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人国 神の塔の探索 ~魔王の深慮と

 魔王陛下の『正論』に、大人だったら。

 覚悟のできた王族だったら、また違う反応ができたのかもしれない。

 けれど。


 まだ十歳になるやならずの子どもしかいないこの場で、誰がどう聞いても否定することのできない王族の正論を突きつけられて。自分の意見を貫き、反論できる者がいるだろうか?


「僕には……国王は、務まりません。

『王族』ではなく、『勇者』なのですから」

「確かに、な」


 それでも。喉から振り絞るような懸命の声で、王になれという提案に拒否を示したシャルル王子。そして、意外な事に魔王陛下はそれに同調した。


「神が人に授けたとされる『クラス』。

 魔国は方向性の、才能の一つという程度にしか見てはいないが、其方の場合には逆に正しい、ともいえるかもしれぬ。

『王族』ではなく『勇者』。

 国の為に便利に使われる都合のいい『勇者(道具)』だ。其方は」


「『勇者』とは、成長限界が遠く、己の努力と心の在り方次第で、どこまでも成長できる存在だ」


 と以前リュドミラ様はおっしゃっていた。

 けれど、同時に、民の為、国の為。『誰かの為』に無限にも近い力を揮う者であり、決して私利私欲に使うことは無い。最初から、そんなことを考えもしない。

 思考は常に全>>>己。誰かの為に我が身を犠牲にすることを躊躇わない精神が『勇者』の最大適性なのかもしれない。


「なれば、己の意思など入れず道具に徹するが良い。

 そうすれば、其方らは一切の罪を背負わず、人々の希望であり続けることができるだろう」

「……………」

「だが、己の意思で、力で世界を変えたいというのであれば、少なくとも見たいものだけ見て、信じたいものを信じるだけの自身を顧みる事だな。

 少なくとも、遠くから情報を集めている私が知るだけでも、両の手で足りぬ矛盾点を抱える第三王子とやらに組して反逆を狙うのは無謀に過ぎる。

 魔国の民を巻き込むことも許すことはできぬ」

「……ご忠言……ありがとう、ございます……」


 俯きながら、それだけ口にしたシャルル王子から、ふい、と視線を逸らした魔王陛下は今度は私達の方へ。


「セイラ。ウォル」

「は、はい!」

「お前達、私が来なければ王子への情に誑かされ、協力を考慮したであろう?」

「「………」」


 そんなことは無い、と言い切れないのが辛い所。

 自分の手の内をさらし、私達の否定できない義を盾に迫られていたら。

 勝手に受け入れる、までは無かったとしても少し、傾いていたかもしれない。


「お前達の短慮が、人国に隠れ住む子らの安住の場を奪うかもしれぬ結果になりかねぬ事を己が心奥に刻め。お前達は王子とは違う、魔国の道具だ。

 勝手に動いて奪われたり、敵に使われたりしては道具の意味さえなくなるぞ」

「はい……」「申し訳……ありませんでした」


 ご自身で足を運ばれたのは、勿論人国の勇者を見定める意味もあったのだろうけれど、私達を守る意味もあったのかもしれないと理解する。

 保護者のいない状況で、私達が人国のペースに巻き込まれないように、盾になりに来て下さったのだろう。きっと。


「魔王陛下。あんまりセイラ達を虐めないで下さい。なんにも悪い事はしてないんですから」

「いいよ。リサ。私達が未熟だからなんだし」


 ただ一人、状況が解り切っていないリサは怖いもの知らずで魔王陛下に向けて、頬を膨らませるけれど、魔王陛下も何も知らない子どもの言動に目くじらを立てたりはしない。

 厳しい指摘は、私達をかって、育てようとして下さっているからだ、ということも理解できる。


 と、いうか。魔王陛下がシャルル王子に告げた言葉は私にとっても刺さった。

 脳天に、釘を刺されたようにぐっさりと。


 私は今まで、世界を滅ぼす魔女王になるリュドミラ様を助ければ、物語の中で起きる筈の世界崩壊は避けられて、ハッピーエンドになると簡単に思っていた。

 でも、魔宮から人国魔国、両方の脅威となるリュドミラ様がいなくなったことで、両国家、両国勇者がまとまり、共闘するきっかけを失ったとも考えられる。

 小説では人国の魔国侵略は無かった。あったかもしれないけれど魔女王リュドミラの誕生と、魔性の増加で立ち消えた。筈。

 国の内部分裂や、王族の後継者争いなども表に出てくることは無かったし、魔王陛下もここまで積極的に物語に介入してくることは無かった。

 バタフライエフェクトというには変わった事象が大きすぎるけれど、もはや物語。

 ううん。世界は簡単にハッピーエンドに向けて書き直す、なんて状況ではなくなってしまったのだ。


 もう一度、真剣に考え直さなければならない。

 異世界ヴィッヘントルク。

 作られたこの世界の、真ハッピーエンドは、終着点は、どこにどんな形で置くべきか。

 私はその為に何をするべきなのか。

 魔王陛下が言う通り、他人任せにはできない。


 サクシャにとっても、勇者シャルル王子の選択と共に、きっとここが重要なターニングポイントになるだろう。


「直ぐに答えを出せ、とは言わん。

 聖女達は明日には戻れるようになるだろう。

 それまでに答えと覚悟を決めるがいい。

 子ども達は連れ戻る。逃亡されては困るのでロキシムを見張りに残すが手出しはさせぬ。一晩、ゆっくりと考えるがいい」

「ご慈悲に、心から感謝申し上げます」


 静かに頷いた魔王陛下は、王子の前を横切り、スタスタと歩いていく。

 その方向は扉ではなく……。


「陛下?!」

「セイラ。着いて参れ。ウォルとリサはそこで待機」

「え?」「は、はい」


 ぼんやりとしていた私の手を強引に引くと、魔王陛下は何の躊躇もなく、部屋の最奥たる段の上に登って行った。私を連れて……。


 床から浮かび上がるように輝いてた蒼い光の正体が、正面の階段を上るごとにはっきりと見えて来る。

 やっぱり、これ、魔方陣だ。

 僅かな歪みも無い真円。純白の床に蒼の光で精密に描かれた意味の解らない文字や、記号。こんなものを見るのは向こうでも、こっちでも生まれて始めて。


「ふむ、やはりこれは『神』が残した遺産、だな」

「え?」

「魔国の魔方陣は、これほど『力』を持っていなかった。

 全てを受け入れ、運ぶ為の機能をもった装置。故に複製することも可能だったのだが、これは違う。資格の有無を判断し、有る者に力を授ける為のものだ。

 逆に資格を持たぬ者が入れば、アレと同じで精神に異常をきたしかねんな……」


 魔王陛下は蒼光をみやりながら、何やらぶつぶつと呟いている。


「どうして、そんなことが? 魔王様はこの魔方陣が何なのか、知っているのですか?」

「知らんが『解る』

 お前も解るだろう? サクシャ」

「え?」


 確かに、ここに転移魔法を授ける術式があることは、予測されていたよ。

 リュドミラ王女がそう教えてくれたしね。

 でも『作者()』はそもそも、魔宮にそんな設定していなかったのだ。

 五階ごとのお宝とか、テレポーターとか全然。

 だから、魔宮での探索についてはまったく解らないし、マッピングだって苦労しているのに。

 なんで魔王様は、そんなことが解るのだろう。


「まあ、いい。話は後だ。行くぞ!」

「って、魔王様? なんで、私を……って、きゃああああ!!」


 私が戸惑っている隙に魔王陛下は、私をいきなり抱き上げると、そのまま魔方陣の中にぽーん、と放り入れた。そして、自分も中へ。

 何が起きたのか解らぬまま、抵抗することさえできない。


「魔王様!」「セイラ!!」


 魔方陣の真上に投げ入れられた私は、足元が地面についていないことに気付く。

 えっと、これって無重力?


 そして同時。私達の足元から何か光が弾けた。

 爆弾とか、地雷とか、閃光弾?


「あ……」


 ヤバい。

 これ、完全にヤバいやつだ。光が、私を捕まえる。私の中に入ってくる。

 呑み込まれる。ダメだ、抵抗……でき、な……い。


 そうして。

 溢れる光の奔流に『私』は呑み込まれ、あっさりと意識を失ってしまったのだった。


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