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魔国 新しい仲間と旅立ち

 宴会の後、私は正式に獣人族の族長様からジャハーン様達を紹介して貰った。


「獣人族のジャハーン。よろしくな!」

「言葉遣い! 本当にあんたはもう!!」


 隣に控える女の子がジャハーン様に容赦ない拳骨を落とす。

 そう、ジャハーン様達。

 そして女の子。

 族長様は実はジャハーン様と一緒にもう一人、御子を私に預けて下さったのだ。


「獣人族族長が娘 アリーシャ。どうかお見知りおきを」


 綺麗な黄金の毛並みの雌獅子。

 身長はジャハーン様より少し小さいけれど140cmはある。十二歳だっていうから平均的な丈くらいかな。

 印象はスレンダーでしなやか。猫科の美しさをリアルに感じさせる。獣の顔からは解り辛いけど、笑顔を向けてくれていると何故か解った。


「よろしいのですか? クセルナクス様。一族の大事な和子を二人共」

「元々、コレがあんな形で騒ぎを起こさねば、本当は娘の方を王女の側に、と勧めるつもりだったのです。今後、諜報などに前線に立たれる姫君の護衛によりお役に立てるかと」

「ジャハーンに横入りされるなんて許せない、と父に猛抗議したのです。

 女の身ではありますが、これでも獣人族の端くれ。戦士としては男であっても簡単に後れを取らぬ自信があります。姫君お噂はかねがね耳にしておりました。ぜひ、お側に」


 女性の護衛は欲しかったところだから助かる。獣人族だから人国には流石に連れて行けないけれど。


「では、魔国での活動の時はお願いいたします。私は人国の諜報も受け持っているので、当面は両国を行き来しますので」

「いえ! お許し頂けるなら人国でも護衛の任に着かせて下さい。

 その為に、実は獣人族の秘宝を分捕り、いえ……借り受けてきているので」

「え?」


 アリーシャさまは族長様に許可を仰ぐように視線を向けると、服の隠しから何やら取り出し、指に嵌めた。多分、指輪な何かがキラリと薄紫の光を発したかと思うと……。


「え?」


 ビックリ。

 正しく瞬きの間。

 目の前で膝を付いていた猫科の少女は、人族の女の子に変わっていたのだ。

 少し癖のあるブラウンヘアをポニテで結び、好奇心旺盛なオリーブグリーンの瞳を輝かせて、何と言ったらいいのか、ドヤ顔? で私を見ている。


「こ、これは?」

「獣人族に代々伝わる宝です。目くらましの魔法がかかっているようで、相手が自分に見て欲しいという容に見えるとのこと。実際の姿形が変わっている訳ではないので触られると解ってしまいます」

「そうなんですか? ちょっと顔に触っても?」

「どうぞ」

「うわ、ホントだ。毛皮の感触」


 失礼だと思うけれど頬っぺたを触らせて貰うと上質な敷物のような暖かくて柔らかい感触がした。


「一つしかないので、決して無くすなと言われています。ジャハーンに預けては無くすかもしれないので、私が管理して必要な時に求められた方が護衛に就くような感じで行きたいと思うのですがどうでしょうか?」

「そういうことならぜひ。よろしくお願いします」


 頭が良くて、頼もしい年上の女の子。しかも護衛もできるなんて喉から手が出る程に欲しかった人材だ。


「クセルナクス様。本当にありがとうございます!」

「ちぇっ。姉貴が一緒じゃ俺の出番が減るじゃん」

「そういう所が信用できないんだってば! それにあんた、女性だけのお茶会とか洋服屋とか化粧室での護衛できんの?!」

「うっ……」

「必要な時に必要な方が、って言ったでしょ? 戦場とかアンタの馬鹿力が必要な時だってあるんだから気を抜くんじゃないわよ」

「解ってるって。姫様。俺も絶対に役に立つから、いやお役に立ちますから!」

「頼りにしています。仲良くして下さいね」

「しっかりお役に立つのだぞ。二人共。

 王女は、色々な意味で今後の魔国を左右する存在だからな」

「「はい!」」


 余談だけど、変化の指輪で後でジャハーン様も姿を変えたのを見せて貰った。

 金髪にサファイア色の瞳をした悪戯っ子っぽい男の子。この姿だったら、十歳だって素直に納得できたなってちょっと思った。

 アリーシャ様とジャハーン様はウォルとリサにも紹介する。

 リサは優しいお姉さんであるアリーシャ様に早々に懐いて王宮の事を教えたりしていたけれど、ウォルはちょっと面白くないらしい。


「護衛なら俺がいるのに」

「ふん、たかが三眼族が獣人族に叶うとでも?」

「「ジャハーン!!」」


 ジャハーン様もジャハーン様で、自信満々にウォルを煽るのでアドラール様とアリーシャ様が二人で右と左から拳骨を落としてくれた。

 アドラール様と族長クセルナクス様は幼馴染なんだって。

 ジャハーン様はジャハーン様で王都で働くアドラール様に憧れていたので可愛がられているウォルが煙たいらしく、怒られてからもしょっちゅうちょっかいを出している。

 仲良くして欲しいけれど、案外これもコミュニケーションなのかもしれない。


 私のお披露目が終わった後、各種族の族長様達はお義父様と人国の襲撃についてや魔宮探索について会議を行ったそうだ。

 十数年とか二十数年に一度くらいのペースで『次元の穴』と呼ばれる不思議な空間が開くことが在りおおよその場合、穴は魔国と人国を繋ぐ通路になっている。

 基本的には時間経過で消えるものだが半年から一年以上かかることもあり人国側が存在に気付くと魔国に侵入し戦争を引き起こす。


「また次元の穴が生まれたのでしょうか?」

「その可能性が高いな。皆、戻ったら領地周辺を徹底調査してそれらしい物が発生していないかどうか、周辺を調査するように。セイラは間もなく人国に戻し情報を集めさせる」

「大丈夫なのですか?」

「アインツ商会の後ろ盾があるし、シャルル王子の協力を得る約束も取り付けた。自分の身くらいは護衛もつけたし守れるだろう」


 というわけで、私達はシャルル王子達の『神の塔』探索が二十五階まで到達し次第、人国に戻ることになった。目的は前回よりも積極的な情報収集。

 魔国侵略に向けた人国の戦略の把握である。

 流石に人国王族に転移陣を与えることは許可されなかったけれど一度各階層のテレポーターを起動させられれば一階から二十五階までは移動できるし、二十五階で繋がる魔国にも王子達は出入りができる。

 アインツ商会の拠点村に来ることも許可されているから魔国との繋がりが切れるわけではない。勿論沈黙の誓いもかけられている。破れば呪いが発動して最悪の場合命を奪う事もあるから彼が魔国の事をしゃべったりすることは無い筈と、それくらいには信用されていた。

 シャルル王子達も、魔国の事を気に入ってくれている様子だしリュドミラ様もいらっしゃるしね。


「『神の塔』の十五階にはやっぱりエリアボスがいて、倒したら宝箱があって不思議な品が見つかったんだ。不思議な鞄のようなもの、なんだけれどね」


 探索を進めたシャルル王子は、十五階で発見された成果を約束通り開示してくれた。今回のは、大きなカバンだった。

 見かけは特に変哲もない大きめの肩掛けバッグ。でも中に入れようと思えば何でも。

 鞄の口から入るものなら入れたり出したりできるんだって。

 長い棒や剣も吸い込まれるように中に入る。


「出す時は、これってイメージすると手元に出てくるみたいだね。どのくらいの容量が入るかとか、中で壊れたりしないかどうかは要調査、かな」

「四次元ポケットやマジックバッグみたいですね」

「え? 何」

「あ、いえ、何でもないです。でも、これがあると探索は便利になりますね」

「うん。より長期の探索が行えそうだ。この先に進むと直ぐにテレポーターで戻ってくることができなくなる可能性もあるしね」


 四つ見つかったというので、二個ずつ魔国と人国側で分けることになった。

 暫く魔国側で研究して容量や仕組みについて調査する。


「とりあえず、兄上達には渡すつもりはないよ。これを悪用したら戦争の補給などにも使う事ができるから」


 それは魔国側にも言えることだけれど、多分お義父様は使えるなら使う気満々だ。

 ただ、一~二個ではあまり戦局を変える程にはならないだろう。

 人の手で量産できるような品ならいいのだけれど、多分、難しいと思う。


 ただ、色々な事を知って、改めて実感するのはこの世界の成立には『神』

 人知を超える上位者の意志が介入しているのだな、ということ。

 魔宮に転移陣、色々な術式、獣人族の秘宝や謎の鞄。

 この世界の技術や知識では不可能な存在、言わばオーパーツがそれを証明している。

 そして上位者は私達の成長を促し、できるなら早く自分達の元に辿り着いて欲しいと願っている。

 その理由こそが私が書いた小説のクライマックスであり、最後のどんでん返し、だった筈なのだけれど。


「うーん、やっぱり思い出せない。なんだったかな? どういう理由だったろう?」


 多分にこの世界の住人には受け入れがたい事、だった筈だ。

 だから最後に勇者達二人は自らの命を懸けて彼らの意図から自分達の世界を守ったのだから。

 私も、物語を書き直す、なんて偉そうなことはもう言わないけれど、考え続けることは止めないようにしようと思う。


 そうして私達は人国に戻ってきた。

 新しい仲間と一緒に。


 ヴィッヘントルクの住人として。王女として。大切な人たちが生きる世界を守る為に。


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