魔国 サクシャのクラスとステータス
今後、どういう優先順位で人国との開戦まで準備を行っていくかを話し合う。
「まず、取り急ぎは人国の魔宮の探索だな」
そう提案した魔王陛下の発言に異論を告げる者は誰もいなかった。
「はい。現状『神の塔』に探索者が誰もいない、という状況と見なされ瘴気や魔性が人国に現れていた場合、私の逃亡があちらに伝わってしまいやっかいなことに……」
「それに関しては定期的に、魔国の探索班を調査に入れているから、そこまで案じることは無いだろう。マップの拡充も進んでいる。現在、地上二十五階から、十八階までの捜査はほぼ終えたそうだ」
「まあ、魔国のお仕事はいつもながら早くていらっしゃいますのね」
「調査を行えばそれだけの見返りがあると、解っているからな。地下二十階において大量の通信石が入った宝箱を手に入れたそうだ。
使い方が知らぬ者にはただの美しい宝石にしか見えないだろうが、魔国側には使い方が残されていたからな」
通信石というのは、不思議な黒い結晶石で特別な手順を踏むと蒼く美しい光を放つ。
一つの結晶石を二つに分けることで、同じ結晶石の間で何故か特別な経路が繋がって会話ができるようになるという。要するに糸なし糸電話。通信制限なし。人国から魔国に通じることも確認されている。
決まった一組にしか使えないとか、送信側が経路を開くと、受信側に問答無用で繋がってしまうとか向こうの世界の携帯電話のような便利アイテムではないけれど、遠距離通信ができるだけでファンタジー世界にはありえない、情報通信革命的がおこりうる。
このアイテムは地下資源が豊富な魔国においてもオーパーツ的なアイテムで、人の手による生産は不可能。魔宮でしか手に入らず、今まではごく限られた所でしか使われていなかった。
今まで魔国側には探索で手に入れた一桁分しか石がなかったけれど、それが大量に手に入ったということはとんでもないアドバンテージを魔国はまた手に入れたことになる。
「魔宮って、本当に『神』からの試練、なんですね」
「どういう意味だ? セイラ」
思わず、吐息と一緒に零れてしまった発言に怪訝な顔をした魔王様に私は説明する。
「上位者からの宿題というか、早く攻略して上に上がって来いっていう意図が見えるんですよ。しかも、できれば人国と魔国が協力し合って欲しいような……」
魔国に存在する魔宮と人国に存在する『神の塔』
この二つは中であり得ない異次元化して繋がっている。
魔国の迷宮は地下に、神の塔の迷宮は上空に向かって作られている筈なのに地下25階と地上25階が同位相として繋がっているあたりからして、高さや深さは見せかけで、最終的に距離と潜り抜けた試練、エリアボスの数などによって攻略が判定されているような気がする。
作者として、この魔宮には当然、ラスボスや作られた理由などを設定していたけれど、今はそれを思い出すことができない。
通信石などのギミックも、国に齎されて政治的に利用されることなんて想定してなかった。あくまで、魔国の王子と、人国の勇者に互いのピンチを知らせる装飾品でしかなかったから。
「それは、確かに有りうるかもしれんな。両者が連絡を取り合い、協力し合って攻略を進めれば国に重要な技術を手に入れながら、もっと早くに先に進めたかもしれない」
「であれば、何故『神』は世界を二つに分け、民も二分割して相争うような状況を作られたのか?」
「でも、もし魔国と人国が同じ国にあったら、どちらかがどちらかを支配する形になって今みたいに対等にはならなかったんじゃないでしょうか?」
「確かに、な。今でさえ人国は魔国の民を見下している。魔国の民にも人国の人間を脆弱な力しか持たぬくせにと下に見る者は存在する」
特に種族の長などにそういう傾向は根強い。
一般市民に偏見が少ないのは、魔王様の御意向と御威光の賜物なのだ。
一緒の国に同じように暮らしていたら、どっちかがどっちかを支配して、隷属化させる未来が容易すぎるくらいに想像できる。
「何か、目的があって『神』は我々を二国に分けられた。そして我らが成長し『神』の元に辿り着くのを待っておられる。
けれど、我らがあまりにも不出来であるが故、導きと介入を行って来た、というところやもしれぬな。予言しかり、『サクシャ』の派遣然り」
「え? 私?」
「魔宮の探索に簡単な見通しがついたら、お前には人国に戻り情報収集を引き続き任せたいところだな。魔国に縛り付けるのはもったいなくもある」
魔王様が意味深に告げた言葉と視線に、思わず目を瞬かせた。
「人国に戻るのは構いませんが……」
「そうえば、さっきから伺う『サクシャ』とはなんだか伺ってもよろしいですか?」
リュドミラ様が小首を傾げている。
そういえば、後でと濁してちゃんと言ってなかった。
「この娘、セイラの『クラス』です。正体の解らぬ未知の『クラス』ではありますが、どうやら『神』の知識を分け与えられているようで、砂糖を産む植物の発見、生活を便利にする道具の提案、発明。有益な戦術的提案など、年齢に見合わぬ知識と力を持つ便利な娘なのです」
リュドミラ様が、納得したように頷くけど、説明された私は、ちょっともやもや。
私の存在が『神』の介入……。
そっか。サクシャは『神』の知識を分け与えられた存在、って言ったのは私だもんね。
ほぼ、物語とか、本、なんてものが存在せず、神話以外に伝説も、英雄譚も無い中世異世界。私が作者。この世界の創造主、だなんては想像つくはずもない。
むしろ、創造主の使い、という風に思われるのか。
「もしかして、私を助けて下さったのも?」
「その通りです。人国に潜ませていたこの娘が事情を知らせてきて、救出を進言。我々としても人国の一大戦力を手に入れるという意味でも有益と判断できたので介入させて頂いた次第」
「そう。では、本当の意味で貴女は、私の命の恩人であったのですね」
輝くような微笑を浮かべると、リュドミラ様は、私の手をぎゅっと、握りしめる。
「セイラ。もし、できればなのだけれど、今後は臣下のような立場ではなく、一人の対等な存在、友として私と接しては貰えないかしら」
「友? 私とですか?」
「ええ。魔国と世界を良く知る先輩として、むしろ私の方が敬意を捧げて、頭を垂れるべきかもしれないけれど……」
伝わるぬくもり。
アカデミアにいた頃とは違って、手荒れや傷は増えたけれど、人を思いやる優しい暖かさは変わらない。
「いえ。嬉しいです。こちらこそ、よろしくお願いします」
「敬語はなくても大丈夫よ?」
「あ、それはおいおい。まだ、殆ど敬語以外の言葉って使った無いので、慣れなくて」
「俺らにはけっこう雑な口調使う癖に」
「うんうん」
「ウォル! リサまで。魔王陛下達の御前なのに」
明るい笑みに部屋が包まれる。
ちょっと恥ずかしくて背けた視線の先、窓ガラス。
すっかり深けた暗闇に顔が映って見えた。
人国の孤児から、中ボスの親友役にランクアップした私。
地球とは違うこの世界生まれの少女ステラの顔。
けれど、窓ガラスに映ったそのステータスには『セイラ』以外の情報はなにも見えなかった。




