魔国 物語の始まり
数日後、準備を整えた私達は、魔宮探索の任についた。
今回の目標は人国側『神の塔』の十五階、および十階の到達と調査。
可能なら、その下も行ける所まで、という御命令だけれど
「多分、そのどちらかにエリアボスに守られた『転移術』習得の為の場所が在るの。多分、十階ね。神によって、先に進んだ階で得られるべき呪法が刻まれたのなければ」
人国王女にして『魔女』リュドミラ様がそう教えて下さったからだ。
前回、私達はリュドミラ様を救出する為に『神の塔』十階まで到達した。
ただ、その時はとにかく先に進むのが目的だったから、二十階、十五階のエリアボスは放置して下への階段が見つかったら、即座に降りていたのでダンジョンのマップは穴抜けの所がかなりある。
「十階まではテレポーターで降りれるから、一階層ごとにマップを完成させていくのが良さそうだな」
「そうですね。エリアボスが強敵の時には私とリサは戻って待機の騎士さんと交代するとかすれば、より安全かもです」
「テレポーターとは……便利なものがあるのですね。本当に、セイラが言った通り『神』は私達に早く辿り着いてほしいのかもしれません」
魔宮の塔の一階から一気に二十五階へ。そして繋ぎの扉から人国の『神の塔』への転移を成功させた時、リュドミラ様は本当に、信じられないものを見るような眼差しで、魔国側が、発見した成果品を見つめていた。
「二十五階に、テレポーターの起動機関が設置されていたのは魔国側と同じですね。
ただ、魔国側から一気に二十五階に到達して、起動機関を始動させるというのは想定されていなかったようで、現状、人国側のテレポーターでは地下十階までしか降りられません」
説明してくれているのはアドラール様の直属の部下の御一人。私達がリュドミラ様関係でバタバタしていた間にもコツコツと調査を続けベースキャンプの設置を整えて下さっていた方だ。
「とりあえず今回は、『神の塔』の地図の完成を目指しましょう。一階はほぼ攻略されているのですよね?」
「ええ。小さな村程度ではあるけれど、住環境の整った拠点が入り口近辺に作られているわ」
「人国側では『神の塔』はどこまで攻略されておられる?」
「地上六階くらい、でしたでしょうか? 地図が完全に完成しているのはほんの数階分だと思います」
魔宮はかなり広い。塔というから高層ビル程度の広さだと思って甘く見ていると足を救われる。中は相当に広くって。向こうで言うなら、学校施設(グラウンド込み)くらいの面積は多分ありそう。中の空間が歪んでいるのか、完成したと思しきマップを見てみても四角とか円形とかとかではない。魔国側は特に、ちょっとでこぼこした変な容をしている。
一つの階のマップ作製と探索を完全に終えるには順調でも二~三日は覚悟しないといけないだろう。エリアボスとの戦いなどがあればもっとかかる。
「リュドミラ様。迷宮内で転移術は使えますか?」
「……ダメね。特殊な妨害でもかけられているのかしら?
使えない、とはっきり解るわ。ごめんなさい」
「いや! 外では確かに、そして間違いなく使えたのだ。魔宮攻略に転移術が使えてしまったら、それこそ簡単に行き過ぎてしまう。
『神』は、我らの成長と協力をこそ期待しておられるのだ。お気になさるな」
「アドラール様……」
リュドミラ様に甘いということを指しい引いても、アドラール様の言葉は的を射ている。
向こうの世界のゲームだって、帰還呪文と転移呪文は別物で、ダンジョン内で転移呪文は使えなかった。頭を思いっきり打ちつけるのがオチ。
もしかして先に進めば帰還呪文もあるかもしれないけれど、今は無い物ねだりは止めて、配られた手札でなんとかするのが正解だと思う。
ちなみに、魔宮探索の準備を整える間、リュドミラ様の転移術に関しての実験を魔王様立ち合いの元で行うこともできた。
それによると転移術、と呼ばれるモノはほぼ、向こうのゲームなどでよくあったマーキングした場所に魔力を放出して飛ぶ移動呪文で、運べるものはリュドミラ様の手が抱えているもの。リュドミラ様の身体に触れているもの。一日に転移できる回数は四回程。多分、きっちり魔力の四分の一を使っているっぽい。
今まで魔法使い、という存在もそんなに多くない上、枯渇するほど魔力を使うということも神殿など以外、無かったので、魔力を回復するポーションというものが少なくとも魔国には存在しなかった。
「一晩寝れば、回復するわよ」
とリュドミラ様がおっしゃるとおり、純粋な時間経過による回復を待つしかないようだ。
傷や病気も神殿で『聖女』や『神官』が治癒しているので回復用ポーションや水薬のようなファンタジーアイテムも無い。
いわゆる「薬草」「傷薬」系で本人の自然治癒力を高めるだけだ。
「中世異世界、ファンタジーのように見えて変な所、変にリアルなんだよね」
25階ベースキャンプで装備品や準備品を確認する私が零した呟きを、隣で準備していたリサは拾ったようだ。
「どうしたの? セイラ?」
「リサ……」
「何か、困りごと? 魔宮ってやっぱり怖い?」
心配そうに私を見上げるリサ。
私の服の裾を掴む手が、見れば微かに震えている。
絶対に一緒に行くと譲らなかったリサだけれど、初めての魔宮探索。
しかもちゃんと準備していかないと立派な戦士だって命を落としかねない危険な場所に行くのだ。十歳の子どもが不安になって当たり前。
私達のことは守るとアドラール様は請け負って下さったけれど、通常三人から五人の精鋭が細心の注意を払って少しずつしか進めないのが魔宮なのだから、せめて自分の身とリサの身くらいは守らないと足手まといになる。
ましてやリサは歌姫だ。この世界には向こうのゲームの「吟遊詩人」的に便利な魔呪歌などない。少なくとも私は設定しなかったし、今の時点では見つかっていない。
私だって「サクシャ レベル20」なんて言われてもステータスを見る以外、特別な能力は今の所なにもない。
せめてマッピングや後方支援で役に立たないと。
これから、小説世界の中心である魔宮探索に入る。
ぱしん、とほっぺを叩いて気合を入れる。
ぼんやり悩んだりしている暇はないのだ。
「あ、なんでもないよ。探索の事、ちょっと考えてただけ。
心配かけてごめんね」
「心配してないよ。怖くもない。セイラと今度は一緒に行けるから」
私が頭に手を当てて撫でるとリサは子猫のように私に頭を摺り寄せて来る。
「リサ。初めての魔宮で色々、大変かもしれないけれど、アドラール様達の言う事を聞いて、無理はしないこと。
みんなと一緒なら大丈夫だから、頑張ろうね」
「うん!」
「準備ができたのなら、行くぞ!」
「お気をつけて、行ってらっしゃいませ」
そうして、私達は扉を開き、新たなる魔宮にして物語の主舞台。
『神の塔』の探索に乗り込んだのだった。




