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魔国 子どもの時間と始まる何か

 アドラール様と、リュドミラ王女の問題がひと段落ついた、とある日。


「色々と大変だったようね。セイラ……」

「はい……、その、私が色々と弁えずに甘く考えていたのが原因でしたから、仕方ないといえば仕方ないんですけれど」

「セイラばっかりのせいじゃないですけど、こいつはいつも一人であれやこれやと抱え込んで暴走するから……」

「いっつも、私を置いていくんだもの。もう少し置いて行かれる身にもなって欲しい」

「そうそう、追いかける身にもな」

「リサ……、ウォル……」


 私は王妃様に呼ばれてお城にやってきていた。

 ウォルとリサも一緒。プライベートルームである一室には厚い絨毯が敷かれていて、その上で黒髪の男の子が私達の話をきょとん、と小首を傾げながら聞いている。

 小鳥のように円らな瞳を大きく見開いて。


「にいさま、なんのおはなし?」

「ああ、なんでもない。ディオルグ。心配しないでくれ。突っ走るセイラを追いかけるのは大変って話」

「かけっこ? セイラ、はやいの?」

「……似たようなもの、かな? 時々、俺達よりももっと先を見ているような気がする」


 その子の頭を撫でながらウォルはワザとらしく息を吐きだしてみせる。

 せっかく魔国に戻って来たのにずっと休みなしだったのは、私のせいじゃないけれど、暴走する私のフォロー役をウォルにさせている自覚はあるし、リサを置いていっている実感も感じて反省はしているんだから。

 ちなみに、ディオルグとウォルが呼んだ男の子は、ウォルの弟。

 彼が、両親と共に魔国に逃がされた時に、一緒に来た。

 私が最初に会った時は、まだ赤ちゃんだったけれど、もう五歳。

 特別な才能を持ち祝福された『神の真名子』ということで、今は王家に引き取られている。養子だけれど王子待遇。

 王妃様はウォルも一緒に王宮で引き取って育てようと言って下さったのだけれど


「俺は、特別な力も無いし、前線に立って戦いたいので、今のままでいさせて下さい」


 そう言って私と一緒に、魔国の臣下待遇でいることを望んだので、時々、こうして呼んで面会させて下さっているのだ。

 リサは最近、王妃様の側で楽師のような仕事をしていんだって。歌の上手さが見込まれたというのもあるけれど、多分、私達が人国に派遣されるようになったから、寂しいだろうというご配慮だと思う。

 ディオルグ君の遊び相手のような感じで勉強や、楽器などを教えて貰っているのだそうだ。


「そういうのじゃないよ。ただ、皆の為に何ができるかな、って思うだけで……」

「貴女のそういう思いは美徳だと思いますが、本来はまだ幼子である貴方達に背負わせるべきことではないのですよ。陛下は貴女のことを気に入っているから無理をさせていますが……」

「はい。それは重々理解しています」


 王妃様も魔王様も、数少ない子どもで、人国からの避難民である私達を気にかけてくれて下さっている。普通なら平民の孤児には望めないくらいの教育もしてもらったし、引き立てて頂いてもいると思う。


「ご期待に応えられず、申し訳ないなあと。なんとか挽回してお役に立てればいいんですが」

「貴女は十分に頑張っているわ。それは陛下も私も認めています」

「だから、そういうとこ! 

 セイラは無理しすぎなんだってば! もっと気楽に考えたり遊んだりしようよ~」

「だって。私がポカると、他の人に迷惑がかかるんだもん。失敗が、自分はともかく誰かの命を失うことに直結したりもするし。そんな気楽に考えられないよ」


 魔王様がこの前、脅しをかけてきたのは、きっと魔王様なりに私の安全を案じて下さったのだと思う。この間のラブラブ作戦の時だって、一歩間違えばリュドミラ様を危険に晒し、なおトラウマを深めさせてしまった可能性だってあるし。

 何より、私が描いて作った世界なのだ。私には、できるだけ多くの人を幸せにする義務があると思う。とは、誰にも言えないけれど。

 リュドミラ様を救出したことで、物語の内容は少しずつ変わってきている。

 ううん、実はもっと前、私が書き直しを決意してから細かい点では変わり始めているのだ。例えば。


 ふと、横を見る。

 楽しそうに弟と遊んでいるウォル。

 彼は小説の中では、魔国の王子として扱われていた。

 三眼族だから、魔王様、王妃様の子ではなく、王家の養子である設定にはしていたと思う。弟も、多分いた筈。

 予言の力を持っていて、真相に近づく助言をしていた、という話を書いた記憶がある。


「俺は、王子として、そして何より魔王の子として、国を守る義務があるんだ!」


 弟程の力を持たない自分が、王子として扱われるのがコンプレックスで、死に物狂いで修練に励み、彼は国随一と言われる剣の技を手に入れた。三眼族として持つ透視や先見の力で戦士としても右に出る者がいなかった彼が、人国の勇者と出会い、戦いや交流を通して友情を育み、最終決戦に肩を並べて挑むのがこの小説のクライマックスになる予定だった。

 ただ、どうしてもPVが伸びず、色々と……勇者側の女の子とのラブロマンスや闇落ちとかテコ入れもしたけど、反応がなく。

 最終的には決戦前に投げたので、そこまで行っていなかった。


 今のウォルはその頃の『主人公』だった王子ウォルとは同一人物ではない。

 王子待遇は断って、親方やアドラール様を後見人として完全に臣下に降りているからね。

 アドラール様やロキシム様に可愛がられて、剣技などを丁寧に教えられているので戦士としての腕はかなりなもの。でも『主人公』だった頃の必死さが無いから、人国の勇者さえも唸らせる『闇の剣士』までは到達していないように思う。

 逆に魔宮探索知識や、人との交流に関してはウォルの方が上。

 王宮ただ一人の子どもとして『神の真名子』である弟を守る王子として、誰にも縋れなかった頃と違って、たくさんの人がウォルを育ててくれているから。

 私がこっそり、異世界知識も教えているから、文字も書けるし計算能力や会話スキルなどもかなり高い。アインツ商会で商人としても、アカデミアで文官としても即戦力扱いされていた。


 ウォルと魔宮で遭遇し友情を深める筈だったシャルル王子との出会いは、アカデミアの木陰での邂逅に入れ替わってしまったけれど、これが……今後、物語にどう影響していくのか? 正直、私にも解らない。


「ほら、また難しい顔をしているわよ。セイラ」

「あ、王妃様」


 私が色々、悶々と考えていると王妃様が軽く背中を叩いた。


「生真面目な貴女に助けられているのは事実ですが、リサの言うようにもう少し気楽にしてもいいのですよ。

 せめてここにいる間くらいは、子どもに戻って楽しみなさいな」

「ありがとう……ございます」


 そう言って、私をそっと抱きしめてくれる。

 私の直接の後見人である親方の奥様も優しいけれど、王妃様の笑顔は包み込むように暖かい。

 まるでお母さんのようだ。

 この世界では欠片も私の記憶の中にない概念になっているけれど。


「そうそう!

 どうせまた、お仕事だなんだって忙しくなるんだから! 遊ぶときは遊ぶの!

 あ、王妃様。

 せっかくだから歌を歌ってもいいですか?」


 王妃様の胸に身体を預けて甘える私を見て、リサが朗らかに笑う。


「勿論。リサの作る唄は珍しい歌が多いから、好きよ」

「私の、じゃなくってステラ……セイラから教わったものですけどね。久しぶりに私の唄を聞くといいわ。寝てもいいわよ。少し疲れてるんでしょ?」

「リサ……」


 そういうと、リサは部屋の隅に置いてあったリュートもどきの楽器を手に歌い始める。

 艶やかな唇が紡ぎ歌うのは、向こうの世界の子守歌だ。


 リサもこの五年で随分と変わった。

 最初はおどおどして、周囲の顔を伺うような表情が多かったのに今は楽師として自信が出て来たのか、自分の気持ちや思いをはっきりと伝えられるようになった。

 政情不安な国の子どもは早く大人になるというけれど。

 私の中の保育士の記憶は、それを哀しい事だと言うけれど。


 できれば、そんな子ども達は私達で終わりにしたい。

 これから育つ子ども達は、健やかに幸せに生きて欲しい。

 その為にも、この世界に訪れる滅びの運命は、なんとしてでも書き換えるのだ。


 みんな目を閉じ、うっとりと、リサの歌声に皆で聞きほれる。

 彼女の唄う夢の世界にトリップしたかのように。


 だから、気付くのが遅れたのだ。


「ん? おい、どうしたんだ? ディオ?」


 ディオルグ君の明らかに異常な様子に……。

 私が物語を書き換えてしまったが故に始まってしまった、新しいナニカに。

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