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人国 神の塔の探索 その5

「王族としての矜持……」


 噛みしめるようなシャルル王子の言葉に頷くアドラール様。


「そうだ。少女の治癒に当たり、法外な金銭などを請求をするつもりはない。

 だがそれなりの代価は支払って頂くことになるだろう」

「代価、とは?」

「我々への信頼と協力。そして、何より沈黙だ」

「なるほど。兄上を、人国を裏切ってでも仲間を助けたいか、ということですね」


 直接の表現を避けた遠まわしな問いの意味を、シャルル王子は理解したようだ。


「そうだ。少女の治癒を最短で行うのであれば、魔国の神殿に連れて行くのが早い。

 さっきも言った通り、我々には最短で魔宮から脱出する手段がある。

 だが彼女の治療を魔国で行うというのは、敵国の王子一行を開戦間際、王都に迎え入れるということになる。何の策も無しに帰国させることができないのは、理解して頂けるな」

「はい。こちらも貴方方の御厚意を信じないわけではありませんが、リーゼラ一人を魔国に連れて行かせるわけにはいかない。かといって私達が同行すれば情報が洩れる危険性が増すわけですから」


 魔国の王都に敵方の人間の目が入れば、活動が制限されているとはいえ、町の規模。おおよその人口、どんな種族がいるかなどが伝わり、戦の際不利になってしまう。


「少女リーゼラの治癒を請け負う代わりに、王子達にはここで知り得た魔国の情報に対し沈黙を誓って頂く。口約束ではなく魔術の軛をもって誓いを立てて貰う事になる」

「私達が沈黙を誓えば、リーゼラの治癒は速やかに行って頂けると?」


 そう問いかけたのはカロッサ様だ。彼女は軍師で仲間の保護者役だと言って居たっけ。迷わず頷きを返すアドラール様。


「我が誇りと、魔王陛下に賭けて。

 人質という訳ではないが、こちらはウォルとセイラを魔宮に残す。二人から話を聞くつもりだったのなら待っている間に行うと良いだろう」

「良いのですか? アインツ商会、引いては魔国の諜報活動の需要情報なのでは?」

「全てを語ると、ウォルは約束した。違えさせるわけにはいかない。

 だから、それらの情報も全て含めての沈黙の誓いだと思召されよ」


 私達が魔国側の存在と解った時点で、シャルル様はアインツ商会の正体にも気付いたようだ。私達が魔国の諜報員でアインツ商会はその情報拠点。

 これを知られることは魔国の命取りであり、情報を得て対処ができれば、開戦前に人国は圧倒的に有利になる。

 

「王族としての矜持と仲間の命。どちらが大事か」


 最初にアドラール様が投げかけた問いは、正にここにかかってくるのだ。

 

 でも、王子は逡巡しなかった。したかもしれないけれど、それを一筋たりとも表に出すことは無く。


「解りました。リーゼラをよろしくお願いいたします」


 胸に手を当て、深々と頭を下げる。


「シャルル!」

「今は、リーゼラの治療が優先だ。容体は落ち着いたと言っても出血が激しいし、何より僕達の誰よりも幼い身体でいつまで苦痛や痛みに耐えられるか解らない。一刻を争う」

「でも……」

「アドラール卿。仲間を一人同行させてもいいでしょうか? 卿達を信じないわけではありませんが少女一人を見知らぬ場所に行かせるわけには……。

 仲間を想う、我らの心情、ご理解頂きたく」


 譲れる所は譲りつつも、譲らない所はがっちりと守る。

 そんな王子の気迫が見えるようだ。

 実際、見知らぬ男に、怪我をした女の子を預けるのはあり得ない。

 例えアドラール様が魔国きっての誠実な騎士であろうとも、王子達は人となりも何も知らないのだから。


「当然だ。男性女性どちらでも、なんなら王子自身でも、構わない」

「魔国に興味は尽きませんが、おっしゃる通り、僕は人国の王子で『勇者』です。僕を招き入れるのは色々と危険が大きいでしょう。国王陛下の許可を頂けたら、その時で構いません。

 頼めるかな? カロッサ」

「……解ったわ。アドラール卿。よろしくお願いいたします。杖はお預けしますし、拘束して頂いても構いません」

「そのようなことはしない。大事な賓客であり、一時とはいえ共に『神の試練』に立ち向かった仲間だからな」


 アドラール様が、リーゼラちゃんを抱っこして、テレポーター経由で魔宮の外まで大急ぎで戻る。塔の外に出たら王女が転移術で神殿まで運び、治療してもらい、治癒が完了したら戻ってくると決まった。


「神殿治療を行う為にも、今回の事態を魔国王に報告するが、よろしいな」

「お任せいたします」

「心配しないで、シャルル。二人は私が責任をもって連れ戻りますから」


 リュドミラ様がそっと、シャルル王子の肩を叩いた。


「姉上……。戻られましたら姉上の話も、聞かせては頂けませんか?

 心配、していたのです。あの……惨状を見てから、ずっと……」


 気丈な勇者の表情が少し、姉を心配する弟の顔に戻った。

 泣き出しそうな表情に、救出した直後のリュドミラ様を思い出す。

 きっと、酷い惨状が残っていたんだろうなあ。


「とても、苦しかった。辛かった。

 無実の罪を着せられ、塔に追いやられてからは本当に地獄とはこういうことをいうのだと、幾度となく思いました」


 ぎゅっと、唇を噛みしめるシャルル王子。

 王子にしてみれば、大切な姉上に、最低行為をしたのは兄上ってことになる。

 色々と心境は複雑の筈だ。


「でも、セイラや魔国の皆様に、私は救われて今、なんとか命を繋ぎ在りま す。

 今は魔国に忠誠を誓った身ではあるけれど、貴方達の敵ではない。

 それだけは信じて頂戴」

「はい……信じます」


 だからだろうか? リュドミラ王女が魔国に忠誠を誓っている、という言葉を聞いても顔色を変えずに静かに頷き受け入れてくれた。


「では、直ぐに向かう。ロキシム。お前はテレポーターまでの護衛が終わった後は、こっちで見張りを頼む」

「かしこまりました」

「アドラール様、これを!」

「毛布か、助かる」


 アドラール様はリサが荷物から取り出した毛布で、リーゼラちゃんを包むと、そっと抱き上げ肩にもたれかけさせた。お姫様だっこで運ぶにはアドラール様の手は大きく、リーゼラちゃんは小さすぎる。

 でも、大事に傷つかないように細心の注意を払ってくれていることは解るから、カロッサ様を始めとしてシャルル王子達も何も言わなかった。


「行くぞ。こちらは任せた」

「また後でね、シャルル」


 年長者達が、駆け出すように部屋を出て、広い広いエリアボスの間には私とウォル。

 シャルル王子と槍の勇者エルガー様の四人だけになった。


 エリアボスの機械鳥は、もう跡形もなく消え去り祭壇の上が、一際美しい魔方陣を輝かせているのみ。あの方陣に入れば転移術が習得できるのかな?

 誰ができるだろう。勇者は、できなかったように思う。多分、現状でできそうなのはカロッサ様。次点リサ。後は魔王様とかかな。

 解っている。現実逃避。 

 マップを広げ。部屋の様子を書き記そうとしていた私に


「さて……。やっかいなお目付け役はどっちもいなくなった」


 口調は優し気。でも強い力を宿した掌が、背後から私の肩に伸びてくる。

 がしっと。絶対に逃がさないというように。

 ……修羅場の始まりだ。


「約束通り、話して貰おうか。ウォル。セイラ。

 君達の事、魔国の事、そしてこの『神の塔』について知っていることを洗いざらい。

 大丈夫。国の者には誰にも言わないから」

「あれ、いいんですか? シャルル王子。

勇者様があっさりそんな約束口にしちゃって」

「構わないよ。アドラール様はお優しい方だ。僕達に言い訳を下さった」

 

 冗談めかして言ってみるけれど、彼の眼は真剣そのものだ。


「元々、僕らはある意味、魔国への侵攻を開始した人国に反旗を翻す意味で『神の塔』に来た。だから、元々、君達の事も、ここであったことも報告するつもりはなかった」

「反旗、ですか?」

「そう。姉上の捜索と救出が一番の目的ではあったけれど兄上は、

『リュドミラはどうやら死んだようだ。瘴気が塔から溢れ始めた。

戦に加わらぬというのであればお前達が塔に向かえ。せめて戦の間、瘴気と魔物の出現を抑え込むのだ』

 だって。

 長期戦に備えてあまり街に戻らなくていいように、食糧備蓄なども何か所かに整えてある。まあ、今回のように重症になったら神殿に行かざるを得ないけれど、それでも王宮に戻るつもりはない」

「うわあ、そこまでですか? リュドミラ王女だけでなく、勇者である王子まで?」

「僕らも兄上にとっては捨て駒にすぎないんだろうね。愚かな方だ。

 人を貶め、捨てる者はいつか自分が捨てられるというのに……」

「シャルル……」


 なるほど、人国はリュドミラ様が魔国に救出され、塔からいなくなったことに気付いて王子達を差し向けたのか。王女様が落ち着いてからは魔国側の探索班が入っていたけど、それでも瘴気が出てたのかな?

 などなど、またしても逃避する私の意識は


「だ・か・ら。安心してしゃべるといい。何、時間はたっぷりある」


 妙な迫力と笑みを宿したシャルル王子に引き戻される。

 もう流石に逃げきれないか。

 なら……。


「解りました。お話します。私達が言える範囲のことになりますけれど。

ウォル?」

「ああ、覚悟はできている」

「いい度胸だ。僕達の信頼を裏切るだけの価値がある説明を期待しているよ」

「でも、その前に……ちょっとだけいいですか?」


 私は部屋の隅に投げ捨てた荷物を持ってくる。

 中をがさごそ、探して。あった!


「その前に何? 沈黙の誓いとかするのかい?」

「いえ、私はごく普通の女官なのでそういうの、やり方解りませんから。

 ただ……」

「セイラ~~。お腹すいた~~~」


 空気を読んでか、それとも逆に読まないからか。

 どちらにしてもリサがいいタイミングで声をかけてくれた。


「うん。解った。ちょっと待って」


 リュックの底からソーセージを取り出して、携帯用の鍋に入れてから、コッフェルに火をつけた。


「君は……何を?」

「食事、しませんか。皆で。話はその後に」

「え?」「食事?」


 パリパリとソーセージの皮が弾けて肉の焼けるいい匂いが広い部屋に漂い始める。

 流れた血の匂いと緊張した空気をかき消すように。


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