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魔国 魔王女の決断

 説明を終え、部屋を出ていかれた魔王陛下の後を追うようにお付きの方などが出て行かれ。

 部屋の中に残るのは、二人だけになった。

 シンと静まり返った空気の中、なんと口火を切ったものかと考える私より早く。


「ねえ、セイラ?」

「はい! なんでしょうか?」

「とても……魅力的な方でいらっしゃるわね。魔国の国王陛下は……」

「え……?」


 くすり、と。リュドミラ様はそうおっしゃった。

 自分の言葉に含むように笑っていらっしゃるけれど、紡いだ言葉は社交辞令などではないことが解る。上気した頬、とろりとした瞳、ふんわりと吐き出す息は甘みを帯びている。

 私には解らないけれど、これはもしかして恋する乙女、という奴だろうか?


「魔王陛下は王妃様一筋でいらっしゃいますよ。魔国には後宮とかもないので……」

「そういうのではないから、安心して。

 あの方にとって、私は眼中になど入っていないと、良く解っています」


 私は魔王妃様が大好きなので、いかにリュドミラ王女と言えどNTR展開になるようなら阻止するつもりでいたけれど、そうではないらしい。

 本人曰く。


「ただ、あのように『美しい』方が国の頂点に立っておられると知って、魔国が羨ましく感じただけ。……人国の王宮と、そこに在る人々は……もう、貴女も知っているでしょうけれど迷宮の魔物達よりも油断ならない存在ですからね」

「リュドミラ王女様……」

「私は、もうただのリュドミラ。王族としてどころか、貴族であることも許されず、魔宮に捧げられた生贄。でも……今はそれさえも幸運であったのかもしれないと思っています」


 顔を上げ、私を見つめる眼差しには魔宮での、もしくは目覚めたばかりの時の弱さ、惑いは感じられない。アカデミアの頃の知性と優しさが戻ってきている。


「助けてくれて、ありがとう。セイラ。

 貴女は、私の命の恩人です」

「そんな……私は……ただ……」

「ええ。詳しい事情、話を聞かせて貰えると嬉しいわ。勿論、言える範囲、語れる範囲で構いません。今後の為に、私にはそれが必要だと思います」

「……よろしいのですか?」


 彼女の漆黒の瞳には深い決意が既に宿っているように見えた。


「今まで敵国としてしか考えて来なかった魔国。

 獣以下の魔性としか思ってこなかった人々について、改めて知りたいのです。

 今後、彼らの力を借りることも多くなるでしょうし、新しい故郷となるのですから」

「リュドミラ様……」


 魔王様の御力は凄いな、って思う。

 異種族、戦闘種族が入り混じる魔国を治める魔王陛下。

 でも真の力は強大な魔力や、人の資質や考えを見抜く瞳ではなく、人心掌握術にあると思っている。


「圧倒的な力で叩くべき時も、無論ある。

 だが、弱り切った鳥に生きる気力を取り戻させ、再び飛び立たせる為には『優しさ』の方が効果が高い時が多い。

 お前なら解るだろう。セイラ」


 魔国には、魔王様自身が告げた通り人国から逃れてきた人間がかなりいるけれど、その多くが自ら忠誠を誓い、危険を顧みずに任務に就いているくらいには心酔しているくらいだから。私含め。


「まだ、魔国の事情とか言えない事はありますけど、いいですか?」

「ええ。話せることだけで構わないわ」


 私は、リュドミラ様保護を願い出た時の事を思い出しながら説明を始めた。

 魔王様の意図を潰さないように気を付けながら。



「『神の塔』と魔国の『魔宮』は内部で繋がっているの?」

「はい。人知を超えた力が働いているようで、まったく同じではないのですけれど。

 そのおかげで私達はリュドミラ様を助けに行くことができました」

「何も得るものがない『神の宿題』にそんな秘密があったなんて。

 お兄様、いえ王子達が知ったらさぞ悔しがるでしょうね」


 くすくす、と元兄弟を口にする王女の笑い声には私にも解る嘲笑が混じっている。


「ああ、でも。それで少し、得心が要ったわ。

 セイラ。後で魔王様に繋いでくれる時に、申し上げてくれる?

 区切りがついたら人国の『魔宮』。その探索をお勧めする。と。

 多分、魔国にとっても有益な力が存在しているから」

「有益な力?」

「ええ。『魔宮』で意識を失い、救出されるまでの記憶は朧げにしかありませんが、今、私にはアカデミアにいた時とは明らかに違う術が刻まれているの。

 多分『魔宮』内に攻略特典として用意されたものね。私を求める何かが今後の為に取らせたのでしょう」

「それって、もしかして転移系の何かだったりします?」


 魔国の『魔宮』にあった秘術。

 リュドミラ様曰く攻略特典は転移系のものが多かった。

 転移陣とか、通信石とか、テレポーターとか。


「何者か、おそらくは『神』一刻も早く『魔宮を攻略しろ!』という意図が感じられるな」


 とおっしゃっていたのはアドラール様だった。

 サクシャはともかく、裏設定にしておいた『魔宮』最終階で待つラスボスには確かにそんな思いがあるだろうし。


「ええ。転移術。

 見知らぬところには飛べないけれど、知っている場所や、見知った人物のいる場所には空間を歪めて移動できるようなの。かなり力を消耗するから、多用頻発はできないっぽいけれど。

 我が身一つか、他の誰かを連れて行けるか、どの程度の距離を飛べるかなどはこれから調べた方がいいわね。それから、誰でも習得、はできないかも。

 魔力資質がかなり高めのクラスでないと必要な力を支払えないわ」

「それでも凄いですよ。それって、今、リュドミラ様はお使いになれるのですか?」

「ええ。魔国から人国に一気に、というのは難しい気もするけれど、やってできないこともなさそう。あ、でも行けるのはきっと『魔宮』の中の特別な場所だけね。

 術を得てからの私は人国に移動していないから」

「…………それ、私に言っちゃっていいんです?」


 随分と、朗らかに告げるリュドミラ様に私は少し心配になる。


「私に言うと、魔王様や魔国に知れちゃいますよ。最悪術封じとかかけられちゃうかも……」


 思い返せば『魔女王リュドミラ』は魔国、人国、魔塔関係なしに転移術で移動してよく主人公達を苦しめていた。ご本人が言うように何度も即座に繰り返し使える。という便利なものないようで一度『帰る』と再び現れるまでに、時間を要していたけれど。

 でも、自動車も飛行機も無い中世世界において、転移の術は革命的流通手段なのだ。

 制限はあるけれど、転移術式があることで魔国は人国に潜入できているし、こっそり食料品を仕入れたりできている。転移陣を与えられた魔国の民は万が一の時、命に代えても転移陣を人国には渡さず破壊するように義務付けられてもいるくらいの最重要機密。

 何より


「その御力があるのなら、機会を見計らえば『支払い』踏み倒して人国に戻られることも可能ではないのですか?」


 そう。魔王様が告げたリュドミラ様救出の支払い。

 人国に戻る自由の剥奪は、転移術があるのなら、完璧無意味なものになる。

 でも。


「そうね。でも、そんなことはしないから。信じて頂く為には自分の能力は開示しておかないと」


 自分のこれからを決める情報と決断を、あっさり。

 驚く程に朗らかに謳うように彼女は言ってのける。


「リュドミラ様……」

「セイラ。なるべく早く、魔王様に繋いで貰えるかしら。

 私は、『私』を救い、受け入れてくれた魔国と、魔王様に帰依し、忠誠を誓います」


 と。


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