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魔国 養子お披露目の儀

 翌日。

 大広間の扉の前で、私は式の開始を待っていた。

 いよいよ今日は魔王陛下との養子縁組のお披露目本番。

 私にとっては初めて魔国の国家の公式行事参加でもある。


 招待状を私がお届けしただけでも主要、九種族のトップと、そのご家族が来ている筈だ。

 主要九種族というのは獣人族、竜魔族、魔眼族(三眼族もここに入る)魚人族、有翼族、長耳族、地獣族、巨人族と小人族。そこから派生した部族もあるので最終的にはもっと多いけれど。

 側近とか付き添いとかを加えたら多分もっとたくさんだから、最終的にどのくらい来ているんだろう? 教えて貰っていないから解らない。

 まあ何人いようが同じこと、私は彼らの上の存在として立たなければならないというのは変わらないのだから。

 もっとガチガチに緊張するかと思っていた私の心は、意外なくらい静かで、良く言えば落ち着いて悪く言うと開き直っている。


「随分と落ち着いているのね。生まれながらの王族でもデビューの日になかなか、そんな顔はできないわ」

「リュドミラ様……」


 衣装の着付けと付き添いを申し出て下さったリュドミラ様が私に、笑いかけて下さる。

 リュドミラ様は、今回の式典には参加できない。一応、まだ敵国の捕虜扱いだから。



「今まで使用人扱いだったのが、いきなり王の養女。しかも貴族の前でのお披露目だから、緊張するかなって、思って手伝いなんか申し出て見たけれど。やっぱり凄いわね、貴女」

「緊張は、してますよ。胸もバクバク言ってます。

 ただもう、ここまで来たら心配しても無駄、なるようになる。って思って」


 昨日までは実は色々、うだうだぐだぐだ悩んでしまっていたのだけれど、継承の間から戻って一晩寝たら、妙にすっきりしたというか頭が冴えたというか、吹っ切れたというか。

 とにかく悩みが消えて、やる気が出たのだ。

 今も、胸の奥が熱くなって力が湧き出てくる感じ。魔王陛下ではないけれど、歴代魔王様達が力でも分けてくれているのかもしれない。


「それは、とても正しい考え方だわ。いくら悩んで準備を整えたつもりでも、王侯貴族相手には役に立たないことが多いから。怯まず遜らずに前を向いて。

 第一印象で良い所を見せれば、後は結構なんとかなるものよ」


 魔国以上に魑魅魍魎が跋扈する人国の社交界で、王女を張っていただけあってリュドミラ様のアドバイスには説得力がある。


「魔国の審美は人国のそれとは違うといわれたけれど、今日の貴女はとても愛らしいし、ドレスも良く似合っています。流石王妃様のお見立てね」


 私が今着ているのは昨日の夜、魔王陛下と『継承の魔方陣』に行った時と同じ。

 黒のドレス。

 魔王=黒のイメージは安直だと思うけれど、魔国では『黒』は『神』と繋がる神聖なものとされているから、正装では黒を身に纏うのがお約束、なんだそうだ。

 魔王陛下の瞳も黒だし、私もそう。

『神の真名子』など黒髪、黒い瞳だ。リュドミラ様もそうだし、今日は参列者も全員、黒を身に纏うそうなので、そういうものだと思って開き直るしかないね。


「セイラ、準備はいいですか?」

「そろそろ始まりますよ」

「ありがとうございます。よろしくお願いします。ロキシム様」


 今日のエスコート役はロキシム様。

 黒のタキシード風味のスーツがもう見惚れるくらい良く似合っていらっしゃる。

 魔王陛下と王妃様は、式場の最奥で待っていらっしゃる筈。

 魔眼族の長の息子でいらっしゃるロキシム様は、そんな身分差が明確ではない魔国でも高い地位にある。実はアドラール様よりも上位なのだ。

 今回は私の為にエスコートを名乗り出て下さった。

 入口から魔王陛下の元まで一緒に歩いて下さる。

 普通は実の親だったり、兄弟親戚。あるいは師匠などが行う。親方かアドラール様かロキシム様ってなった時、一番身長のバランスが良かったのがロキシム様なのだ。

 ウォルは無位で子どもだし、シャルル王子は人国の王子だからどちらも参加できない。


「エスコート役は今後の後見人、みたいな役割になるから俺がやってやりたかったんだが、ロキシムの方が、上には睨みが利くかな?」

「ご面倒をおかけしてすみません。」

「私にも、魔眼族にも利益はあるのでお気になさらず」


 だって。

 あまり階級差が無いとは言え、やはり貴族や王族は色々とめんどくさいなあ。


「いってらっしゃい。セイラ。

 貴方の魅力と力で、皆を骨抜きにしてらっしゃいな」


 涼やかなチャイムのようなベルの合図と共に大きく開かれた大広間のドアをロキシム様に手を取られて潜る。

 と同時、少し目が眩んだ。今まで自分がいた世界とは『違う世界』の煌めきに。


 魔国は地下資源が豊富なので、石材や宝石、金銀などは割と手に入る。

 だから魔国の王たる魔王宮はかなり豪奢な作りなのだけれど、大広間はその中でもさらに豪華絢爛な作りをしていた。

 体育館よりも広い広間全体を眩く照らすシャンデリア、繊細な彫刻が施された壁や柱。

 床にも美しいモザイクの文様が刻まれている。


 そして会場を埋め尽くす予想以上の数の人。人、人。

 全員黒服に身を包んだ魔国の主要種族が百人以上、もしかしたら二百とか、三百とか、もっと?

 一気に私を見つめるのは圧が凄い。

 視線は全て私を向いている。子どもであるからか、微笑ましく見て下さる方もありがたくもいるけれど、多くはどこか値踏みするような眼差し。

 当たり前だよね。

 敵国である人国出身の、ほんの少し前まで使用人待遇だった娘が、これから王女として自分達の上に立つのだから不平不満は絶対に出る。誰もがロキシム様のように朗らかには迎えてくれる筈もないもん。


 本来は舞踏会などが行われる平坦な部屋だけれど、今日は最奥に一段高い小さな舞台のようなものが設えてあり、その上で魔王陛下と王妃様が待っている。

 そう待ってくれているのだ。


「行くよ」

「はい」


 だからこそ。顔を上げて進みだす。

 ロキシム様に手を預けつつ、真っすぐに俯かず、背筋を伸ばす。

 叩き込まれた礼儀作法を思い出しながら優雅に軽やかに。子どもらしさを失わないように進み行くと、表向きかもしれないけれど、見下すような眼差しは少なくなったように思う。

 うだうだと悩んでいる暇はない。

 私は魔国で生きて行く。そうして、この世界を少しでも良い世界にする。

 作者として、王女として。


 自分で決めたことなのだから、前進あるのみ!


 大広間の中央に敷かれた蒼い絨毯の上を歩いて、私は一番奥に設えられた段の前に歩を進めた。励ますように頷いてくれたロキシム様の手を離し、祭壇前の階段をゆっくり登って魔王陛下。

 お義父様の前に辿り着いた。

 カテーシーの後、膝を折り、手を祈りの形に組んだ。


「昨日より、輝きを増したように見えるな」

「歴代王陛下のお導きでしょう」

「そうだな。やはり、私の目に狂いはなかった」


 満足したような笑みで私を見た陛下は、腰に帯びていた剣を抜き私の首筋に当てた。

 儀式用ではなく、本物の、しかも実戦用の剣。

 ぎらりと底光りする鋼の刃は、触れなくても解るほどに重みが感じられる。

 もし陛下が軽くでも剣を動かせば、首が落ちるだろう。

 けれど決して怯えるな、と言われているから逆に首筋を預け、顔を上げ魔王陛下と視線を合わせた。

 この儀式には自分の命の全てを預ける、預かるという意味があるのだと聞いた。

 魔王は国と民の為に最前に立つ者。

 国の僕。それを理解できない者は、決して魔国王には成れない。


 首筋、眉間を剣で突き、最後に心臓の上に刃を当てると契約印から金の光が流れるように陛下の元へ剣を通じて注がれる。

 光を宿した刃に口づけした陛下は、光ごと剣を腰に帯びた鞘に戻すと私に向かって宣言する。


「今日、この時を持って汝を王家の一員として、迎え入れ、身命の全てを預かる」

「非才なこの身の全力を持ちまして務めを果たします」


 もう契約そのものは済んでいるから、後は王妃様が魔王様に手渡した小さな銀のティアラを頭に乗せて貰って終わり。

 私の手を取り、立たせた魔王陛下、お義父様は集まった人たちに宣言する。


「今、ここに魔国の未来を担う『王女』が誕生した。

 魔国が更なる繁栄の時を迎えるように、皆にも支えてくれることを望む」


 ざわめき半分、拍手半分。

 満場の拍手と喝采に満たされて、という訳にはいかなかったけれど、こうして私のお披露目の儀式、は無事終わったのだった。


 あくまで儀式は、だけどね。



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