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魔国 王都散策とお約束

 魔国には、辺境領主とか、大貴族とか、そういう概念が殆どない。


 基本的に王都を中心に、全ての魔国民が一つの地下空間に暮らしているからだ。

 正確に計測したわけではないから、解らないけれど、関東平野一つ分くらいの大きさはあるんじゃないかな?

 同じ種族は基本的に近くに住んでいることが多く、それぞれがコミュニティのような街を作っている。一番多いのは獣人族で種類も多い。後は頭に角が在る鬼っぽい有角族とか、翼がある有翼族とか。水の畔に住む魚人族なんて人達もいる。

 どの種族も純血の人は数えるくらいで、混血が進んでいる。純血種が重んじられはするけれど、混血種が軽んじられる事はあまりないそうだ。

 コミュニティで慎ましく暮らしているのは、老人などが多く若い人は殆どが王都で暮らしている。コミュニティはその種族が暮らしやすくできているので、血や特徴が濃い人はそこで暮らすことを選んだりもするけれど。

 魔国の全種族、老人、子どもを含めても多分総人口は20万人を切る。その約半数が王都で暮らしているという。


「賑やかで、活気があるわね」

「ええ。いつも人手不足なので、男も女も子どももやる気さえあれば大体仕事にありつけます」


 農業、畜産業、鉱業が魔国の主な産業で、最近は砂糖の原料である甜菜の栽培に力を入れている。後は主食の芋類ね。小麦や豆もあまり育たないけれど、少しは栽培されている。


「あら、果物なども売っているのね。魔国には野菜や果物などは育ちにくいと聞いたけれど」

「まったく生えない、というわけではないので。あと、多分、それは人国からの輸入品ですね。密輸というか、アインツ商会がこっそり買い付けて魔国に送っている分」

「まあ、いつの間に……」

「その辺はまだ、企業秘密という事にしておいて下さい」


 北や、多少痩せた土地でも育つ砂糖大根、甜菜を発見し、魔国で本格栽培し始めたのは四年前の事。そうして手に入れた砂糖を地上に持ち込み、人国の砂糖より安価で売り出したのが魔国の諜報組織 アインツ商会躍進の始まりだ。最初は鉄鋼や宝石を主商品とする予定だったのだけれど、出所を探られると色々と面倒な事になりやすいので、人国でも手に入らないことはない砂糖と化粧品にシフトした。

 ファンデーションは葛粉をベースにセレナイト(雲母などを)混ぜたもの。リップは人国で手に入れたオリーブオイルに魔国産の赤色鉱などで色を付けて。化粧水なども人国などでは持て余し気味だった花を安く買い取って作っている。

 どれも人国でも頑張れば手に入るものを知識で加工した、と言いぬけている。その辺、代表を任されたヴィクトール様は超有能なのだ。

 アインツ商会はあくまで地上の情報収集拠点だけれど、得た収入で穀物などを買い付け魔国に送っているので、昔は貴重品だったパンや果物なども最近は王都でなら、庶民の手にも届くようになってきた。

 魔国に無いものは多いけれど、人国に無くて魔国にある貴重な資源は多い。

 それらを元手にして、弱小領地を買収。拠点を作り人国でも少しずつ影響力を高めている。

 転移陣があるから、流通も比較にならないくらいスムーズだし盗難の心配も少ない。

 色々と怪しんでいる者はいると思うけれど、とにかくお金と品物と情報を惜しまず使って立ち回っているので、砂糖、化粧品、そして最近は鉄鋼などにおいてアインツ商会=魔国の影響は確実に強まっていると思う。

 アインツ商会に勤めているのは魔国育ちの人間と、人間系の魔国人が多い。戦闘力と、特殊能力で多少の事があっても自分でなんとかできる者が選ばれているから力づくとか買収も効かないし。

 私も、アインツ商会に入れて貰えただけ、信頼されていると思いたいなあ。


 因みに、魔国の特産とか、土地の特色とかは小説ではほぼまっさら。

 ざっくりとしか書いていなかったし、設定もしていなかったので、私も知らず、一から学び、そして魔国の人達と新たに作り上げたものだ。

 私が書いた小説はあくまで魔宮の冒険が中心。

 それも途中でエタったから背景である各国の特色や生活とかは殆ど書いてなかった筈なんだよね。自分の書いた世界の事を、自分が全く分かっていないという不思議。

 小説というのはあくまで、その世界の一部分で、全てではないのだと、こうして思いがけなく身体で感じて理解した。


「食べ物の屋台も多いようね?」

「仕事で忙しい人が多いので、手軽に食べられる料理が人気なんです。

 何か買ってみますか?」

「ええ。ぜひ」


 リュドミラ様のリクエストで、広場に並ぶ屋台から蒸かし芋と串焼きの鶏肉を買った。

 所謂ヤキトリね。


「熱いので、火傷にお気を付けて」

「うわあ。本当に熱々ね。でも、美味しいわ!」


 調味料はそんなに発達していないので、シンプルに塩。芋は軽くバターが添えられているだけの味付け。でも素材がいいせいか、かなり美味しい。特に鶏肉は地鶏風で歯ごたえが良く、噛みしめると肉汁がじわりと染み出て来る。


 はしゃぎながら焼き鳥にかぶりつく美女ははっきり言って目立っている。

 王都は仕事面に関しては男女の差別は殆どないので、広場にも男女入り乱れていているし、種族もそれこそ様々だけれど。それとはやっぱり別で品のいい美女が、いかにも御のぼりさん、って雰囲気ではしゃいでいたら、目立つのは仕方がない。


「食べ終わったら、外に行きましょうか? 日用品とかその他も欲しいものがあれば買い足しますから」

「解ったわ。ありがとう。美味しかったです」

「いや、こちらこそ。まいどあり」


 丁寧な礼を言われて、照れている獣人族の店主に私も頭を下げて、歩き出す。

 ……ちゃんと、着いて来てくれているかな?

 後ろや、周囲はなるべく見ない。

 リュドミラ様にバレちゃうと困るからね。



 それから、私達は日用品のお店とかを何件か回って、花瓶とか、調理用の道具とか、コップとかを買い足した。


「魔国の道具は、作りが丁寧なのに安いのではなくって? これだけ買っても銀貨で収まるの?」


 この世界の通貨は人国、魔国何故か共通。貨幣はその国ごとに作ってるからおなじじゃあないけれど。

 銅貨一枚100円くらい? 銅貨100枚で、銀貨一枚と、銀貨10枚で金貨1枚と交換になる。


「鉄や、粘土、ガラス用の珪砂は豊富ですから」

「私は人国の相場をあまり知らないけれど、多分、もっと高いわよ」

「そうですね。でも、お金って貯めこんでいてもあんまり意味がないので、宵越しの金は持たない、みたいな人が多いんですよね」


 あんまり居住環境は良くないし、寿命もそこまで長くない。

 いざ、戦争となれば男性はほぼ徴兵されることになっているし。

 定期的に訓練もされている。

 だから、日々を楽しく生きようという人が多くて活気があるとも言えるね。


「ところで、セイラ。荷物を全部持たせてしまっているけれど、重くない?」

「すみません。実はちょっと重いです。その辺で少し休んでいいですか?」

「勿論いいわよ。半分持ちましょうか?」

「いえ、流石にお姫様にそんなことはさせられないです。

 私は従者なんですし」


 でも確かに、ちょっと持ち歩くには重くなってきた。買い物用の帆布バックが、そろそろいっぱいだ。紐が肩に食い込んで痛い。

 私の身体はまだ10歳かそこらの女の子だからね。

 広場から離れた路地で、鞄を外して壁に背を預け、ちょっと一息。


 うん、そろそろかな?


「おい、そこの姉ちゃんたち。疲れてるなら、俺達の所で休んで行けよ」

「あら、いいのですか?」

「リュドミラ様。ダメです。逃げましょう」


 言葉だけ聞けば優しく感じるけれど、実際にその場に立ってみればそれは間違いだと解る。下卑た笑いを浮かべた男達が、路地の前後左右から、私達の行く手を遮ってしまった。


 う~ん。お約束って感じ。

 ここまでベタだと逆に笑えて来る。


 文に描いたような、ごろつき、悪漢の登場である。



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