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魔国 新しい仲間

 魔王様の宣言の後、宴席は本当の意味で和気藹々としたものになった。

 各種族入り混じっての無礼講のような場に。


「やはり、今代の魔王陛下は近世稀なる才器。我らが忠誠を誓うに値する御方だ」

「皆がそれに応えてくれると信じるからこそだ。

 これからも期待しているぞ」

「無論。如何様にもお使い下され」


 ご機嫌な顔で盃を傾けていらっしゃるのは獣人族の族長クセルナクス様。

 我が子が小娘に瞬殺されたというのに怒る様子もなく、むしろ楽し気な笑顔で魔王陛下、お義父様と杯を合わせていた。


「クセルナクス様。自分で倒しておいてなんですが、いいんですか?

 若長を倒したことで、獣人族のプライドが傷つけられた。とかはないんです?」


 戦闘種族のトップに立つ獣人族の、さらに族長だからライオンの外見と相まってなんだか勝手に自分の強さにプライドを持つ戦士のイメージだったけれど。


「ふん。負けたくらいで傷つくプライドなどそれこそ、獣に喰わせてやればいい。

 戦場ではそんなもの何の役にも立たないからな。生きるか、死ぬか。ただ、それだけだ」


 獣人族の族長閣下は、そんな甘い考えなど鼻で嗤う、本当の意味での戦士だった。


「油断を付かれ、寝首を掻かれ。死の間際に卑怯だ、ズルいと喚こうと意味はない。

 どんな状況下でも立ち回り、生き残り、大事な者を守り抜けるくらいの強さが『戦士』には必要なのだ」

「先代の魔王陛下は、クセルナクスの姉上だ。戦の最中、配下に裏切られ、殺められた。」

「!」

「姉上は技も力も私より上だった」

「故に奴は知っている。一瞬の油断が戦場では死に直結するとな」


 だから、我が子の慢心を憂慮し戦の前に荒療治に出たのかもしれない。

 きっとお義父様もグルだね。挨拶の順番とかも計算の上だ。


「ジャハーンは資質もクラスも悪くないが、実戦を知らない世代だからな。

 素質が高い故に下手な大人が止められず、鼻っ柱も高くなっていた。

 だからお気になさるな。むしろへし折って頂けて感謝する」


 決められた王族が国を治めるのではなく、どの種族であっても関係なく、男女の差もなく王の器であれば王になれる可能性がある。というのは逆に合理的かもしれない。

 人国という明確で、強大な敵の存在もあるから、それぞれに思惑や狙いを持つ各種族も国の存続と未来の為に協力を惜しみはしないし、指導者である王がそれなりの器を持つと思えば素直に協力もする。

 完全な思考を統一した一枚岩ではないけれど、そういうのはかえって怖いしこれくらいが丁度いい気がするな。


「父上……」


 談笑するお二人の元に、ジャハーン様、獅子の若長が近寄ってくる。

 解りやすく意気消沈していて可哀相なくらいだ。


「頭は冷えたか? ジャハーン」

「父上。身の程も、場所も弁えずに喧嘩を売り、敗北。

 獣人族の顔に泥を塗る結果となり申し訳ありませんでした」


 長の前で両膝を付き、胸の前で手を祈るように組むジャハーン様。

 周囲の人たちがちょっと驚いたような顔をしているのはきっと彼がそういうことをするタイプではないからかな。

 あと、この世界的に土下座に近いのかもしれない。


「謝罪を要するのは私ではない。頭を下げるのであれば、陛下と姫君に致せ」

「はい。

 姫君。ならびに魔王陛下。

 この度は大変なご無礼を致しました。心よりお詫び申し上げます」


 さっきまでの良い意味での元気さ、悪い意味での傍若無人さは鳴りを潜め、なにかこう覚悟したような座った眼差しが気になる。


「姫君。魔王陛下。

 この者の処分は、お任せいたします。無礼を許さぬと仰せなら、この場で命を断ち償わせても結構。恨み言は申しません」

「え? 要りませんよ。謝罪なんて。

 そもそも戦の前に魔国の最大戦力の一つである獣人族の若長の命を取ったりしたら大打撃じゃないですか?」

「御恩情感謝いたします。ですが、これだけの騒ぎをしでかしたのです。

 どうか、何かしらの罰は与えて頂きたく」

「勝負を仕掛けられたのはお前で、勝ったのもお前だ。処罰はお前が決めるがいい」


 パパ上,Sがホッとしたような笑みを浮かべながら告げた。

 私が命を取るなんて言わないのは計算の上で申し出たのは解ってる。

 でもこれだけの、しかも国のトップがいる前でやらかした大チョンボ。

 なあなあで許してしまうのも確かに良くない。信賞必罰は国の基本だ。


「じゃあ、私がこき使うってことではどうでしょう?

 とりあえず戦までの間、私の魔国での専属護衛って形で城や外出の護衛をして貰います。

 その間アドラール様やロキシム様に色々と鍛え直して貰って、礼儀作法とかも学ぶといいと思います」

「え? 俺が王宮に?」


 俯き落ち込んでいたのから一転、顔を輝かせるジャハーン様。

 その様子を見て御父上は苦笑している。


「姫君。それはあまり罰にはならない。これは王都に行くことをずっと望んでいたからな」


 解る。そんな感じのこと言ってたもんね。


「でも、子どもがこのまま我が儘の効く場所に居続けるのもあんまり良くない気がします。

 厳しい外を知って揉まれるのは必要だと思います」

「姫君は構わないのか? 自らに無礼を為し、あまつさえ命を狙った子どもに自らの護衛を任せると?」

「別にジャハーン様が悪い訳でも……多少はありますか?

 でも、気にしてませんし、いずれ、ジャハーン様には魔国の将来を担って頂く訳ですし。

 それに魔国には子どもが少ないですから、新しいお友達ができるのは大歓迎です」


 それにある意味、お父さん,Sの策略に嵌った犠牲者とも言えるし。

 とは口に出さないけれど。


「まだ10歳になるやならずにで外に出すのはまだ早いと思うのだが……、これも私への罰か。まあ、アドラールがいるから、心配するまでのことにはならんだろうが……」


 え? ジャハーン様、10歳? 私達と同じ歳?

 獣人族って凄いね。絶対に2~3歳は上だと思ってた。

 驚きを必死で隠す私の前でクセルナクス様がジャハーン様に問いかけた。


「お前は、どうしたい? ジャハーン?」

「父上?」

「姫君に忠実に仕え、御身を御守りする覚悟はあるのか?」

「あります! 命に代えても御守りします!」

「ならば、姫君。

 お言葉に甘えさせて頂いても良いでしょうか?

 愚息をお預け致しますので煮るなり焼くなりご自由に」

「ありがとう! 俺、一生懸命頑張るから!」


 跳びあがって喜ぶジャハーン様は私の手を握ってぶんぶんと降る。

 ホントに男の子だあ。

 と思っているとすかさず父君の拳骨が落ちた。


「王女に気安い! 言葉遣いも! 今度こそ無礼討ちされても文句は言えんぞ!」

「そんなに気にしないで下さらなくてもいいですよ」

「いえ、これは臣下としてのけじめです。ジャハーン。姫君に忠誠を誓え。

 遊びでは無いのだからな」

「はい。獅子の名に懸けて魔国の姫君に、心からの忠誠を。

 俺を破る力を持つ『王になる者』に我が身命を捧げます」


 この辺は臣下としてきっちり叩き込まれているのだと思う。

 獅子の若長は改めて私に膝を付き、忠誠を誓ってくれた。

 思わぬ始まりからだったけれど、私達はこうして頼もしい仲間をまた一人、手に入れたのだ。



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