人国 神の塔の探索 ~反逆の誘い~
国家への反逆。
まだ私達と同じ歳。
十歳の少年が告げるには、あまりにも重い言葉であった。
「君達は、諜報員だから国の事、王家の事。積極的に調べているだろうけれど、人国と呼ばれている国が、小国の集合体であることは知っている?」
「はい。フォルトレリック連合国、というのが正式名称で魔宮『神の塔』を有するフォイエルシュタインを中心に、かの国から派生した小国が取り巻いている形、なんですよね」
「その通り。『神』から直接王権と『神の塔』を預かるフォイエルシュタイン王家が宗主国で、周辺の国は王家の血を引く公爵達が、分離、独立した国で、ずっと、小競り合いが絶えないんだ」
人国は、一つの大きな大陸であり、周囲を海で囲まれている島でもあると聞いていた。
広さは魔国の10倍以上。人口も当然比較にならないくらい多い。ただ、フォイエルシュタインだけなら魔国より二回り大きいくらいかな?
「長い治世の間、王権を守る為に王家は様々な手段を講じてきた。
小国は、その過程で生まれて来たもの。王に従わないけれど殺せない王族を封じることが多かったらしいよ。その為、国を取り巻く国々はあまりフォイエルシュタイン王家に好意をもっていないことが多くて虎視眈々と王権を狙っている。国力の差が違いすぎるから本気で攻めてくることはまだ殆どないけれど」
殆ど、ということは0ではないのだろうな。とちょっと思った。
ちなみに宗主国、フォイエルシュタインの領地が八割で、残り二割を数カ国が分け合っている感じなんだって。まだ全部の国について詳しく知っている自信はない。名前をちょっと聞きかじった程度。
ただ、一番国力が低いとされるカイデリウス公国との国境近辺にアインツ商会の郷があって最近、取引を始めたのでそちらは少し知っているかもってくらいかな?
「父上、フォイエルシュタイン国王陛下には六人の王子と四人の王女がいる。王女には王位継承権はないから六人の王子から次代の国王が選ばれることになる」
「第一王子が王太子、後継者と決まっている、訳では無いんですね」
「第一王子が一番有利ではあるけれど、決定ではない、というのが正直な所かな。一番優れた能力を持ち、貴族や周辺諸国の指示を集めた者を王にする。
というのが現国王陛下の御命令だ。王太子に選ばれなかった人物は、領地を与えられる事はなく、生涯を王の配下として過ごすことを定められている」
「それは、厳しいお話で……」
「初代を含む今までの国王陛下は、兄弟達に慈悲を与え、領地を王にならない者にも領地を授けた。それが王国分裂に繋がったとお考えのようだからね」
この世界の歴史の始まりは、それほど昔ではないとされている。
始祖たる国王から、現国王まで数代。500年は経っていないらしいけれど。
というか、今はそんなことを考えている場合ではない。
「第一王子は、長年の忠臣であり侯爵の娘で正妃の息子。正妃が生んだのは第一王子と第二王女だ。第一王女は名目上は側室だが侯爵家の娘で、第二王子と第三王子は従属公国の公女 第二妃の子どもだ。第四王子は、護衛騎士だった母の子、第三王女リュドミラは市井の魔女を妻として生まれた。リュドミラ姉上の弟は、今、五歳。一応第六王子として今も扱われているけれど、濡れ衣を着せられ軟禁状態だ」
「あ、良かった。殺されたわけではないんですね」
少し安堵する、リュドミラ王女も喜ばれるだろう。
っていうか、国王陛下。一体何人妻がいるんだ?
子どもは十人って聞いたけど。
「第二王子と第三王子は実家の力が特に強い。中でも第三王子は文武両道に秀でていると有名だ。今年十八歳だけれど、民にも慕われている。
だから、第一王子は彼を上回る実績を上げる為に、魔国遠征という前代未聞の計画をぶち上げたのだと思われる。
何でも、今まで完全に閉ざされていた魔国との経路を発見したらしいよ。それがどこにあり、どのような形状のものなのかは、まだ秘密とされているけれどね」
やっぱり、魔国への入り口を見つけたことで魔国への侵略戦争を決意したのか。
入口ってどこの、どんなのだろう?
作者は設定していないから解らない。
魔国から潜入した家族が掴まって、殺されて。
転移陣を奪われた結果、魔国への侵入経路を開いた、というのであれば最悪だけれど地球に向かう家族に与えられた転移陣は、王家の地下に出るからまだ「なんとかなる」。
人国が転移陣を改造して魔国の別の所に出るようにできているのならどうしようもないけれど。
そうでないのなら、地上のどこかに偶然、魔国に繋がる経路ができて、それを第一王子が手に入れたと考えるのが妥当な所だろう。
「兄上は自分の立場を決定づける戦を成功させるのに今は。頭がいっぱいだ。
国中を総動員して、ありとあらゆる手段をとっても魔国侵攻を成功させるのに注力している。だから、こそ。この時が最大の機会だと考えている。兄上が魔国侵攻を行っている留守の間に、僕達が城を占拠しようってね」
私は第一王子が嫌いだから、失脚する分には別に構わない。好きにやってくれ。
失脚の順番に立ち会うことができたら、きっとスッキリするだろうな、って思うくらい。
でも……なんか、もやもやする思いは何故だろう。何だろう。
「叛乱、に関しては私達がとやかく言える立場にはありませんが、仮に国王を捕らえ、城を占拠した場合、誰が次の王におなりになるんですか? シャルル王子?」
「まさか」
微笑みながらも首を横に振るシャルル王子。
「じゃあ……?」
「一体、誰と?」
「ほほう……」
思いもよらない話に、私達がさらに詳しいことを聞こうと思った、正にその瞬間だった。
「「「「!」」」」
「面白い話をしているな。詳しく聞かせて欲しいものだ」
私達しかいない筈の『神の塔』のフロアボスエリアに響く、聞き間違える筈の無い深みのあるテノール。
あり得ない、本当にあり得ない!
私は恐る恐る振り向いて、今度こそ、完全に凍り付いた。
「へ、陛下?」
「ま、魔王陛下……。どうして、ここに?」
「魔王陛下?」
そう、振り向けば、そこに。
本当に、本物の魔国王陛下が一人、佇んでおられたから。




