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魔国 魔国の父

 私の悲鳴はどうやら魔王宮全体に響き、人々を驚かせたらしいけれど魔王陛下は動じない。後で聞いたら外に見張りを付けて、結界も張って、話が終わるまで誰にも邪魔されないようにがっちりと手を打っていたらしいけれど。


「ふん、私の結界を突き抜ける影響力、か。やはり全体的な出力が上がっているようだな。

 サクシャ」

「ベルナデッタ様もそんなことをおっしゃっていらっしゃいましたが、それよりも何よりも、今、私が伺いたいのはどうして、私に『洗礼』なんて無許可で行ったか、と私を養子にする、なんて言い出したか、です!」

「貴様は魔国の民として忠誠を誓った。私の行う事に文句を言える立場では無いと解っている筈だが?」


 ぞわっ、と。首筋に冷たいものが奔る。

 魔王陛下が圧力をかけてきたのは解っている。

 でも、本気、じゃない。

 なんとなく私に引け目を感じているっぽいのが解るから、怯まない。


「それは、そうです。だから、転移術の魔方陣に放り込まれた時も、洗礼、ですか?

 魔国人になる力を頂いた時も、私に確認して頂ければ、多分拒否なんかしなかったと思うんです。黙って、私の運命を決められた、それだけが嫌だっただけで」


 冷静に考えれば、あの勇者様達がいる局面で


「転移術を入手する為に、魔方陣に入るぞ」


 なんて魔王陛下が言えるわけがない。

 魔王陛下は当たり前だけれど、人国側に……例え勇者であっても転移術を渡したくなかったのは解る。戦争前だからね。

 転移術があれば、たった一人で盤面をひっくり返す事が可能だ。

 魔国の調査隊だけがいるのなら報告を待って下さるつもりもあったのだろうけれど、人国の勇者がいるのなら、と吶喊して来た。

 そうして精神的に思いっきり叩き潰して、調査に気が回らないうちに転移術を奪取して来た。


「転移術の方陣は授けられる者の数が決まっていたようよ。

 リュドミラ様と、魔王陛下と、貴女で定員になってしまったので壊してきたとおっしゃっていたわ。可能ならお前にも与えてやりたかった、と言って下さっていたのだけれど」


 と王妃様はおっしゃっていたから。


「そもそも、なんで、私に転移術をなんてお考えになられたのですか?

 私、魔力や術とかそういうのまったくなのご存じだったのは?」

「いや。あの場で、お前以外に習得は難しいと解っていたから連れて行った」

「え?」

「お前の中に眠る潜在的な魔力資質は、リュドミラ王女に匹敵する。肉体が成長し精神に相応しい成長を果たせば、お前にこの地上の全ては従うだろう。『セイラ』」


 そう言うと、魔王陛下は、スッと手を上げた。そのサインに従ってか王妃様と護衛として中に残っていた騎士様が外に出て行く。残ったのは、私達二人だけだ。

 お二人が出て行ったと同時魔王様が、掌を軽く翻す。

 なんとなく、だけれどこの部屋の結界を張り直した、とそう感じた。

 誰も他に聞く者のいない部屋で


「セイラ。地上から堕ちた導きの星。

 お前は『神』の記憶を持つものだな」


 魔王様は『私』を見てはっきりと、そう言い放った。


「えっと確かに『サクシャ』のスキルはそういうものらしいですが……」

「違う」

「へ?」

「クラス、スキルその他、以前に。

 お前は『神』か、それに近き記憶を有する者である筈だ。『神の箱庭』このヴィッヘントルクの在り方に責を感じる程度には」

「そ、それは……」


 口ごもる。

 そういえば、この方は御存じなのだ。

 私が人国から、魔国に堕とされた時、一緒に堕とされ落命した子ども達の前で見せた私の慟哭を、罪を、その吐露を、この方は知っている。


「我らには理解叶わぬが『サクシャ』というクラスそのものが、『神の力を受け継ぐ者』である、と私は解釈している。

 今まで十全に力を発揮できなかったのは、その器たる身体が幼く、脆弱で力を使う為の強度が足りなかったからではないか?」

「あ……そういう……」


 魔王陛下の言葉は、言われてみればなるほど、と思える。

 洗礼の後、それぞれを『視る』能力が上がったのは、魔国人になって肉体の出力が上がったから?

 もっと成長して、レベルアップ? すれば、モンスターの能力やキャラクターのスキルなども作者として見抜けるようになるのだろうか?


「転移術に関しては、そんなお前を人国に捕らえさせる訳にはいかぬ故、以前から機会があれば、必ず習得させたい考えていた。転移術があれば、以降捕らえられたとしても、簡単に脱出が叶うだろう。

 お前を絶対に人国に渡すことはできない、と思ってもいたからな」

「私が自分の意思で人国に与するとか、魔国から逃げるとかはお考えにならなかったのですか?」

「その為の洗礼、その為の養子契約だ。お前に洗礼で力を分け与えた時点で、既に私の娘のようなもの。ヴィクトールもだが、我が血を与えた直属の臣下には、軽い経路が繋がっている。

 逆らわれたとしても一時、動きを制限するくらいのことはできる。逆に加護を与え守ることも可能だ」


 なるほど。洗礼は力が増えるということと共に、魔王陛下の紐付きになる、ということでもあるわけだ。これは、事前説明されていたら少し迷ってたかもしれない。


「養子契約も、行うと魔王陛下にもっと逆らえなくなるわけですね」

「私というより、魔国に対して敵対行動をとれなくなる。逆に魔国の力を王族に準じるものとして使えるようにもなるがな。魔国に在る限り攻撃呪文などの威力が増す。いざとなれば魔国人から力を徴収することもできる」


 王族になると魔国に縛られることになるけれど、魔国のバックアップを受けられるようになるわけだ。それはつまり


「魔王陛下もそうなんですか?」

「人国の王族はどうかは知らんが魔王は魔国を支える柱。

 基本的には魔国から離れることはできぬ。不在期間が長期に渡れば国そのものが崩壊の危機に瀕することさえあるという。

 先の『神の塔』への移動も準備を整えた上で、不在を王妃が支えてくれていたからなんとか叶っただけで、それでも半日以上の滞在は不可能だった」


 余裕綽々のように見えて、実はかなりの綱渡りだったのだ。あの『神の塔』への魔王様の来臨は。

 私は下がっていた顔を上げて魔王陛下を見る。

 最初に助けて頂いた時より、少しは私も身長が伸びたけれど、まだまだ大きい魔王陛下。


「どうしてそこまで、危険を冒したり無理をしたりして、私に色々して下さるんですか?」


 洗礼、神の塔へ訪問、転移術の習得、養子契約。

 その他色々と、魔国の絶対王である魔王陛下ではあるけれど、無理もしているのだろうなということが解る。敵国の娘を拾ってきて育てているばかりか、養女にするとかきっと上の気難しい方達は文句を言う。

 今の時点でだって敵国の娘を重用して、っていう方はいるし。

 それに、今の説明だって結構なぶっちゃけだ。国の秘密や弱点を明かしている。私に言わず、だまくらかして契約させちゃえばよかったのに。


「言っただろう? 責任を取る為だ」

「責任、ですか?」

「そうだ。お前を拾い上げた者、保護者。

 あるいは……父として、その責任は取るべきだ、と思ったのだ」

「父……」


 そう告げて、私を見つめる魔王陛下。

 漆黒の闇を結晶にしたような黒い瞳は私と同じ色。冷たいけれど驚く程に優しさに溢れている、と私は感じていた。


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