魔国 お披露目の前の下準備
私が魔国王の養女になったことをお披露目する会を半月後に行う。
と魔王陛下に言われたのは契約の儀式の後、直ぐの事だった。
「お披露目って、やらないといけないんですか?」
「後継者が決まった事を告知しておかないと、いざという時お前に民が従わぬだろう?」
「人国の小娘がって思われません?」
「王の指名は、基本絶対だ。『魔国王』は国の存在意義であり柱。異を唱えることは許されぬ」
とはいえ、歴代には逆らった者も数多くいる訳だけれど、彼らは一人残らず報いを受け、過ちを命で償ってきた。
我こそが次代の王とならん、と挑む者も前はいたらしいけれど、魔王陛下の即位から約十数年、全てを返り討ちにした今は表立つ者はいない。自分の子孫を後継者に選んでもらおうと王城に入れた一族も多いけど、魔王陛下は全員追い払ったという。
「だから、まあ、当然後継者候補がお前であることに不満を持つ者はいるであろうな」
「私は継承権三位ですし、ディオルグ君が成人するまでの繋ぎですよね」
継承権の一位は王妃様、二位は空位で将来的にディオルグ君が成る予定。でも。
「甘えたことを言うな。
ディオルグが王位を望まぬ可能性もあるし、使い物にならない、その前に死ぬ事さえある。だから、むしろお前が王妃やディオルグを支え、守るくらいでなければ困る」
魔王陛下が直々に指名した次期魔王候補。
事実上の継承権一位だと思って胸を張れ、と言われた日には偉い事を引き受けてしまった、と頭を抱えたものだけれど、自分で決めたことだし、逃げるつもりはない。
「歴代魔王のうち三分の一は女王だ。力さえあれば女であろうと文句を言う者はいない。
故にお前が、自分の力で王の後継者に相応しいのだと示して黙らせろ」
「魔国の方々を納得させるだけの力は、私には無いと思うのですが」
「力とは、肉体に宿るものだけではない。頭と能力を使え。サクシャ」
ああ、なるほど、と納得した。
そういう事なら、できるかもしれない。
「では、義父様。お願いがあるのですが……」
そうして、私はお披露目までの間に『色々』な準備を行った。
まずリュドミラ様にもお願いして付け焼刃だけれど、簡単な術を教えて貰った。剣術や体術も諜報員になる時、少し学んだけれどまだ実戦で使えるレベルじゃない。
だから、即効性の高い魔術を護身術の代わりに学ぶことにしたのだ。
「魔王陛下のおっしゃるとおり、確かに貴女には魔術の才能があるようね」
「というか、貴女、一介の使用人だって言ってたのに、なんで膨大な魔術系統を全部理解しているの? 魔国は使用人の娘にそんなことまで学ばせているの?」
ってカロッサ様には目を丸くされたけれど。
私が魔術系統を理解しているのは、そう設定したからだ。
火系、水系、氷系、電撃系、地系、風系。回復系なども含め。
小説を書くにあたり、呪文は系統立てて、用意してあった。
通常、一人の人間が普通、全ての系統呪文を使えるようには設定していないけれど努力と才能があればできないことはない。
中ボスとなる魔女王リュドミラは、本ボスに操られリミッターを解除されてからは回復を含む全呪文を使えるようになっていたし。
私も魔国人になってからはリュドミラ様に教えて頂いて、初級呪文くらいは使えるようになった。リサも一緒に勉強して着火とか水を空中から汲むとかはできている。
これに関しては暇を見て勉強を続けてもっと上を目指したい。
そうそう。
リュドミラ様の家は今、人国勇者一行の魔宮探索拠点になっている。
前も言ったけれど、シャルル王子達は魔国の支援を受けて、魔宮の探索を行っているから。
二十五階まではテレポーターを使って魔国側から攻略した方が、食料その他の面で効率がいい。聖女が戻ってから、彼らは一度一階まで戻り、テレポーターを二十五階まで解放。
そこからは、魔国のリュドミラ様の家をベースキャンプにして、ほぼ日帰りに近い形で、彼らは『神の塔』の攻略を続けていた。
行き来の分時間ロスはあるけれど、冷たい迷宮で寝泊まりするよりも暖かいベッドで眠れる方が体力面でも良いらしく、探索ペースはかなり上がっているようだ。
「セイラ様、この度はお世話をおかけしました」
そう丁寧に挨拶してくれたのは、勇者一行に同行していた『聖女』リーゼラ様。
八歳だというのに、凄く純粋で賢そうな子だった。ふわふわの茶髪に、はしばみ色のくりくりとした丸い目。アドラール様達にも怯えた様子を見せず、むしろ可愛らしい笑顔を見せてくれた。
ベルナデッタ様も褒めていたくらいのいい子。
「私は、魔国は人の言葉も通じぬ獣の国、と教わっていましたが、今はそれが過ちであったと理解しております。叶うなら、もっともっと魔国について知りたいです」
って潤んだ眼差しで言ってくれて。
「もし許されるなら、僕らも魔国についてもっと知りたい。敵としてではなく、共に生きる同胞として学びたいんだ」
と願い出たシャルル王子達と共にリュドミラ様の家に下宿している。
魔宮探索の無い日には神殿でベルナデッタ様について治癒術を学んでいるとも聞いた。
王子達も魔国で、ウォルと一緒にアドラール様達と戦闘訓練をしているんだって。
シャルル王子達は『勇者』ではあるけれど、実戦経験が少ないのでまだ、アドラール様や魔王陛下には物理的に叶わない。体格なども獣人族の成人であるアドラール様とは全然違うしね。だから今は稽古を『つけて貰って』いる。
「今は、魔国に借りるばかりだけれど、いずれこの恩はお返しする。例え、兄上達や父上に逆らってもね」
そう言って下さったのが頼もしい。
「君が魔国王の後継者になる、というのは驚きだけど意外って程じゃない。王女を預けて下さる魔王陛下の信頼に応えるようにがんばるよ」
そうして、私は現在、魔王後継者としての教育の真っ最中。
今まで使用人として学んできた礼儀作法をワンランクアップさせて上に立つ者、としての応対を学ぶ。国内の勢力図とかも改めて叩き込まれた。
さらに、私は各地の種族にお披露目の儀式についての報告に回る仕事にも就いている。
王宮の使者として各地の有力種族様達の館へ、アインツ商会から送って貰った地上の産品や、砂糖など祝いの品として持って挨拶回りするのだ。
「陛下がようやく後継者を定められたか。
これで魔国も一安心だ」
と歓迎モードの所が多い。
魔眼族とか、三眼族、有翼族とかあんまり戦闘向きではないとかは、今の魔王陛下の治世を歓迎しているからね。地獣族は最近仕事が増えたと大喜びしているし。
でも獣人族とか、竜魔族とか、巨人族とか一部の好戦的な種族の方は
「後継者が次期魔国王に相応しいか、この目で見定めてやろう」
ってにやにやしていた。
目の前の小娘が後継者候補とかは、考えもしないらしい。
でも魔王陛下の指示に従って動くたび、深慮遠謀に頭が下がる。
ホント、エグい。
私のお披露目をきっかけに、好戦的な戦闘種族の方も完全に黙らせるおつもりのようだ。
「まったく、陛下のお考えは解りますが無理をさせ過ぎだわ」
「まあ、でも一度行ってしまえば、転移術で割と簡単に戻って来れますし」
「それでも、あまり出歩かせないで欲しいものよ。ドレスの準備や教育などの計画を組み直すのも大変なのよ」
王妃様、基、お義母様には言われたけれど。
「すみません。色々とご迷惑をかけて」
「まあ、娘ができるのも、子どもの為にいろいろしてあげられるのも、楽しいからいいのですけれどね。準備その他は任せて、貴女は当日、自分の役割をしっかりと果たすことに専心なさい」
私を養子にするっていうことは、転移陣での騒動が在る前から、実は陛下と王妃様の間では話し合っていたことなんだって。ドレス、アクセサリーなど時間のかかるものの一部は既に手配が為されていたと知ってちょっとビックリ。
断っていたらどうするつもりだったんだろう。
「貴女は元が、色々な意味で良いから、準備などは楽で助かるけれど。
王女となれば『また』狙われますからね。気を付けなさい」
「はい」
甜菜の発見や、化粧品、石油の開発などなど。
ここ近年の魔国の国としての変化躍進の影に私がいることは、知る人ぞ知る、って感じで隠してはいなかったのだけれど、逆に個人的に手に入れよう、と考え、手を伸ばす者もどうやら、いたらしい。
そして、国に価値を齎す『サクシャ』を囲い込み、守る為に水面下で陛下は色々と手を打っていて下さったようだ。
有力で信頼できる配下を保護者に付けたり、人国への派遣という形で遠ざけたりとか。
今度の養子縁組もその一環で、私のバックアップを魔王陛下が公式に行い広める事で余計な介入を封じる意味もあるとのこと。
転移術を私に習得させた事もきっと『これから』を意図してのもの。
怖い方だ、お義父様は。
でも。
「本当はもっと子どもらしく甘えさせてあげたいのだけれど」
「いえ、十分に良くして頂いていますから」
魔王陛下が、私に期待して、王族として迎え入れて下さるのだから。
少しでも役立つ娘でありたい。
だから、自分に気合を入れ直す。ここが正念場だ。
そうして、養子縁組から、約二週間後。
リュドミラ王女の追放劇から間もなく一月が過ぎようという日。
私は魔国王の養女として、後継者候補お披露目の儀を迎えることになる。
後戻りできない、魔王後継者としての人生の始まりを。




