魔国 動き出すキャラクター達
今回の襲撃は、私の「アドラール様とリュドミラ王女ラブラブ大作戦」の一環だと思っていた。
アドラール様に怯えて取り付く島もないリュドミラ王女に、少しでも良い所、カッコいい所を知ってもらう為に、襲撃を捏造。ピンチのところをアドラール様に助けて貰おうと思ったのだ。やっぱり、ヒロインのピンチに表れて助けるヒーローは物語の定番中の定番。
お約束と言われようが需要があるから求められる。
まずウォルに頼んで、悪人役を手配して貰う。それから彼らが襲う私達ををアドラール様が颯爽と助けることで、リュドミラ王女の好感度をアップさせようという筋書き。
作戦は無事成功し、リュドミラ王女もアドラール様への苦手意識が少し、薄まったようだった。
以前は見るだけで悲鳴を上げていたアドラール様と、事件の後は並んで買い物し、買ってもらった花瓶に花を生け、新しい食器を買ってもらったお礼にと食事まで振舞った。
「王女が御自ら作られた食事を頂けるとは!」
「まだ、スープと卵焼きくらいしか作れませんけれど……」
「いや、冗談抜きに始めたばかりとは思えぬ腕前だ、美味い!」
アドラール様は凄く嬉しそうな表情で、スープをお代わりしていたっけ。
今は、まだラブラブと言うには遠いけれど距離は確実に縮まった。今後、徐々に親しくなっていけばアドラール様は紳士だし優しいし。何よりリュドミラ王女の事を真剣に思ってくれているし。自然と仲良くなれると思っている。
リュドミラ様の方だって、毎日花を送ってくれていたのがアドラール様だってこと、なんとなく気付いているみたいだし、自分から歩み寄ったくらいだし憎からずおもってるんじゃないかなあ?
まあ、種族も違うし直ぐに恋人同士とか、魔王様が望んでいるような番、とかは難しくても今後、一緒に魔宮探索や人国攻略とかをしていけば両国を繋ぐ架け橋になれそうに思う。
今の所、魔国人同士は混血が普通にあるのだけれど、人国の人間と魔国人の間に子どもができたと報告された例はないそうだ。この場合、女性の方が人間でないと確実に魔国と人の混血とは証明できないし、魔国に流れてくるのは圧倒的に男性が多いし。
魔国人の力に人間の母体が耐えられない可能性があるとかないとかも。
「だから、貴女も気を付けないとダメよ。
妊娠出産というのは本当に、何がおきるか解らないのだから」
と以前私にも王妃様が注意して下さったこともあったくらいだ。
それを知った上で、リュドミラ王女をアドラール様とくっつけようとか、自分の種を与えるとかいう魔王様は、けっこうホントに魔王だと思うけど、その辺は為政者である以上割り切るべきところなのかもしれない。
いずれ、魔王様的には人国を滅ぼした後、リュドミラ様とその御子を人国の王に立てるとかも考えてそう。御子ができれば、だけどね。
まあ、とにかく進展して何より、とお気楽に思っていた私は
「気持ちはありがたいが、やりすぎだ。おせっかい子猫」
後でウォル共々、アドラール様に呼び出され、怒られた。
ウォルだけじゃなくって、ロキシム様とか他の人も一緒だったけれど。
「今回は大目に見てやるが、あんなことはするなよ。王女を騙すような真似は好かん」
「え~! なんでですか? せっかく上手くいったのに、っていうか何で私の作戦だって知ってるんですか?」
王都の警備兵詰め所の奥で、正座みたいに座らされて、柔らかいとはいえ二度目の拳骨を落とされた私は、思いっきりほっぺた膨らませて見せた。
アドラール様とウォルに。
「ウォル。私、内緒でって頼んだよね? アドラール様は演技とかできないからって」
右からは私の抗議、前からは呆れたようなアドラール様の眼差し、さらに左からはロキシム様たちの生暖かい視線。三方向からの居心地の悪い視線に貫かれ、ウォルは困ったように息を吐きだした。
「いや、その……。お前に頼まれたあと、さ。
ロキシム様達に相談して、みんな、ノリノリで協力してくれるって言ってたんだけど、始める直前でアドラール様にバレて」
「え?」
「言っただろ?
俺は役に立たなかった、って。
アドラール様は余計な真似するなって、お前の作戦に乗らなかったんだよ」
「でも、買い物の帰りに予定通りに襲ってきて、そしてアドラール様、ちゃんと助けに来て下さったじゃない?」
「アレはホントに、本物のごろつき」
「え?」
「ちょっと根回しが足りませんでしたね。まあ、魔王様にせっつかれて焦っていたことは解りますし、良い作戦だと思ったので協力するのもやぶさかではなかったのですがちゃんと手配を終えてから実行に移すべきだったと思いますよ」
「悪ノリするな。ロキシム!」
上司の怒声にロキシム様が、どこか困ったように苦く笑う。
なんかこう、悪戯がバレた子どものような……。
「じゃあ……あの男達は、本当に?」
頭の中が真っ白になる。
水をかけられたような。あるいは霜が降りたような。
「キャアアアアア!!! 嘘! 私、リュドミラ様をホントに危険に晒したの?」
ヤバい! 拙い!! 怖い!!!
もし、リュドミラ様が、ついでに私も攫われたりしてたら、物語の書き直しどころじゃない。世界が滅ぶ前に、魔王様に殺される!
「セイラ。ちょっと落ち着けって」
思わず悲鳴を上げてしまった私の背中をウォルがぽんぽんと叩いてくれる。
「そこは、まあ、大丈夫。
一応王女とお前には監視っつーか、護衛がいつもついてんだよ。で、俺達が説教されていたところに、その監視からマジで襲われてるって連絡があって。アドラール様がかっとんで行ったってわけ」
「策に溺れたな。俺がもしロキシム達の様子に気付かず、いつものように魔宮探索の下準備に出ていたら間に合わなかったかもしれないぞ」
「おや、ここの所『探索は姫君が回復してからだから、彼女をお助けするのは探索の大事な準備だ』と言って館に日参して、夜も警備しておられたのは誰ですか?」
「黙れ!」
皆、笑ってるけれど、笑い話にして下さっているけれど。
怖い。
ホントに、マジで、心底、怖い。
物語を書き直す、なんて偉そうに思ってるけれど、登場人物も事件も、私の思い通りには動いてくれないのだと改めて実感した。
今回は、一応結果オーライにはなったけれど、今度はロキシム様の言う通り、しっかりとした根回しと準備をしないといけない。反省。
という訳で、色々と予想外のことは起きたけれど、その後アドラール様とリュドミラ様の仲は確実に改善された。魔王様も、とりあえず満足して下さったみたい。
後は、こっそりと自然に、お二人が仲良くなるのを助けて行こう。
「えっと……姫は、野イチゴなどは好きか? 偶然、その手に入ったのだが……」
「ありがとうございます。食べたことが無いので、食べてみたいですわ。
よろしければ、ご一緒にいかがですか?」
「あ……すまない。お言葉に甘えよう。実は、甘いものに目が無くてな」
そんな必要は、なさそうだけれど。
そういえば……、後でこんな会話をした。
「リュドミラ様、獣人族とか、魔族とか怖くないんです?」
「そういう貴女は?」
「あ~、魔族より私は人間の方が怖かったので」
「私も、似たような感じね。
それに、私、人を外形で判断したり、恐れたりするのはもう止めようと思って。
魔王様も、アドラール様も、本当にお強くて、そして美しいでしょう?」
「……解る気がします」
「私も、あの方達の隣に立てるようになりたいわね」
微笑むリュドミラ様の顔は、優しく、そして美しかった。




