魔国 新しい戦場と仲間達
魔王陛下との養子契約が済んでからは、暫くの間、慌ただしい日々を過ごした。
怒涛の洗濯機の中に放り込まれたタオルの気分。
今までの汚れとかを全部洗い落とされて、新しい自分になるような感じ。かな?
やることは、もう山ほど。
でも一つ一つ、熟していくしかないからね。
まず、一番にしたのは、ウォルとリサにも事情を話すことだった。
「また一人で勝手に決めて突っ走る!!!」
「本当に、心配してたんだぞ……。事前に一言くらい相談しろよ……」
「ごめんね……」
二人には思いっきり泣かれてしまった。
迷宮でいきなり意識を失って、連絡不通になって戻ってきたら王族、だもんね。
当然だ。
でも、二人にはお願いしなければならないことがある。
顔を上げて
「それでね。二人には、できれば私と一緒に来て欲しいんだけど……どうかな?」
落ち着いたところで、そうお願いする。
「一緒にって、王宮か?」
「王宮にも、だけど、それ以外にも……、できればずっと」
私はあくまで、魔王陛下の使い勝手のいい駒としての養女、王女なので王女でござい、とふんぞり返っている暇はないのだけれど、それでも側近は必要だと言われていた。
一番最初に思い浮かんだのは二人の顔。だから、スカウト。ううん。お願いに来た。
何でも自分でできるから、身の回りの世話とかはあんまり必要ない。
側にいて欲しいのは心から信頼し、何かあった時に相談できる仲間、だ。
「私の侍女と護衛待遇で王宮に入ってもらうのは勿論、魔宮探索も、人国に再度潜入することになった時も一緒に着いて来て貰う事になるんだけど」
「また人国に行くの?」
潤んだ瞳で問いかけるリサに私は頷いた。
「お前は一通りの教育と披露目が終わったら、人国に戻ってアカデミアに復帰しろ。やるべきことは、解っているな」
と魔王陛下。お義父様に命じられている。契約の時におっしゃったとおり、私の事は徹底的に使い倒すおつもりらしい。
「人国の襲撃前に、今度は本格的に情報を調べる予定なの。シャルル王子とも協力してね」
実は、今、シャルル王子一行は魔国にいる。
魔国のリュドミラ王女の家を拠点にして、人国の魔宮の探索を続けているのだ。
「我々は、魔国に関することに関して絶対の沈黙を誓います。
加えて人国の魔国襲撃にも一切加担せず、魔宮探索に専念。協力を頂く代わりに入手した成果の開示を行うこともお約束いたします」
聖女帰還後にシャルル王子。人国の勇者一行が出した結論はそれだった。
リュドミラ王女立ち合いの元、勇者一行は魔国の神殿に赴き、誓いの契約を交わした。
陛下が一方的に術をかけると、沈黙の誓い以外のものを混ぜられるかもしれないという危惧を払拭する為に、神殿という国は違っても同じ神を戴く者として『神官』に儀式を司って貰ったのだという。
シャルル王子が結論を出したのち、魔王陛下はシャルル王子一行に、魔宮に関して解っている情報をほぼ全て開示した。『神の塔』の十階にあった転移術を与える方陣の説明と破壊の事情も含めて全て。
「転移術……それを姉上と、魔王陛下が習得された、と……」
眼前にあった宝の価値に気付けず、目の前でみすみす奪われたことに関しては多分、思う所はあっただろう。けれど、シャルル王子はいつまでも固執することはしなかった。
「今回の件に関しては、僕達の実力不足が招いた結果です。元より、魔国側の支援が無ければエリアボスを倒すこともできず、仲間を失い、撤退どころか全滅の危機さえあった。
まだ、僕らには『神の遺産』を受け取る資格がなかった、ということなのでしょう」
自分達の実力を自覚して逆に、魔王陛下の前に膝を付き、頭を垂れた。
「どうか、未熟な我々に力をお貸し下さい。一刻も早く皆様と並び立てる対等の存在となりたい。その為になら僕は何も惜しみはしません」
「人国にとっては高い支払いとなるやもしれぬぞ」
「覚悟の上。魔国が人国を滅ぼすというのであれば、全力で立ち塞がりますが、共存を願って頂けるのであれば、その橋渡しをしたいと思っています。
例え、人国に裏切り者と誹られることになろうとも」
そうして、シャルル王子は魔王陛下と、約定を交わしたのだという。
・勇者一行は魔国側の情報を、魔国側が人国に襲撃を行わない限り、一切漏らすことをしない。人国側の情報提供を魔国側は求めないが、諜報員達の行動の制限や密告は禁止する。
・魔国側は勇者一行の『神の塔』探索を知識、技術両面から支援する。その代わり『神の塔』の探索で入手した成果、知識に関しては共有するものとする。
既に魔国側は『神の塔』から人国側が本来入手する筈だった通信石と、転移陣を奪取している。その気になれば勇者一行がまだ未熟な今、魔国側が『神の塔』を先行して成果を全取りすることも可能だったろう。でも
『塔の攻略には光と闇の勇者達の協力が必要、というのが『神』のお告げだ。
であるならば、協力し合う方が良かろう』
というのが魔国王様の御判断。魔国側が圧倒的に有利な位置にいるからこその提案であるけれど、情けをかけられたと解っていながらもシャルル王子は表向き、問題にはしなかった。
「魔国側にとって、僕らがまだ相手にもならない雛鳥であることは事実だ。なら、それを享受し今は進むしかない」
そう仲間達に告げ説得したのだとリュドミラ王女は教えてくれた。
ただ、『人国の王になれ』という陛下の提案には明確に首を横に振った、とも。
「僕は、魔王陛下のおっしゃるとおり、まだ未熟な『勇者』でしかない。『王族』としての見識を深め、せめて道具として使われる相手を見極める力を身に着けないと、民や国を不幸にしてしまうことも有りうると思うのです」
成果が出ても、出なくても開戦前には探索を一度終え、国に戻る予定だったので『私』の帰還までの間、探索を行い魔国の精鋭と訓練を行って実力をつける。
そして国に戻ったら改めて兄王達の思惑や、人国の未来について考え、学び、より良い方法を考える、という。
「その結果として、魔国王陛下の思惑通りになることもあるやもしれません」
とも。
「私は、人国でシャルル王子を助けつつ、開戦まで、場合に寄ったら開戦後も情報収集に従事して魔国の皆を、守るつもりなの。
一緒に来てくれるかな?」
「行く!」
ほんの僅かのシークタイムも無く、リサは私にそう答えた。
「いいの? リサにとっては初めての人国になるけど。しかも私のお付きみたいなことになるんだけど」
「行く! セイラと離れるのもう嫌だから。一緒に、ずっと行くの!」
ぎゅっと、掌を握りしめ私を見つめるリサ。王女になったからとか関係ない、さいしょから変わらない眼差しに安堵する。
「うん。一緒に来て。私がリサを絶対に守るから」
「心配しなくていい。リサとセイラは俺が守る」
「ウォル……」
そんな私達を黙って見ていたウォルが静かに思いを口にする。
「魔王陛下は、俺も王族にならないか、って言って下さったけれど、俺にはセイラのような知識も力もない、少なくとも今は足りないことが解ってる。
だから、王族にはならない。その代わり、王族になったセイラを守って国と王家を守る」
「いいの?」
「この間、神殿で正式に見て貰って俺のクラスも『勇者』だって解った。
シャルル達にもまだ届かない、未熟な『勇者』だけど。
成長していきたい。いつかあいつらと肩を並べられる『勇者』になりたい。
だから俺は、お前と一緒に行く。大切なモノを守る為に進むお前を、俺が守るから」
「ありがとう。ウォル。うん、お願い。
私の背中は任せるから」
そうして、私達は三人で手を握り、新しい環境と戦場へと足を踏み入れたのだ。




