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人国 『神の塔』の探索 その1

 ダンジョン探索、というのはどんなゲームでも主舞台となり、物語などでも取り入れられることが多い。

 私達がいるのは人国『神の塔』の十七階。 

 魔国のダンジョンは壁もどこか茶色や黒のレンガっぽくて、昏いイメージだったけれど、人国のそれは白い漆喰? 全体的に明るくて、壁沿いと思われる場所には空も見える。荘厳で流麗な雰囲気はまるで神殿か何かのようだ。


「セイラ。羊皮紙に何を書いてるの?」

「方眼線です。この一マスを迷宮の一区画、道の幅と想定してこの道がどのようにどのくらいの長さで続いているかを書き込んでいくんです」

 

 最近のゲームとかであれば、大抵自動マッピング機能がついている。

 でも、実際にマッピングしながら迷宮を探索となると相当に困難を極めることがやってみて解った。

 マッピング一つであっても歩幅を数えながら慎重に描かないといけないし、部屋があったら同じく、歩幅で測らないとならない。必ず方眼に収まるとは限らないし、部屋が四角いとも限らない。書き直しができるように、ペンではなく黒鉛筆もどきを使っているけれど、向こうの世界のように質は良くないからそんなに何度も失敗できない。

 加えて食料品や野営荷物の問題だ。

 例えば人は生存の為に一日2リットルの水を必要とするとされる。

 これは顔を洗ったり、歯を磨いたりの生活用水は別に、純粋に体内に入れた方がいい水の量。探索が数日間に及ぶ時はその日数分の水を抱えていかなければならないのだ。幸い今回の探索では


「必要な水は、魔術で出すようにするから、最小限でなんとかなると思うわ」


 とリュドミラ様が行って下さったのでかなり楽になっている。

 貴重な魔術を水道代わりに使うのは申し訳ないけれど。

 リュドミラ様がいなかったらテレポーターで何度も行き来しないといけなかった。

 それに六人分の食料品と野営荷物。それにランタンとかの必需品を持って歩くのはかなり大変なのだ。ゲームとかのように、異空間に物を入れて置ける四次元ポケットがあれば便利なのになあと思うけれど、そんなものがあるように設定していなかったせいか、今の所は見つかっていない。


 かといって、荷物を置いて歩くと何があるかわからない。魔物などにダメにされてしまう可能性もあるし、万が一、万が一だけれど悪意と知性を持った魔物がいて、毒などを仕込んだりしたら最悪の事態になりかねない。

 だから、結局はチームで手分けして持ち歩くしかないわけで。


「大丈夫か? セイラ。リサ」

「は、はい。なんとか」


 特に重量がある寝袋もどきや毛布などの布や野営道具などは、アドラール様とロキシム様が持って下さっている。

 ウォルも頑張ってくれているけれど十歳だからね。体力的に限界もあって主に食料品担当だ。私達もそれぞれに自分が食べる荷物くらいはもっている。

 食事はやっぱり、力の源、だからね。頑張る。


 日持ちの効くパンに、ベーコン。乾燥野菜、チーズ。干し果物にナッツ類。後はキャンディーやクッキーなどの甘味類に砂糖。コッフェル程度ではあるけれど、火を起こす道具もあるので寝る前にはお茶もどきの飲み物や、水に果実の果汁を混ぜたものなども用意して、体調に配慮しているつもりだ。

 アドラール様達男性陣は、魔国特産のお酒。

 お芋から作る芋焼酎っぽいものや、人国からこっそりと取り寄せたワインなどを飲むこともある。

 お姫様には辛いんじゃないかな、と最初は思ったのだけれど


「人国の捜索の時よりは、ずっと楽だわ。あちらでは補給体制がこのように整っていなかったら、用意した食料が無くなったら、そこまで、だったもの」


 とは向こうでも魔宮調査になんどか駆り出されたというリュドミラ様の談。


「シャルルや勇者の子達も連れて行って、訓練がてら、だったのであんまり先までいかなかったけれど、それでも魔物は多いし、所々にトラップめいた罠もあるし大変だったと思うわ。それに実際は帰路のことも考えないといけなかったから、もっと探索できる時間と範囲は短かったしね」


 年に何度か。人国でも魔宮調査は行われていたという話は聞いたけど、私達とほぼ同じ歳のシャルル様達が、先頭に立って調査を行わなければならないとしたら、大変だったろう。それに魔国と同じなら、魔物を倒しても益になるドロップアイテムは何もないし、ご褒美も特定階まではない。


「まあ、確かに解る気がするな。探索を続け、疲弊しきったところに階段を守るエリアボス。

 でも、苦労して倒しても、死骸は霧散し何も残らず、活用もできない。

 あれは、地味に心が削られる」

「アドラール様……」


 経験者の言葉には重みがある。

先が見えない魔宮探索のモチベーションを維持し続けるのは結構大変なのだ。

 頑張れば見あうリターンが在ってこそ、先に進もうという気力も生まれる。

 ご褒美がないダンジョン攻略に誰が挑むだろうか?

 その辺、『創世神』とやらは解っているようで解っていない。

 

え?

 作者としてのダンジョン設定はどうしてたのかって?

 小説では探索についても

『迷宮で彷徨う事数日、牛歩の歩みではあったが彼らは確実に、歩を進めて行った』

 で、すむもの。

 それに迷宮内で倒した魔物の死体が残る方が悪臭やら、処理など大問題なので、倒したら素直に消えて貰うのは有難い事でもある。せめてドロップアイテムは欲しいけれど。

 ああ、そういえば、かなり上層階に行けば魔物などと有利に戦える武器とかが手に入ったかも。魔国と人国に一つずつ。

 別に勇者専用装備ではなかった筈だけれど、二人の主人公がお揃いのようだ、と笑いあうシーンを描いた気がする。

 何階に置いたかは忘れたけれど、それまでは地道に頑張るしかないだろう。


 地道に魔宮探索を続けること約二日。


「なんとか、地下十七階のマップ、完成しましたね」

「ああ。思った以上に罠や魔性が多くて、先に進めなかった」

「キーアイテムも持ち帰れないようになっていますしね。本当に外れ階の探索はやる気が下がります」


 完成したマップを前に、愚痴を言いあう私達。

 今日はマップ完成祝いに、少しだけ贅沢にみんなでチーズ鍋をしている。

 所謂チーズフォンデュね。


「このベーコンを焼いたものに、チーズを絡めて食べるのは最高ね」

「固い黒パンが嘘のように美味い。流石セイラだな」


 乾燥肉や乾いたパンのような保存食も、チーズを絡めて食べるとかなり美味しい。元はそういう料理だし。

 ダンジョンでは洗い物が大変だけれど、それはリュドミラ様のおかげでなんとかなるので無問題。


「次は十六階。また外れ階よね。あ~、やる気なくなる~~」

「ねえ、セイラ。あの……さあ」

「なあに? リサ」


 無心で鍋をつついていたリサが、ふとため息をついた私の顔を見やる。

 何か、言い辛そうな感じ?


「あのテレポーターで、地下十階までは行けるんだよね?」

「うん。行くだけだけどね」


 テレポーターはだいたいエリアの中央部分にある。入り口設定の低階層からの階段と、上層階への階段の丁度中間あたりに出ることが多い。


「だったら、十階と、十五階? 当たり階っぽいところだけ先に捜索する、とかはダメなの?」

「「「「「あ……」」」」」


 私達は思わず絶句した。

 アドラール様はフォンデュ用の串を取り落としてる。

 そっか。下層階から先の見えないダンジョンを登っているわけではないのだし、今回の目的は当たり階の調査なのだから、先に当たり階を調べればいいんだ。

 いずれ外れ階の調査は行うにしても、戦争前の時間が貴重な時に、馬鹿正直に全部の階を調べる必要は無い。


「そう言われればそう、ですね。失念していました」

「こういう時、なまじ慣れていると固定観念で凝り固まっていてダメだな。

 リサ、助かった」

「本当に、ありがとう。リサ」


 皆に褒められて、リサはちょっと嬉しそう。ダンジョン探索の間、リサはずっと荷物運びで怪物が出ると、真っ先に後ろに庇われていたからね。

 何もできないと気にしていたことを知っている。


「では、次は十五階もしくは、十階の捜索になりますね。どちらを先に調べますか?」

「先に十階はどうでしょう? 私が『神の塔』の中で転移術を得たのであれば十階である可能性か高いですし」

「よし、決まりだ。次は十階攻略。

 転移術の習得が王女以外でも可能なら、次の人国との戦の前に可能な限りの者に習得させたと魔王様はお考えのようにな」

「でも、教える人間は厳選した方がいいと思いますよ。泥棒とかもし放題になっちゃいますから」


 確実な成果を先に見据えた前向きな探索計画は、チーズの鍋が空になるまで続き、私達はその日の夜、幸せで楽しい気分を胸に眠りについたのだった。


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