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人国 神の塔の探索 ~魔王視点 導きの星~

 これは、魔国王。

 現在、この『ヴィッヘントルク』において、おそらく唯一。

 ある意味、サクシャよりも『真実』に近き場所に立つ男の独り言。

 謎の欠片、である。



 彼は足を踏み入れたと同時確信した。

 やはり、この魔方陣は城にあるアレと同じだ。

 資格無き者を絶対遺志で阻む、アレとは違い、少しは『優しい』ようではあるが、それでも『選ばれた』者以外が入れば、確実に注ぎ込まれる『意志』と『力』は精神を傷つける。

 自らに意思と、権利を確認するかのごとき光の奔流は、彼に触れると同時穏やかになり、忠誠を誓いその力を『選ばれた』者に注ぎ込み、捧げてきた。

 脳に刻まれる情報量は膨大で、十分な容量を持たない者は押しつぶされてしまうことだろう。だが、自分には問題なく受け入れられる。

 術式を脳内で自分に理解できるように使えるように再構築した。


「『どこにでも行ける転移術』が全ての者に使える訳もなく、簡単に資格無き者に渡すわけにはいかぬ。当然だな」


 資格者として想定されているのはある程度以上の『魔力』を持つ者。『勇者』それから正当に力を『継承』してきた『王族』、というところか。


「そもそも、人国の王族は、ちゃんと『継承』を続けているのか? だとすれば、もっと違う選択になると思うのだが」


『魔国王』として長き年月、国と民を守り、治めるのが精一杯であった。

『王』は国の柱。揺るぎない力を持つが故に軽々に動くことは許されないのが現実だ。

 今、ここに来ている事でさえ、一歩誤れば魔国そのものを潰しかねない。

 妻が代わりに支えてくれているが、そう長くは持たないだろう。


「だが、魔国とは別の『遺産』を自分の目で確かめられたことと『勇者』と話ができたことは意味があった。とりあえず、感謝するぞ。

 なあ、『サクシャ』」


 そう言って、彼は純白の、光の虚空に浮かぶソレを見て哂う。

 繭のような、泡のような何かに包まれ、膝を抱く少女に。


「やはり、反応したか。『神』も待ちかねておられたのだろう。

 己が眷属の帰還を」


 光の小空間の中、娘は胎児のように身体を丸め、眠りについている。

 服は消え失せ、身体には幾本もの光の管が繋がれ何かを注ぎ込んでいるように見えた。

 腹の中の赤子に、栄養を送る臍帯のごとく、


「魔国の継承の魔方陣と同様の効果もあるのだな。

 同じように知識や記憶を挿入されているのか? 肉体や、精神を書き換えられている可能性もある。

 目覚めたら、身体検査と共に詳しい検証が必要だ」


 楽し気に、言い放って彼は微笑する。


 セイラ、いや、ステラ。

 この娘を拾えたことは、魔国において最大の僥倖であった。

 愚かな人国、愚かな王族よ。

 奴らはいずれ知るだろう。希代の魔女リュドミラだけでなく、自らがゴミと捨て去った娘の進化を。

 自分の価値を、力を、存在する意味を、おそらくはまだ何も理解していないクラス『サクシャ』

 ゴミと棄てられ、失われた子どもたちの命を。世の不条理を自分のせいだと嘆き、変えんとする娘。

 これは、おそらく創世神の使い。

 世界と、歴史を動かす力と使命を、与えられた者だ。


 神より降された星を抱えている限り、魔国が人国に破れることは無い。

 そう思う度に頬が緩む。




『王』には。

 少なくとも『魔国王』には『創世神』より伝えられ与えられた義務、言葉がある。


『磨き、鍛え、進化せよ。

 魔宮を超え、神の元に辿り着け。汝らの力と価値を示すのだ。

 さすれば汝らは『神』、星を支配する存在と成るだろう』


 けれど、魔国の民に与えられた環境はあまりにも厳しくて。暗闇の中、泥水を啜りながら身を寄せ合い、環境を整え、生きて行くのがやっとのこと。

 未来を託す子も生誕は稀で、初代の魔国王も、自らの血を分けた子を為すことはなく魂と力を、腹心に継承させて次の王とした。以降、魔国王とは血筋ではなく力と、才と意思によって継承されてきたのだ。


 このまま滅びの道を行くのか、いや、決してそんなことはさせぬという、過去の魔王達の慟哭が叫びが、今も我が事のように自分の中で燃えている。

 そんな暗闇の中、落ちて来たこの娘は、名のごとく魔国の導きの星となった。


「狭い地表、地下の支配権など好きに争うがいい。我らは、さらなる高みに行く。

 我らを見下してきたように、今度は我らがお前達を『神』として見下し、潰してやろう」


 ふと、彼は、周囲の光が弱まっていくのを感じた。

 見れば、輝きが、力が、全てがセイラの中に、吸い込まれて行く。

 己が手を見ながら、目を閉じて、自己の内部と、周囲を検索確認する。


「ふむ、転移術式は入手できたな。

 だが、この方陣は……力を失いつつある」


 おそらく、転移術式の習得者にも制限があったのだろう。

 三人か、五人か、もう少しは習得させることができた筈だが、おそらく、セイラの『覚醒』に使った為、力が切れたのだ。


「魔国側でもう少し使い手を増やしたい所ではあったが、致し方ないか。

 セイラの中に刻み込まれた情報があれば、新しい陣も生成可能やも知れぬし、万が一にも人国に、リュドミラ以外の転移能力者を与える訳にはいかぬからな」


 周囲から、全ての蒼の光が失せると同時繭が消えて、セイラの幼く、細い身体が、白光に晒された。

 軛に囚われることなく、空中に浮かぶ娘を彼は、右手で掴み寄せると同時、マントで包んだ。

 生存と、呼吸を確認して左手で術式を紡ぐ。

 炎と大地の呪文。足元を抉り、方陣を消し去る爆破術式だ。


 ドゴン!!


「セイラ!」「魔王様!!!」


 光の空間は消えて、周囲の空気の色が変わっている。

 戻ってきたのだろう。

 祭壇の下には、青ざめた顔の子ども達が見える。


 煙に紛れ、ゆっくりと段を降りる前に指を切り、セイラの口腔に、血を一滴含ませた。首筋に、従属の紋を刻むのも忘れない。

 救い上げた時から、肉体と精神に刻み付けてあるが、今ので弱まった可能性もあるから。

 リュドミラに与えたモノよりももっと、深く、固く。決して逃げられない、透明な鎖である。


「セイラ」


 余人には聞こえぬ声で、彼は少女に『命じた』


「お前は、魔国の、私の道具(モノ)だ。

『サクシャ』

 魔国と、我らの為の未来を、紡ぎ導くがいい」


 頬に浮かぶのは微笑。

 しかし、深く重い声で決して逃がさぬ、と魂の奥底に刻み付ける。


 そうして。

 魔王は現実空間に帰還する。

 輝きを増すことになる、導きの星を、その腕に抱いて。


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