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魔国 獣人族族長の提案

 人の身体に獣の頭を持つのが、魔国で獣人族と呼ばれる種族だ。


 動物の種類は様々。熊だったり、獅子だったり、馬だったり猫だったり。兎や犬頭の方もいるけれど、ネズミとかあからさまに弱い獣は見ないような気がする。もしかしたらいるのかもしれないけれど。

 一番よく見かけるのは猫族で、虎、豹、猫など。犬族も魔王宮の護衛でよく見かける。

 狼とかハスキー犬のような精悍なタイプが多い。

 でもライオンは始めて見た。手入れのいい、金色の長い鬣が肩口から流れるように靡いている。獣なのは頭部だけで身体は人間のもの。丁度、人間の身体に獅子の頭の被り物をしたような感じに見える。

 筋肉は隆々。逆三角形のがっちりとした筋肉をブレストアーマーをベースにした黒い装束が覆っている。


「いい加減にしろ! この物知らずが!」

「若長!」


 ちょっとビックリして瞬きする私にツカツカと歩み寄った獅子頭の青年は、魔眼族長と会話中だった私の手を、ぐいっと引っ張って引き寄せる。

 えーっと、会話中の魔王の王女の邪魔をするのは、無礼じゃないのか?

 あ、手は人間なんだね。私の二倍はありそうな太くてがっしりとした筋肉だけれど、思うよりも若さを感じる指をしている。

 喉元まで出かかった言葉を呑みこむと、目を閉じて、また開いた。

 噛みつかれそうな、喰われそうな距離に迫った獅子頭のステータスが見えるのだ。


『獣人族若長 ジャハーン』


 獣人族の若長。そう言えば、使者として伺った時にも顔を合わせたっけ。

 あちらは多分、私を認識していなかったのだろう。

 ただの使者、使用人としか見ていなかったと思う。


「暫し、お待ちくださいませ。ジャハーン様」

「ん?」


 ちょっと怖かったけれど、冷静に掴まれた左腕を振り払って周囲を見る。

 私の後ろにいて、あいさつ回りを見守って下さっているお義父様やお義母様を見れば、そんなに焦っていない。

 むしろ、困ったもんだ、というような子どもの喧嘩を見る眼差し。

 ということは、害もそんなに無いということでしょう。

 焦らず、騒がず一度彼の手から逃れルシャンドル様の前に膝を折った。


「会話の途中でご無礼を致しました。良ければまた後程、ゆっくりとお話をさせて下さいませ」

「相解った、其方も大変だな」


 苦笑交じりの労いを受け取ると、私はルシャンドル様に会釈をしてから踵を返し獅子頭の男性の横をすり抜けその背後の、コミュニティに顔を向け、膝を折った。


「ご挨拶が遅れ申し訳ございませんでした。魔国の偉大なる護りの要。

 獣人族の皆様」


 俺を無視するな、と言わんばかりの眼差しで私を引き寄せた若獅子は睨んでいるけれど長への配慮が足りないのなら、先に謝罪して挨拶すべきは族長方々だろう。

 私の対応は間違ってはいなかったようで、獣人族の方々の私を見る目は、若長が言う程に厳しいものではない。


「うむ。丁寧な挨拶痛み入る。新たなる王女よ。

 何事にも始めが在れば終わりも在る。あまり気にするな」


 集団の中でも一際目立つ体躯の方が、私の方に進み出て来る。

 この方が多分族長様だった筈だ。


「寛大なご配慮に感謝申し上げます。

 本日は、このような高き場にてお目にかかることが叶い、誠に光栄でございます。私はセイラ。人国より魔王陛下の温情によって迎え入れられ、若輩の身ながらこの場に立つことになりました」


 鷹揚に、でもどこか柔らかく風格さえ感じる笑みを浮かべる獣人族の多分族長は私の挨拶と謝罪を受け入れてくれた。


「本日、こうして皆様とご挨拶を交わせることを、深く喜ばしく思っております。

 今後とも、国を支える皆様と協力し、我が国の繁栄と安寧のために尽力してまいる所存です。未熟者ではございますが、どうかご指導、ご鞭撻のほど、よろしくお願い申し上げます」

「なかなかの口上だな。我が息子より年下であろうに立派なものだ」


 態度も想像していたより、ずっと優しい。


「一度キレるとこのような場でさえ癇癪を抑えきれぬ若輩者よりもよほど王気を感じる」

「父上!」


 父上、と呼ばれる通り族長も、若長と同じ獅子の頭をした獣人だった。やっぱり、百獣の王、だからかな。

 凄く大きく見えた若長も族長と並ぶと二回りは小さな若獅子に見える。

 巨人族ではないのに身長190cmはありそうな見上げる巨躯。

 豪奢で丁寧な作りの上衣の下からは石壁みたいに太く厚い筋肉パンパンな胸板が覗いている。両腕、両足も下手な葡萄酒樽より大きい印象。私なんか、あの足を振り下ろされたら一瞬でぺちゃんこにされてしまいそうだ。

 集団の中で獅子頭の方は数人。片手で収まるくらい。

 きっと族長の一族なのだろう。

 ひるまない、怯えない。

 私達は魔王様の臣下、という意味では対等なんだから。

 顔を上げ、挨拶を交わす。


「獣人族族長 クセルナクス。

 新たなる王女よ。よろしく頼む」

「こちらこそ、非才、未熟の身。皆様方の御力を賜りたく存じます」

「父上! そんなにあっさりとこの者を次期王として認めるというのですか!」


 せっかくいい感じに纏まりそうだったのに、若長が膨れながら茶々を入れて来た。

 さっきの乱暴行為といい、今の膨れっ面といい、獣人の年齢は解らないけど、実は割と子ちゃまなのかもしれない。この若獅子。


「父上だって、『新しい王の後継者か。我らが命と拳を預けるに相応しいか否か、見定めるとしよう』とおっしゃっていたではありませんか!

 こんなちんちくりんの小娘が我らの上にしたり顔で経ち命令するなど許せることでは……!」

「お前には、解らないのか?」

「え?」


 はあ、と腕を組み息を吐きだした族長様。同意の感じではなく、むしろ我が子の態度に呆れているような?


「……ならば、試してみるがいい。ジャハーン」

「「え?」」

「王女。すまぬがこ奴の相手をしては頂けぬか?」


 思わぬ提案に私は目をぱちくり。

 獣人族の族長様の口から、まさか『そんな提案』が出て来るとは思わなかった。


「式場を荒さぬ程度で構わない。

 一度、痛い目を見れば之も頭が冷えるだろう」

「私が! この人族の娘に負けるとでもいうのですか? 父上!」

「陛下。一時、祝いの場を汚すことをお許し頂きたく」

「許す。その方が、皆も納得がいくだろう」


 お義父様達の方を見ると笑って頷いている。これは、受けてあげなさいって流れ?

 でも不思議だね。

 この口調、この会話。

 お義父様はともかく、族長も私が若長に負けない、って解っている言いっぷりだ。

 戦闘種族のトップに立つ方。

 人間の養女風情と見下して、何なら若長と同じことをやってきてもおかしくないと思っても不思議はないのに。

 何をそんなに見込んで下さったのだろう。


「勝てるというのなら勝って見せよ。それが叶ったらお前も望み通り、王都に出してやる」

「! その言葉、お忘れめさらぬよう! 小娘! 勝負だ!!!」


 向こう風だと手袋を投げるか、果たし状を突きつける感じかな。


「解りました。では、僭越ながらお相手させて頂きます」

「! 本気で俺とやり合うつもりなのか? そして勝つ気なのか?」

「胸をお借りいたします」

「ロキシム、審判を」

「承知いたしました」


 静かに頭を下げる。

 勿論、本気で戦ったら私の負けだ。即死もありうるレベルで戦士としての鍛え方が違う。

 でも。

 多分、負けなくていいのだったら問題ない。


「刃物などの武器はなしで。私は、魔術を使いますがよろしいですか?」

「貴様のような小娘相手に武器などいらぬ! 魔術師相手であろうと、一対一の至近距離であるのなら対応できる訓練もしている」

「では……」


 広間の中央の人々がザザッと、潮が引くように周囲に退いて、ぽっかり開いた中央に私と若獅子が向かい合う。

 開いた距離は3mほど。

 彼の筋肉と動きであれば、瞬きの間で詰め寄られ勝負は決まる程度距離。

 逃げ場もない。

 そう。

 事は一瞬で決まる。


 お義父様が、すれ違いざま、私の手にそっとあるモノを落としていく。

 私が使者として各領地を巡った時に、御命令で持ってきたものだ。

 こういう場で使う事になるとは。

 お義父様は予想しておられたのかもしれないけれど。

 私はそれを後ろで隠して、ぎゅっと手の中に握りしめた。


「始め!」

「うおおおおっ!」


 ロキシム様の言葉と同時、一直線に私に向かって突進してくる若獅子。


 彼の前で、皆の前で、私は静かに目を閉じた。


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