人国 神の塔の探索 その4
勇者のチームは四人パーティで『神の塔』を攻略していた。
それは、私が小説内で間違いなく書いたことだ。
鎧騎士の見習いである槍の勇者が前線で敵の注意を引き付け、隙を見て魔法の勇者カロッサ様が魔術で援護。聖女が治癒を担当し、勇者がダメージを与える。というのが勝利パターンだった筈。
援護する人数は増えても基本は変わらない。
「エルガー! 姉上とカロッサの準備が整うまで鳥の注意を引き付けるんだ」
指示を出すシャルル王子。でもこちらの武器攻撃範囲から離れ、天井近くを飛ぶ機械鳥にはこちらの武器攻撃はなかなか届かない。
なんとか、叩き落とすかしないといけないが、こちらには二人の魔術師以外に遠距離攻撃できる人材はいない。
向こうが攻撃してきてくれれば、隙に攻撃できるけれど、自分の体力減少を自覚してかホバリングを続けている。
「最初は、我々を甘く見て積極的に攻撃をしかけてきました。反撃する形で徐々に体力を削っていったのですが、面倒と見てか後半は上空に構え、鋼の羽と風系魔法で遠距離攻撃に切り替えたのです。その際、回復役である聖女リーゼラが狙われてしまい……」
とは、シャルル王子がアドラール様にした説明。
うわっ。部屋に入った時よりも少しずつだけど、体力が回復しているみたい。
「少しずつ、体力が回復しています!」
「解っている。長引かせるわけにはいかないことも!」
長期戦は絶対に不利だ。
「……槍の勇者。王家の秘宝の封印解除を許可する」
「了解! ……嵐の息吹を宿す風の槍よ。疾風駆るその力今こそを呼び起こせ」
王子の指示に槍の勇者、エルガー様は躊躇うことなく、一度だけ大きく深呼吸すると細身の槍の穂先を上空に羽ばたく機械鳥に差し向けた。
使い手の背丈より長い槍。銀の穂先はまるで鏡のように輝き、柄には精緻な文様が刻まれている。
彼の身体から薄い金色の力のようなものが槍に移動すると同時。周囲の風が動き出し、穂先で渦を巻く。
「我が前に立ちはだかる敵を、今こそ蹴散らす!
唸れ!
『ゼフィロス・ストーム!』」
金属の槍は特殊能力を封じられた武器だったのか。
思うより早く、槍から竜巻のような力は立ち上り、機械鳥に襲い掛かる。
相手も鳥だし、空だし、風の魔法を使う相手。
軽く身を躱して直撃は避けたようだ。
けれど、微かに姿勢を崩した僅かな一瞬を見逃さず。後方から金色の光が機械鳥を撃つ。
「聖なる雷霆の矢よ。雷神の怒りよ、我が手に宿りて敵を討て! 『サンダーアロー!』」
細い杖、というかワンドを掲げるカロッサ様だ。
魔法の定番。矢継ぎ早に放たれる雷の矢は、機械鳥の翼、その付け根に剣山のように突き刺さっている。
バチバチと弾ける火花と共に、微かではあるけれど爆発音のようなものもして
『グギャアアア!!』
どこか合成音じみた悲鳴が轟いた。人で例えて言うのなら、右足を折られた、というところだろうか、まだ羽ばたきこそ続けているけれどどこか、不格好でバランスがとれないようだ。
「まだ、ダメか……」
「いいえ。効いています。姉上!」
「お待たせ。二人が時間を稼いでくれたおかげで、じっくりと術力を練ることができたわ。……さあ、雷の怒りを呼び起こす我が魔力を具現化せしめよ。
光の結界よ。敵を逃がすな。今ここで、奴の全てを捕らえ焼き尽くせ。『サンダージェイル!』!」
リュドミラ様の魔力発動は、やっぱりカロッサ様と違う気がする。
魔術師として『呪文を使う』カロッサ様と違って、リュドミラ様は自分の意思で、呪文を従え命じているような感じ。
あくまで、印象だけ、だけど。
じっくりと力を練れたと本人がおっしゃるとおり、発動した光の檻は上空の機械鳥を光のシャボン玉で包み込み、逃げ場のない雷撃で襲う。
『ガ……ガガ……グガガガアガ……』
さっきまでまだ生物と思しき声に聞こえたけれど、今度はどこか壊れたコンピュータの人工音のような感じだ。
羽と身体の制御を失い、地面に叩きつけられるスティームパリデース。
翼の接合部分からは、バチバチと火花が弾けている。
多分、もう飛べないとおもうけれど。
「ウォル! 右を頼む」
「解りました!」
「僕も行く!」
その隙をついて、アドラール様の指示の元、一気に三人の戦士が飛び掛かる。
さっきの術は消耗が激しいのか、槍の勇者さんは肩で息をしているけれど穂先は下げていない。いつでもさっきの術を発動できるように準備しているのかも。
雷撃を二連発で受けて、体内の機械組織が確実に損傷している筈のスティームパリデース。でも、まだ負けはしないというように、身じろぎすると、ダメージが少ない左翼から、鋼の翼を発射。
「くそっ!」
アドラール様の足を一瞬止めると、今度は青銅色の嘴を微かに開いた。
シャルル王子に向けて。
「危ない!!」
三眼族の力で見たのか、それとも動きを察したのか。
ウォルが先に進む王子の腕を渾身の力で引く。
「ウォル!」
立ち止まる彼の鼻先をかすめる圧縮空気。
かまいたち系風呪文だったのだろうけれど、標的に当たらなかった術はそのまま地面を抉り消えうせた。
「ありがとう……」
振り向き、小さく微笑した王子は、もう一度踏み込みスティームパリデースの懐に飛び込んだ。もう一度、と開いた口が、急に動きを止めた。風を何かが切る音がして、開いた口に何かが、吸い込まれて行く。
あれは、ウォルのナイフ? 口めがけて投げたの?
近い距離とはいえ、棒手裏剣のように真っすぐ飛んで突き刺さるのは凄いな。
「……! ………!!!」
もう、悲鳴さえあげられなくなってじたばたと身体を捩らせる機械鳥の頭上に、光を宿した刃が襲い来る。
「機械鳥 スティームパリデース。これで、終わりだ!!」
パキンと、何か、金属が砕けるような音がした。
大上段からの正しく兜割り。
真っ二つになったスティームパリデースの頭は、そのまま火花と共に爆散する。
黒煙が舞い上がって二人の姿が見えなくなる。
「シャルル! ウォル!」
リュドミラ様の絶叫めいた呼び声が響くけれど。
「大丈夫です。姉上。これくらいなんてことはありませんよ」
消えて行く黒煙の向こうから、柔らかい声が応え微笑む。
シャルル王子とウォル。二人の姿と共に。
「よかった。ご無事であったか」
「ええ。皆様の協力のおかげです。特に最後にスティームパリデースの動きを止めて頂けたこと、助かりました」
「いえ。完全に動きを止めるまで発動タイミングが掴めず、申し訳ありませんでした」
今まで気配を感じさせなかったロキシム様の言葉に王子は首を横に振る。
なるほど、最後の最後にもしかしたら繰り出そうとした大技を、ロキシム様がスタンさせたことで防いだのか。
機械鳥には口から超音波とか、よくあることだもんね。
「御助力に感謝し、御礼を申し上げるべきところですが、今はまず仲間の治療を優先させたいのですが良いですか?」
「無論構わないが、回復の役の聖女が意識不明なのだろう? 治療方法はあるのか?」
「それがあいにく。傷を塞ぐポーションも底をついていて、そろそろ帰還を考えていたところだったのです」
「私達の手持ちの治療薬は使いましたが、容体を安定させるのが精一杯ですね。一度戻って神殿での治癒を受けないと、完全回復は難しいかと……」
この世界はゲームとは違う、飲み薬を飲んですぐに体力全開、とはいかず、ポーションはあくまで身体の自然治癒力を高めるもの。完全な治癒には『神の奇跡』がいる。
本来なら長期のダンジョン探索には『神官』の動向は必須なのだ。
今回はあくまで攻略済みのエリアの探索だし、体力に自信ありのアドラール様達だから神官無しで来たけれど、最初の王女救出の時にはちゃんとパーティの中に入っていた。
回復役が崩れるとパーティは危機に陥るのは冒険あるあるだ。
「ウォルや姉上の事情を直ぐに問いただしたいのは山々なのですが、今はリーゼラの治療が優先。一度、我々が退くことをお許し頂きたい。叶うなら、話は再会の機会を作って」
「今から塔を降りるとなるとかなり時間がかかるのでは?」
「ええ。急いで、そして敵との出現を最小限にできたとしても丸一日はかかるでしょうね」
エリアボスとの戦闘でかなり消耗している。まだ魔国側は余裕があるけれど、十階まで四人だけで探索を続けてきて、あげくにエリアボスの襲撃を受けた勇者達は、満身創痍だ。
次に雑魚敵と出会っても全滅しそうで、このまま見送るのは怖い。
「……王子。一つ、お伺いしたい」
「何でしょうか? アドラール殿」
微かに眉を寄せていたアドラール様は自分を真っすぐに見つめる瞳に、何かを決断し頷くと口を開いた。
「我らには安全かつ、迅速に少女に治療を与える方法がある」
「え?」
「迷宮からの帰還方法が確立されているのだ。長くかかっても数刻で彼女を神殿に連れて行くことができるだろう」
「真ですか?」
シャルル王子は破顔するけれど、カロッサ様とエルガー様は警戒の眼差しを崩さない。
気持ちは解るけれど。敵としか教わって来なかった魔国の、しかも獣人からの提案だもんね。
彼らの不信を多分理解した上でアドラール様は続ける。
私達には口を挟む権利はない。
リュドミラ様も沈黙している。
今回の調査団の長はアドラール様。何をどうするかの決定権は彼にしかない。
「故に問う。仲間の命と、人国王族の矜持、どちらを大事と思われる?」




