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魔国 悪漢襲撃とヒーローの登場

 絵に描いたようなごろつきの襲来は、明らかに私達にとって不利に見える。

 知らない、見たことのない顔だ。

 年の頃も、かなり若そうな気配。

 背の高い男の群れ。数は……五人かな。

 しかも竜尾族や、巨人族っぽい人も混ざっているから、絵面が悪くて迫力がある。

 こっちは女と子ども二人。

 しかも頼りの大人は、顔が真っ青。膝を付いてしまい、動けないようだ。


「リュドミラ様! 大丈夫ですか? しっかりしてください!」

「ごめん……なさい。セイラ……。身体が……震えて……。

 足に……力が」

「大人しく言う事を聞いて、こっちに来い!」

「ちゃんと、いい子にしてたら、悪いようにはしないからよ」


 悪いようにはしない、なんて悪漢の言葉に信頼度は欠片も無いけれど、私はリュドミラ様の前で庇うように手を伸ばす。

 彼女が戦えない事はそれはそれで構わない。

 リュドミラ王女が本気で魔力を使い、さらに正気を失ってしまえば相手を消し炭にしてしまうことは立証されている。正当防衛とはいえ、相手を殺してしまったら色々と面倒なことになるし。今は、魔封じされているから、そこまでのことはできないだろうけれど。

 一応、魔国全体ではかなり治安のいい部類に入る王都。

 でも、生活する全ての人間が善人であるなんてことは当然ないので、こういう輩もたまに出くわすから対応は慣れている。

 特に私が一人で買い物に出る時とかによく出るんだよね。

 ウォルが一緒の時は、大抵事前に危機を察知してくれるから、出会わずに済むし。


「お断りします。人を呼びますよ!」


 私は服の上から、ペンダントのようにいつも付けているホイッスルに手を触れた。

 大抵は、護身用のホイッスルを思いっきり鳴らして、怯んだ所を全力で走って人通りの多い所に行けば、周囲の大人が助けてくれる。

 女子供に対する、性行為の強要は原則極刑なのでちょっと、遊んでやろう。くらいの男は逃げて行くものだ。人通りの多い所には出てこないし。

 王都には治安維持の為の騎士団の詰め所みたいなところも、複数個所ある。

 後は、王都を取り巻く外城壁の見張りとか。

 何か犯罪行為が在った時には、そこに駆けこめば必ず助けてくれる。


 ただ。


「そんなことさせるかよ。

 せっかく王都に来たのに、なかなか楽しめなくって退屈してたのによ」


 私の脅しにも奴らは怯む様子が見られない。

 今回は、ちょっと裏っぽい所に入り込んでしまったのが拙かった。

 数も多いし、距離も近い。

 服の下のホイッスルを出して、吹いて、それから走って逃げる時間を与えてくれそうにはなかった。

 それでも私一人なら逃げ切る自信があるのだけれど、リュドミラ様のトラウマが予想以上に強く、動けなくなっているのが問題だ。

 彼女を一人、置いて一人で逃げるわけには絶対にいかない。


「私達は、王家の保護を受ける者。手を出せばそれ相応の罰が下ると、解っての事ですか!」


 最後の手段。護身用に持たされている王家のメダルを取り出して見せる。

 七芒星と冠竜。

 ある程度、考えられる頭のある者は、これを見た時点で引き下がる『ご老公の印籠』的なものなのだけれど


「げっ!」

「そんな奴らにバレたら、とんでもないことになる」

「ああ、完璧に証拠隠滅しとかないとな」


 と逆に開き直られることはままある。


「逃げ切れるとでも思ってるんですか?」

「なあに、王都は広いんだ。紛れちまえば騎士団だって見つけられねえよ」


 護身とかこれからとかを考えていない連中には、あんまり効果はないんだよね。

 逃げ切れる筈はないのに、妙な自信があるのは小物悪役の特徴。

 ご老公ものも、大抵はチャンチャンバラバラになるもんね。


「ほら! とっとと連れてずらかるぞ!」

「止めて下さい! 離して!!」

「セイラ!」


 私の手首を掴まれ、カバンが投げ捨てられた。

 ガシャン! と何かが壊れるような音が響く。

 あ~、せっかく買ったお皿や花瓶、壊れたかも!

 やりすぎだ! 後で弁償して貰わないと!


「本当に人を呼びますよ! そしたら、貴方達は終わりで……、あうっ!」


 両手を掴まれ、ぶらんと。猫のように後ろから抱えられてしまう。

 足が地面に付かない。口も押えられて、声も出ない。


「人なんか呼ばせるかよ! 大人しくしてろ!」


 さらにはそのまま、両手を頭上で縛られ。ずぽっと、頭の上から変な袋を被せられてしまった。

 なにこれ? 変な所で用意周到すぎない!

 けっこう怖いよ。これ。


「離して! 止めて!」


「……ちっ! 煩い子猫が。余計な手間をかけさせるんじゃねえ!」

「そっちの女も、ふんじばってずらかるぞ! 一回身体にじっくりと叩き込んじまえば、後は逃げるなんて考えられなくなる!」

「リュドミラ様! 逃げて下さい!!」

「イヤ……。イヤよ……」


 私の声は麻袋に閉ざされて、鈍く袋の中でとぐろを巻く。

 外に、混乱したリュドミラ様には届いていないのが解るからもどかしい。

 手が縛られているからホイッスル出せないし、出しても袋の中だと意味無いし。

 ああ! もう、何やってるの!

 真に迫っているのはいいけど、トラウマをより強めてしまったら意味がないって!


 私はどうしようもない苛立ちが止められなかった。

 サクシャ()が仕組んだことだけれど、ストーリーが思う通りにいかないのはもどかしいどころの話ではない。


 こんな時こそ、小説の見せ場。主人公の登場でしょ?

 早く来て! アドラール様!!

 ウォル(主人公)でもいいから! 早く!!


「「助けて!!」」


「無事か! 王女!!!」

「誰だ!!!」


 私の心の叫びが聞こえた。

 訳では無いだろうけれど、袋の外、声が響く。

 陽光のように眩しく強い、声が。


「! 貴様ら、魔王陛下の威光輝く王都で一体何をしている!!」


 空気を震わせる怒声に、男達の動きが止まったのが解った。

 よかった、と袋の中で、安堵する。

 声しか聞こえないけれど、状況は明らかに変わった。

 モブ女官が抗うしかできない、緊迫ピンチのハラハラドキドキは終了だと解る。


「王国騎士 アドラール!

 王都治安維持を預かる騎士将軍の命に賭けて、貴様らを成敗する!」


 ここからはスーパーヒーロータイム。

 お姫様を助ける主人公の、登場だ。


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