うどそんなことを気にしてたら、食べ物の限られる地下世界で生きていけないか……。


「セイラもウォルも筋がいい。リサも、頑張ってる。将来いい料理人になれるぞ」

「ありがとうございます」


 可愛がってくれる親方には悪いけれど、私はこのまま、ここで料理人とか下働きで終わるつもりはない。せっかく魔国で命を拾って、王城に潜り込めたのだ。

 王妃様のお言葉ではないけれど、しっかり勉強して力をつけて魔国の一員として、役に立って。

 未来を書き換えて、世界を守って。

 殺された子ども達の無念を晴らす。絶対に。


 かちゃん!

 私の横でカトラリーの鳴る音がした。

 見れば、ウォルが手からフォークを取り落としたようだった。


「すみません」

「別に気にしなくていい。ここは王城じゃないからな。礼儀作法とかも不要だ。自分で拾って片付けろ」

「はい。すみません」


 震える手と、凍った表情で厨房に向かうウォル。

 見た瞬間、私は理解した。

 彼の気持ち、思いが手に取るように解った。


 これは『サクシャ』のクラススキル、なのだろうか?

 多分、違う。

 向こうの世界の経験と能力。

 保育士は子どもに限らず、相手の表情や仕草から気持ちを読み取る技術もないと務まらないからね。

 まあ、どっちでもいい。

 だから。

 私はその日の夜、止めることができたのだ。


「今は、まだ。止めた方がいいよ。ゴミみたいに殺されて死ぬのがオチだから」

「!」


 月のない魔国の緑の夜。

 一人、館を、魔国を抜け出そうとしていたウォルを。


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