魔国 皇女と族長達
ジャハーン様の件が片付いた後からは、宴席ではもう騒ぎは発生しなかった。
おそらく、彼がいい見せしめというかデモンストレーションになった、というかで、私に、魔王陛下に文句を付けるのは得策ではない、と各種族の皆さんに刷り込まれたのだろう。上位種族トップ3が支持を表明したこともある。
残りの種族の皆さんからは、特に嫌味やチクチク言葉の表明も無く、表面上だけかもしれないけれど朗らかに、祝福を頂く事ができた。
これが狙ってのことだとしたら、お義父様は本当に怖い。
お披露目の宴席で改めて色々な種族の方々と言葉を交わす。
今まで特に縁遠かったのは有翼族と、長耳族だ。
「お初にお目にかかります。魔国に希望を齎した珠玉の姫よ」
有翼族の族長様はそう言って、私にお辞儀をしてくれた。
三十代くらいの若い男性。
金髪に白い天使の羽。紺碧の蒼を切り取ったような瞳に整った容姿と相まって大天使か何かのようだ。神々しささえ感じる。
「姫君のおかげで、地上から戻ってくる子どもの数が増えました。我が種族は特に人数の減少が激しく滅亡に瀕していたので、感謝以外ございません」
「子どもの保護に関しては魔国全体の政策であり、私一人の功績ではありませんが、お役に立てていたのなら幸いです」
「地上の親達に子どもの教育について色々なご助言も頂いたとのこと。
彼らは戻って来てからも姫君の教えを守り、残った者達にも伝えております」
「それは我々の族も同じ。開明的な考え方に実は賛否もありましたが、合理ではあると残った者達の間でも広がる傾向にあります」
後半の言葉に頷いて下さったのは長耳族。ハシバミ色の髪をオールバックにした固い印象の男性だけれど、柔らかい笑顔を向けてくれた。長い耳が本当に、マンガなどで見たエルフそのものだ。
長耳族は耳を隠せば人に紛れやすいので特に地上に来る人達が多いから、失う数も今まで多かった。今では戻る数の方が増えたと喜んで下さっている。
「助言? 何かしていたのか? 時々呼ばれていたのは知っているが」
「あ、ご助言という程ではないのですが、子育てや教育のお手伝いや、知育玩具の提供などを少し」
お義父様の問いに私は報告するまでもないかな、と思って言っていなかった地上コミュニティでの話を少し、する。
アインツ商会が魔国の民の村を作ってから、地上で学んだ知識で出産、子育てのアドバイスをしたりしていたことなど。諜報員として動き始めたのは今年からだけれど子育てに悩む人たちを助けることはできるから時々行って居たのだ。
実は出産にも幾度も立ちあった。衛生や出産環境を整えることで、子どもの生存率も高まっている。
助ける人の無い孤独な出産と子育ても、地上に隠れ住んだ人たちの帰還率の低下に繋がってたんじゃないかと思うんだよね。
「希望と共に戻ってきた若夫婦は、子の笑顔と共にその知識で我らを照らしてくれております。最近では彼らを見て地上行きを希望する者も多く、選抜に嬉しくも悩ましい悲鳴を上げております」
「子を得ることを諦めていた年嵩の者達も願い出る事が増えておりますからな」
コミュニティに残っている人達は純血に近いとか年齢的に難しいとか事情の在る人が多い。でも逆に言えばそういう人たちこそ子どもを欲している訳で、安全がある程度担保できるのなら最後の望みを賭けたいと願う気持ちも解らなくもない。
「アインツ商会の村が建設されたことにより、地上行きを諦めていた我々にも門戸が広がりましたからな」
そうおっしゃるのは巨人族の長。
身長2メートル強。天井の高い大広間だから頭をぶつけたりすることはないけれど、本当に大きい。親方も相当大きかったけれど、最大だと2.5m近くになる人もいるんだって。
「左様。今まで単独で潜ませるのはあまりにも難しく希望に触れる事も出来なかった我々にも光が差した。子らの笑顔が郷に響くなど今まで考えもできなかったからな」
「我も同じだ。いかに技術を高めても繋ぐ者がおらず、いずれ朽ち果てて行くしかないと思っていた我らが希望を手にすることができた。
それだけでも現魔王陛下と姫君に忠誠を誓う理由になる」
小人族の長、地獣族の長も同意を返す。
小人族は逆にホントに小人。身長30cm前後。巨人族の長はおろかお義父様でも掌の上に乗せられる。三角帽子が可愛らしい印象だけれど、長は年配の男性。白くて長いひげがサンタクロースのようだ。
地獣族は身長1メートル弱。小人族がなければ、小人でも通りそう。
ずんぐりむっくり。地下都市のようなものを作って鉱山とその加工で生活しているのも、向こう世界のドワーフそのものだ。
魚人族の方達は地上に立つことそのものがあまり得意ではないらしいけれど、パーティに頑張って参加して下さっている。
長耳族よりもさらにトゲトゲした耳と魚のエラのようなものが指の間に生えた水中特化の身体。長いスカートやパンタロンに隠しているけれど足も鱗が生えておられるんだって。あ、足は基本的にある。二本脚に鱗とエラがついている感じ。水中呼吸と地上での生活両方できる体内構造は興味深い。調査とか検査はできないけど。
この三種族と魚人族は特に種族の数が少ない。
アインツ商会の拠点ができるまでは地上に足を踏み入れる事さえ叶わなかったから。今は少人数だけれど受け入れが始まっている。
拠点でも隠れ住むしかないけれど、多少は息ができる環境ができたから。
「各種族の皆様にはアインツ商会の商品作りにも協力して頂いております。他の商会に真似のできない品ぞろえの数々は方々の協力あってこそですから」
人に近い種族が外交を担当し、外に出られない種族が商品作りなどを担当することでコミュニティは運営されている。
巨人族や獣人族が畑仕事などの力仕事を担当し、地獣族や小人族が細工物などを行う。特に最近は小人族が作るレース編みや刺繍などは人の手ではできない程に細かい細工が上流階級に人気で引っ張りだこだったりする。
魚人族は水系の魔法に長けた人が多いので水質管理や化粧品作りに力を借りているんだよ。
「アインツ商会の成功は魔国の力と価値の証明。
魔国は決して人国が蔑むような存在ではなく、むしろ優れた種族なのだということはいずれ彼らにも知れる事でしょう。お義父様がおっしゃるように、今回の人国からの侵攻を機に、正式な国交などを樹立し、魔国の民が恒久的に安住していけるようにしたいと思っております」
これが魔国側が
「人国を滅ぼし、地上世界を遍く我らが物に!」
なんてことを望むような存在だと面倒な話になるのだけれど、少なくとも今の所、表向きだけでもそういうことを表明している種族はいない。
勿論、色々な意味で人国には怨み骨髄のようだから、最終的には人を全滅させて地上を魔族のものに、という意図を持つ存在がいない、とは言えないのだけれど、それは止めればいい。
その為の力も立場も貰っている。
「どうか、皆様の御力をお貸し下さい。
私は人国の力無き小娘でしかありませんが、様々な種を認め、受け入れてくれてくれる魔国を愛しています。そして守っていきたいのです」
口から出てきたのは作者としてではなく、この世界に生まれたステラとしての言葉と願い。それを族長の皆様方も否定せずに受け入れてくれた。
私は魔国王女としてのお披露目を通して。
やっと、この世界の住人として受け入れて貰った。認められた。
そんな手ごたえをはっきりとこのパーティで感じたのだった




