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魔国 魔王と魔女王の同盟

「王家に、魔国の女が?」


 怪訝そうに魔王陛下は首を傾げる。

 いきなり、そう問われても意味が解らないよね。

 でも、リュドミラ王女の瞳は真剣そのものだ。


「はい。私が、アカデミアで兄王子による断罪を受けた日、その罪の一つとして背負わされたものが『母親が魔族である』だったのです。

 私の母は父国王の側室でした。元は特異なクラス『魔女』で、私は母のクラスを受け継いだとされていました。しかし、後に生まれた弟に父から受け継ぐはずの『王族』は現れなかった。不義姦通と魔国を奪うべく送り込まれた間諜の疑いがある。お前は罪の子である、と私は大衆の面前で断罪を受け、神の塔に送られ、括られたのです」

「これは、本当です。私とウォルもこっそり聞いていたんですけれど」

「まあ? どうやって?」

「それは、その企業秘密で」


 軽く誤魔化しながら私は、今度はリュドミラ様のフォローに入る。

 断罪舞踏会の一部始終。ついでに婚約破棄についても。


「はあ? 仮にそうだとしても、其方に罪など欠片もないではないか!

 親の罪を何故、子が背負わされ無理難題を押し付けられなければならんのだ!」


 アドラール様が怒りの雄叫びを上げる。

 無理もない。

 傍から聞いていても話に無理がありすぎる。

 どこから、どう見てもリュドミラ王女を正当に王家から追放し、神の塔の生贄にする為の茶番だから。


「……おおよその話は聞いていたが。詳しい事情までは理解していなかったな。

 その上で、あくまで私の主観として意見を述べさせて頂くが、よろしいか? 王女」

「は、はい。お願いします。魔王陛下」


 真剣そのものの眼差しで、魔王陛下を見つめるリュドミラ王女。

 まるで、溺れながら必死で浮かぶわらしべに縋りつく人のようだ。


「私が改めて告げるまでもなく、その罪は……、アドラールが言った通り、親の種族は子の罪とはなり得ないが、おそらく捏造だろう」


 静かな、眼差しと声で、魔王陛下はそう告げる。

 リュドミラ王女の眼差しに、安堵の光が宿ったのが見て取れた。


「まず、魔国において人と、ほぼ同じ外見的特徴を持つ種族は、それほど多くは無い。

 何らかの形で外観に大小とはいえ異形が出る。故にこそ、我らが蔑まれる理由となるわけだが」


 魔国は、異人種のるつぼだから、外見に対して偏見を持つ者はまずいない。

 そして、魔王陛下がおっしゃるとおり、獣人種、巨人種、耳や目に特殊な能力を持つ種もいるけれど、まったく人間と同じ外見で、という存在は殆どいない気がする。


「人と同じ外見をしているといえば、少し耳が長く、尖っていることが特徴の長耳族、第三の目をめくらましやバンダナなどで隠せば目立たない三眼族などが人にかなり近い種族でしょうか。あとは、小柄と押しきれば地獣族と、我らが魔眼族の力の弱い者などならばギリギリ……」


 ロキシム様が指を降りながら数え、告げる。

 地獣族、というのは私の記憶で言う所のドワーフだ。魔国の主要産業の一つである鉱業を一手に引き受けている。加工技術も高くて本当にファンタジー世界のドワーフそのもの。

 大人でも身長、最大130cmくらいで。普通は1mくらい。女性を囲おうとしたら変な目で見られるのは間違いない。

 魔眼族は目に、特別な力を持つ人が多い。石化の魔術を宿すロキシム様は、長の息子で別格に強いけれど、弱い人も人を痺れさせたり、好意を持たせたり、少し先を見通すことができたりする。ただ、それだけに人に知られず、害を及ぼすことができるので、一族の村の外に出る時は、魔封じのアイマスク装着が義務なんだって。


「魅了の瞳を持つ魔眼族が、その力、気付かぬまま人国で生き、王家に拾われた、ということもあるといえば、あるかもしれぬが、それは逆に、本人も解らず、二十数年間誰にも気付かれずにいたということ。

 本人さえも自らが魔国人であることを知らなかった場合、何故、今、それが暴かれるのか?」


 だよね~?

 そんなに簡単に魔国人が人の世に紛れ込めているのなら、私達は諜報活動に苦労したりしない。


「加えて、先ほども告げたが、魔国の血を継ぐ者は人の世ではスキル判定で無能力者と出る可能性が高い。一律ではなく、個々人によって差異が出るというのであればそもそも『クラス判定』というものの信頼性も怪しむべきだ」


 人国においては「クラス判定」が全て。本人が持つ素質を、最大限に発揮する為、という建前から職業選択の自由もほぼないことは、アインツ商会での商取引やアカデミアでの雑用で解っている。

 だから、お金持ちの家とかで芳しくないクラスの子どもが生まれた時には、賄賂を使ってクラスを偽るなんてことをされることもあるようだ。一度クラスが確定されて、証明書のようなものが出されると、それが身分証明になるから。ちなみにお金を積めば偽造も不可能ではない。アインツ商会はそうやって救出した無能力者として買い取った子を守っている。私や、ウォルもアカデミアに入る時は偽造の証明書で『商人』として入った。

 もちろん、そういう裏技はクラス判定によって動かされている国の根幹を揺らがせるので、大規模な判定の時には王族が駆り出されて監視しているそうだけど。


「人国では魔国人の判定が揺らぐように、魔国でも人間の判定には誤差が出るようだ。

 ここでいうのもなんだが、王女のクラスは魔国では『不明』と出る。アインツ商会を預かるヴィクトールも同じであった。

 故に『地上の魔国人=無能力者判定』という仮説も生まれたのだ。

 本人と会ってみないと解らないが、現時点で貴女の母上が魔国人であるという可能性は低いと私は、見る」

「……そう、ですか……」

「何より、貴女は人国王の紛れもない娘であり、認知された王女である。

 胸を張られるがよかろう。その出生は誰に憚ることもない、誇り高きものであると」

「ありがとう、ございます」


 噛みしめるように呟いたリュドミラ様は目を閉じ、手を祈りに組んだ。

 自分を貶める為だけに、無実の罪を被せられたかもしれない母と弟。

 家族のことは考えない、切り捨てる。

 と強がっても、やはり心配だろうと思う。

 彼女が捧げる祈りが、死者に手向けるものでないといいと思う。

 リュドミラ様が魔宮に入ったことで、お二人が人質のような形の監禁か何かでも、せめて生きていて下されば……。


「……私は、将来、魔国が人国を制圧した暁には王女に、人国を導いて頂きたいと考えている。そういう意図や計算故に助けた、と思って貰っても構わない」

「魔王陛下……」

「私は、魔国の民が虐げられることなく、安住の地で平和に生きられればそれでいいのだ。

 人国のように民を滅ぼし、領地を我が物になどとは考えていない」


 子どもが生まれにくい、見えない毒が宿る魔国に、子ども達の、民の笑顔を取り戻したい。それが悲願であると、アインツ商会設立の時、私達に魔王様は告げた。

 長年の人国への怨みとか、その他国王としてのお考えや立場もあるから、全てをうのみにはしないけれど。少なくとも同じ人国の民でさえ、役立たずは切り捨てる。

 と言い放つ人国王子に比べれば、私は。

 作者としても、切り捨てられたモブとしても、この世界の舵取りを任せるのなら魔王様の方がいいと、思えたのだ。


「人国と魔国、互いの不足を補いあい、助け合えば魔宮探索も不可能ではない、と『神』も告げられた通り。

 私は、王女にその架け橋を願いたいのだ」


 演技だとしたら、大したものだなあと思う。

 圧倒的な覇気を宿す絶対強者が、相手への従属ではなく共存を求め、虐げられた王女に手を差し伸べる。

 完璧で感動的なシュチエーションだ。

 私は魔宮の外で、こんなことがおこりうるなんて想像の中でも考えはしなかった。

 キャラクターと言うのは生き物で、時に作者の思惑なんて簡単に飛び越えて行くのだと改めて実感する。


「私は元々第三王女であり、王族でもなく。人国の未来に決定権を何一つ持たない名ばかりの王族にございます。ですが……」


 差し出された魔王様の提案の前に王女様は椅子から立ち上がり、かの方の前に深く膝をついた。忠誠の誓いを立てた時のように、もしかしたら、それよりも強く、真摯な思いを抱いて。


「命と心を共に救われ、なおかつ民と国への温情を示して下さいました魔王陛下。

 その存在と見解、珠玉と存じます。

 かつて、忠誠を誓いました時と同じく、改めて。

 私は魔王陛下に帰順し、我が身命を賭けて理想を叶えるお手伝いをさせて頂く所存にございます」

「うむ、頼りにしている」


 人国の命運はある意味、ここで決したかもしれない。

 と私は思った。

 魔王と魔女王の同盟という、小説ではあり得なかった奇跡の前に。


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