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魔国 命の債務

 ぼんやりと、虚ろな眼差しで周囲を見回したリュドミラ王女。

 戸惑ってはいるけれど、確かな視力と知性も残っているようで


「どうして、セイラ……が? ここは……、どこ?」

「私の事がお解りになるんですね? リュドミラ様」


 私と周囲を認識し、そんな言葉を零された。


「セイラ。あの人を呼んできます。詳しい事情説明は王に任せなさい。

 それまで貴女は、彼女を話が聞ける状態に落ち着かせておいて」

「はい。かしこまりました。王妃様。ありがとうございます」


 空気を読んでか、静かに微笑した王妃様は頷くと、侍女さん達を連れて退室していかれた。残るのは私と、リュドミラ王女。二人だけ。


「えっと、何からどう説明していいか、解らないんですが、まず、安心して下さい。

 ここには、リュドミラ様を害する者はいません。それだけは、絶対に保証します、できますから。ここはアインツ商会の本拠地のようなものだと、思って下さい」

「……アインツ商会の……。もしかして、貴方達が私を助けてくれたの?」

「はい。正確には、私達の上司というか主が、ということになりますけれど。

 リュドミラ様の事情を知り、捨ててはおけぬと、兵を派遣して下さいました。

 魔宮内でリュドミラ様を発見し、保護して下さったのも主の御意向です」

「魔宮に……兵を? どう、やって? そんな、こと……不可能……よ」


 覚醒直後、ぼんやりしていた思考も会話するうちに、整ってきたようだ。

 褥から頭を上げ、身体を起こした王女は周囲を見回しながら自分のこれまでの状況を思い返したらしい。


「だって……私は……魔宮に……閉じ込められて……うっ!」


 リュドミラ様に課せられた『状況』

 そこからの、通常ならありない『救出』に彼女の視線が泳いだ。

 身体が強張り、苦痛と恐怖が声に宿る。


「ああ。ご無理はなさらず。その点については後でご説明しますが、色々と私達には方法がありまして。とにかく、貴女を……助けたかったんです」


『閉じ込められた』というその後、私達の予想が当たっているのであれば、思い出すのも辛い悪夢が待っていた筈。

 私は『彼女を落ち着かせて』という王妃様の言葉を思い出しながらリュドミラ様の身体に、掌に注意深く触れ、握りしめた。


「!」


 少し、驚いたように身体を震わせたけれどリュドミラ様は振り払ったりすることなく、私の手を受け入れて下さる。


「私……を、助けに?」

「はい。だから、私達……魔国の力を結集しました」

「魔国と……今言った? セイラ」

「そうだ。ここは、魔国。其方ら人国の民が穢れた獣の国と蔑む地の底である」

「魔王陛下!」


 突然、開かれた扉にかけられた声。

 もちろん、ここは魔王城で、城と国を司る方に周囲を慮る必要はないのだけれど。

 ノックも無しに女性の居室に入り込んできた『主』に私は膝を付き、頭を垂れた。

 もう少し、配慮してほしいなあ、と思わなくもないけれど、王妃様が去られた時間から考えて、全てを投げ置いて、即来てくださったと思われるから、文句は言わない。

 言っていい事、悪い事。伝えられる事、ダメな事。

 一国民に過ぎない私には判断できないこともあるから、お任せするしかない。


「魔王陛下? 貴方……が?」


 リュドミラ様が息を呑んだのが解った。


 流れる月光色の髪、強い意思と決意を宿す射干玉の瞳。

 巨大な角。漆黒の翼。

 白皙の肌。朱の唇。

 外見年齢は二十歳そこそこにしか見えない程に若々しく、美しく。

 完璧なまでに整えられた容姿は、その圧倒的な威厳と共に人の心を掴みとる魔力がある。

 人国の王族が美しくない、とは言わないけれど魔王様とはちょっと比較対象にすらできないと私は思っているよ。うん。


「人国王女、いや、魔女たるリュドミラ嬢。

 身体を無理に起こす必要は無い。今は多少の無礼は許す。

 だが、これからの話、心して聞くが良い。

 其方のこれからと、魔国、人国の命運さえ決める重要事項である」

「は、はい」


 私の様子を見て立ち上がりかけた王女に気遣いの言葉を投げた後、魔王陛下は私を見やる。


「セイラ。お前も立て。王女の傍らにて理解を助けよ」

「御意」

「セイラ?」


 許しを得たので立ち上がり、リュドミラ様のベッドサイドにつく。

 視線はほぼ水平。

 互いに見下ろすでなく見上げるでもなく、お互いをみやる眼差しの高さはなんとも形容しづらい私達の関係そのものだ。


「後に詳しく説明するがセイラは我が配下にして、魔国の民。

 そして、其方の命の恩人でもある」

「セイラが、魔国人?」

「色々と思う故はあろうが、今は沈黙し話を聞く事を命じる。

 疑義に関しての返答は後だ。よいな?」

「は、はい……」


 反論を許さない魔王様の言葉と意思の前に、リュドミラさまが気圧されたように頭を下げる。普段は優し気だけど、こういう時の圧倒的な威圧感はやっぱり魔王様。

 文字通り、海千山千。一筋縄ではいかない戦闘種族揃いの魔国を率いていらっしゃる方だからカリスマの高さは半端ない。


「よし。まずは繰り返すが其方の在るここは魔国。魔国の首府にして王たる我、グリトリルの居城である。其方は魔宮にて意識を失いしところ、我が配下に保護され、ここに連れて来られた」



 満足げに頷くと魔王様は、諭すように静かに語り始める。

 王族として今は対等の存ではなく、お前を私達は助けたのだ、とまず最初に示して。


「魔宮? 助けた……」

「其方ら人国の民は『神の塔』と呼ぶと聞く『神の試練』である。心当たりはあろう?」

「……はい」


 リュドミラ様は頷きながらも俯いた。『神の塔』に生贄として投げ入れられた彼女。

 自分の状況に思う所は多分御有りだと思うけれど、今はそれに心を痛めたり向けている暇は無さそうだ。


「其方の救出においては、魔国の思惑によるもの。恩を課すつもりはない。

 どうやって、という詳しい方法も魔国の秘事。今は同じく。

 ただ、放置しておけば死と呪い以外の運命が無かった其方に対し、究極の話。今、私から、其方に告げるのはただ一つの結論、命の対価、支払い要求のみである」

「支払い……ですか?」

「そうだ。死を望んでいたというのであれば、余計な事であったかもしれんが、それでも債務は発生し其方には支払いの義務がある」

「私に……何も持たない。廃棄された王女に、何をお望みなのですか?」


 自嘲する王女に、一切の躊躇なく遠慮なく魔王様は宣告した。


「魔女リュドミラ。其方の身柄と人国に戻る自由。それを魔国は徴収する」


 命と引き換えに課せられた巨大債務の支払いの方が先だから。


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