魔国 主人公登場と 私のクラススキル
魔王陛下にだっこされている男の子。
年の頃は多分、3~4歳? 私と同じか、ちょっと小さく見える。
漆黒の黒髪、目の色は閉じられていて見えないけれど、顔立ちの綺麗な男の子だ。腕の中に抱かれているのは兄弟だろうか?
昏い色合いの男の子と比べて赤ちゃんは銀髪をしている。
珍しいなあ。
私は金髪だけど、魔国には金や銀の髪は滅多に出ないのだと聞いた。
だから金髪銀髪は半分が人間。人国からの流れ者。
魔国に生まれると、神の祝福を受けた者として珍重されているんだって。
頭に小さいけれど角も生えている。
獣人とか、一つ目とか鱗の生えた竜神っぽいヒトとか。
魔国にはいろんな種族の人がいるけれど、角が生えている人は意外に少ないんだよね。
国王陛下と王妃様以外に、私は見たことがない。
魔国編までたどり着けなかったから、魔国の民の細かい設定は私の頭の中にもまだできていなかった。
「まあ! この赤子は『神の真名子』ではありませんか? しかも三眼族に?」
「おそらくな。そのせいで人国で見つかり、追われたのだろう。
子らだけが転移陣で送られた。親はおそらく生きてはいまい……」
「……可哀相に……」
「『神の真名子?』」
「しっ……セイラ。こちらへ」
「ヴィクトール様」
お二人の会話を邪魔してはいけないと、いうことだろう。
ヴィクトール様が、私の手をそっと引いた。
そのまま部屋の外に出されてしまう。
「セイラ。今、見たことを誰にも言ってはいけないよ」
廊下に出たヴィクトール様が私に目くばせして唇の前に指を一本立てる。
内緒、の仕草はこっちでも同じだね。
「それは、勿論言いませんけれど、一体何があったんですか?」
「……地上に隠れ住んでいた魔族が、人に追われ殺された。その時に子どもだけでも救おうと送ってきたんだ」
「地上に隠れ住んでいた、って、子どもを作る為に?」
「ああ、知っていたのかい? うん。
魔国では子どもの妊娠、出産成功率が異常に低い。だから、人国に潜んで子を為そうとする夫婦が多いんだ。でも、見つかって魔族だとバレれば死あるのみだから。
地上に行く魔族には逃亡用の魔方陣も与えられている」
「それで、子どもだけ逃がしたってことなんですか? 一緒に戻ってくれば良かったのに」
「転移陣の起動と操作は陣の外にいる人物しかできない。
全員で逃げてくることは最初から不可能なんだ」
「そんな……」
「しかも、正体バレしている状況下なら襲撃を受け、起動操作ができない状況、ということも十分ありうる。父親が敵を引き付け、母が転移陣を起動。子だけ逃がすという状況は、哀しいが良くある事なんだよ」
全員が逃げられる魔方陣があって状況が許せば、勿論そうしているだろうから仕方ないことかもしれないけれど、やるせない。これも、私が設定していなかった部分だ。
「今回の場合は、生まれた赤子が『神の真名子』だったから特に目立ってしまったんだろうね。
三眼族は比較的人に近いから見つかりにくいものなのだけど」
「その『神の真名子』というのは?」
「生まれながらに強大な力を持つ子ども。夜の祝福を受け、強い魔力を持つ者の証である角と星の髪を所有する。滅多に生まれないから神に仕える存在として尊重されて、神官や高位の貴族として国を支える存在になることが多い」
要するに突然変異の能力者ってことか。魔王様もきっと、そうなんだろうな。
で、ちょっと気になった。
「あの子達はどうなりますか?」
「多分、様子を見て王家か神殿預かりになるんじゃないかな? もしくは貴族の養子になるとか。もしかしたら王妃様が育てると言うかもしれない。
『神の真名子』なら王子待遇は許されないことじゃないと思う」
「お兄ちゃんは? きょうだいで引き離されたりはしません?」
「……そんなことはない、とは言い切れないところが辛いね。子どもは大事だけど『神の真名子』と普通の子どもは同じ扱いをしては貰えないと思うから」
ヴィクトール様は思慮深い方だから、不確実なことは口に出さないだろう。
ということは、きょうだいで引き離されてしまうことは、かなり確実で……。
「ヴィクトール様。もし、できたら、でいいんですけどお兄ちゃんの方、私みたいにお城預かりとかにはできませんか? 私、助けてあげたいんです」
「それは……本人の希望次第だけど、できるかもね」
私達も親方の所で居候の身分だから、家に引き取る、なんて軽々には言えないけれど似たような立場の者として手助けしてあげたいと思う。両親と(多分)死に別れ、右も左も解らない所に放り出されたらきっと戸惑うと思うし。
「あと、私、子どものお世話をしたり面倒を見るの、得意です。
私にはなんか、子どもを育てることに特化した『クラス』みたいなので」
「そうなのかい?」
「はい。ホイクシっていうんですけど」
私が人国を追い出されるきっかけになったレア『クラス』。『サクシャ』の説明はできないから当面は私のスキルは『ホイクシ』ということにしておこうと思う。いずれ魔王様にはホントのことを言わないといけないと解っているけれど、今の所『サクシャ』のクラスのチート能力などはまったく見えて来ないから説明もできないし。
さっきの三眼族の兄弟のお兄ちゃんが、物語の主人公の一人だと直感したのが多分初めての『サクシャのスキル発動』だ。
でも、保育士の技術と知識なら、魂と記憶に染み込んでいる。
この世界でもある程度の事ができる自信はある。
「解った。伝えておくよ。魔国には子育て経験がある者もそんなに多くないからね」
「お願いします」
ヴィクトール様はそう言って、請け合って下さった。
そうして私は厨房に戻った。
「お帰り! セイラ!」
「ただいま。リサ」
「随分時間がかかったな。何かあったのか?」
「あったんですけれど、ちょっと言えない事なので。すみません」
「それは別に構わん。ヴィクトール様も怒るなとおっしゃっていたしな」
「ありがとうございます」
私を待っていてくれたリサと一緒に少し仕事をしてその日は帰路についた。
リサと一緒の寝台の中で、色々と考えてしまう。
「サクシャのスキルってどんななんだろう?
少しは特別な事とか、できないかな?」
私はサクシャのレベル20だと聞いている。
魔国にはクラスとかスキルはない。もしくは気にされておらず、クラスが全てを決定付ける向こうとは対照的だ。
ヴィクトール様がおっしゃるには、レベル1は素質、素養がある。程度。
レベル5で見習い。
レベル10で一人前。特殊な技術がスキルとして現れることもある。
レベル20で第一人者と言えるくらいに尊重されるのだそうだ。
でも、ゲーム画面のようにステータス画面が浮かんで、自分が今、何レベルかなんて知ることはできない。
神殿に行って、神にお布施をして儀式の時の水晶に触って証明書を出してもらうのが一般的なんだって。
つまり、レベル20の私はサクシャとしてある程度の事はできる、筈。
私には何ができるのだろうか?
私にはサクシャとして何かできるのだろうか?
「何かできれば、書き直しもきっとはかどるのに。
とにかく、今はやっと見つけた主人公のフォローが大事だね」
魔王子ウィルムヘルは、相手の嘘を見抜き心を読む第三の目を持つ凄腕の剣士だった。
その力と生い立ちのせいでニンゲンというか、生き物不審に陥っていたけれど裏表のない主人公その1 人国の王子シャルルと会って誰かを信頼することを知るようになる。
でも、それは物語がかなり進んでからの話だから、できればここで彼を救いたい。
とはいえ、まずはあのきょうだいが、無事に魔国で落ち着くことが先決。
「二人が魔国を受け入れ、魔国も二人を受け入れてくれますように」
私は目を閉じ胸の前て手を組んだ。
誰に祈るべきかは解らなかったけれど。
そして翌日。
「セイラ。新入りだ。面倒をみてやってくれ」
彼。
少年『ウォルフラム』は私達の前にやってきた。
哀しそうで寂しそうで、生気の無い昏い瞳をして。
本日の更新はここまでです。
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