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魔国 自分の立つ場所

「『創世神』が告げた迷宮探索に必要な人材は、おそらくお前達だ。

 まあ、そうでなくてもお前達三人は、魔国の鍵を握る存在だと私は思っていたからな。

 違和感はない」


 魔国を治める我らが魔王陛下は、目を瞬かせる私達に口の端を軽く挙げてそう微笑んだ。


「えっと、随分と買いかぶって頂いていますけれど、ウォルはともかく、私達には魔宮を探索できる実力はないと思います。それに、さっきの『予言』のどこが私達を指し示しているんです?」

「地上に落ちた星。それは、お前の事だろう。セイラ。いや、ステラ」

「あ……」

「ステラ? セイラじゃなかったのか?」

「ううん。セイラも私の名前、なんだけどね」


 怪訝そうに首を傾げるウォルに私は少し肩を上げて見せたあと、魔王様に顔を向けた。


「……そう言えば、魔王様はご存じでしたっけ。

 リサも慣れるまで暫く、私の事ステラって呼んでましたし」


 ステラ、というのはヴィッヘントルクの言葉で『星』を意味するらしい。

 孤児だった私が、この異世界で唯一持っていた自分のものだった。

 でも、この世界が私の小説の世界だと気付いて書き直すと決めた時、地球の名前『セイラ』を名乗ったのは、少しでも責任を取りたかったからだけれど。物語の作者として、話を直すのはステラの仕事ではないと思った。


「お前の詳しい事情にまで、口を出すつもりはない。

 ただ、人国から落され、魔国に落ちた(お前)の提案などか、国を良き方向に動かしているのは間違いないからな」

「ディオ君に降りた存在が、『創世神』だとしても何故『創世神』が私のような者のことを知っているとは思えないですけれど」

「それでいったら、各国の様子や人材まで理解しているのも不可思議ですよね」

「『神』で在らせられるのなら、全知を得ているということもあるのでは?」


 私の存在を、何故『神』が知っているのか?

 頭の名から消えた物語の結末と、ラスボスも含めて、きっと何か大きな、謎。秘密は存在しているのだと思う。

 この世界、ヴィッヘントルクの存在に関わるナニカが。


「お前のスキル、『サクシャ』の知識と、度胸があれば、今までのようにマッピング係と雑用として、魔宮探索に同行してもさして足手まといにはなるまい。 同行者たちの実力も含め その辺は信頼している。

 できるな?」

「解りました。非力ではありますが、勤めさせていただきます」


 目を閉じて受命する。

 元々、一モブに選択権は無いし、物語のメイン舞台は魔宮だ。

 物語を見守るにしても書き換えるにしても、その場に同行しないと意味が薄れるだろう。


「ウォルが『魔の勇者』なのは解りますよ」

「え? 俺?」


 いきなり矛先を向けられて瞬きするウォル。


「俺は、弟や国を守れる戦士になりたいと思っているので、魔宮探索に加えて頂けるなら、それは願っても無いことではありますが、勇者などでは……」


 でも、彼は本来物語の主人公の一人、なのだ。

 目を閉じて、確認するステータス。

 ウォルの名前の上に乗せられた冠は「見習い騎士」だ。


「勇者っていうのは、シャルル……王子のような生まれながらに選ばれた存在じゃ……」

「あら? そうでもないですよ。むしろ一般人に現れやすいクラスだと言われています」


 そう口を挟んできたのはリュドミラ様。

 人国の勇者、シャルル王子とは仲良さそうだったもんね。

 魔国には勇者、という職業やクラスこそないけれど、同格の力を有しているのは間違いない。


「『勇者』という称号は、成長限界が他の者よりも高い存在を指します。 普通の人間から考えると無限と思われるほどの 成長するのだそうです。

 剣を使う勇者もいれば、術を得意とする勇者もいます。

 ただ、本人が努力しなければ、普通人とさして変わないという話もあって 過去の歴史の中にはクラスに溺れて成果を出せなかった勇者もいたそうです。

 多分、貴方にもその素質はあるのだと思います。努力次第だと思いますよ」

「俺にも……勇者の資質が? あいつのように……俺も戦えるのか?

 もしかしたら、肩を並べて?」

「きっと、できるよ。ウォル」


 自分の言葉と思いを噛みしながら、己の手を見つめるウォルの背を私はぽん、と叩く。

 励ますように。

 あいつ、とウォルが指し示すのがアカデミアで出会ったというシャルル王子であることを私はもう知っている。魔宮で出会う筈の二人が密かな友情を育みつつあることも。

 でも。吹聴するつもりはない。

 魔王様に報告しないのは、もしかしたら、諜報員としては失格かも知れないけれど、必要な事態になればきっとウォルが告げるだろう。

 プライベートだからね。こういうのは。


「解りました。俺にどれほどの事ができるかは解りませんが、セイラ同様、全力を尽くします」

「これから、もっとしごいてやるからな。俺なんか超えられるくらいになってみろ」

「はい!」


 弟のように、我が子のようにウォルをかわいがってくれているアドラール様もどことなく嬉しそうで、楽しそうだ。


「あ、じゃあ、リサは?」

「リサ。まだセイラに告げていなかったのか? お前の素性について話をしたのはもう何か月も前の事だぞ」

「色々と、忙しかったみたいで、碌に帰って来てないので……」

「それはゴメン。でも、素性って……?」


 リサは、私と同じ。一緒に魔国に落とされた人間だと思っていたのだけれど。

 疑問に帰ってきたのは何故か質問だった。


「セイラ。何故、人国のクラス判定とやらで、無能力と呼ばれる存在が出てくるのだと思う?」

「え?」

「見せてやれ。リサ」

「…………はい」


 微かな逡巡の後、躊躇うことなく上半身を覆っていた衣を脱ぎ捨てるリサ。

 純情なアドラール様やウォルはまだ未発達な少女の、セミヌードに紅くなっているけれど、そんなのは一瞬の事。


「これは……」


 幼子の身体に残されているそれは、あまりにも衝撃的だった。

 リサが向けた細くて白い背中には深く、抉れたような傷が刻まれている。

 膝を付き、胸元だけを脱いだ服で隠すリサは悲しくも美しかった。

 まるで、何かを……翼を……切り落とした天使のように。



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