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迷宮 『神の試練と祝福』

 魔宮。それは創世神の試練、と呼ばれている。


 この地の生命に与えられた巨大迷宮だ。

 人国と魔国に一つずつ存在する。

 そして、いつか踏破しその先で待つ『神』の元へたどり着け、と神話の時代から命じられているのだという。


 人国では『神の塔』とも呼ばれる巨大迷宮は、勿論同じモノではなく、魔国の迷宮は地下に、人国のそれは『神の塔』と呼ばれるように空に向かって聳えているように見える。

 内部は魔物で溢れ、瘴気と呼ばれる澱んだ空気が常に漂っているので、長く滞在すると体調に異常をきたしやすい。

 迷宮の中に誰もいない状態が長く続くと、瘴気と魔物が零れて出て来るので、叶うなら常に誰かが滞在し、探索するのが望ましい。けれど、総50階とも100階とも言われる広大な迷宮の中には宝箱どころか、水も宿も食事ができる安全地帯も殆どなく、魔物を倒しても霧のように霧散するのみ。何のアイテムもドロップしない。

 故に、貴重な人手を割いてまで探索を行う価値はないと人国は年に数度の調査以外はほぼ放置。罪人の牢屋のように活用しているのだと聞いた。


 けれど。

 実は魔国ではかなり本格的に、探索が続けられている。

 私が提言したのもあるのだけれど、その前から魔宮の有用性を知っていたから。


「よく来たな。セイラ」

「お久しぶりでございます。アドラール様」


 テレポーターから降りた私をどうやら待っていて下さったようだ。

 虎頭の獣人騎士が私に向かって、手を差し伸べてくれた。

 私はその手を握りしめる。ふわふわの手が気持ちいい。

 なんて、浸っている暇はない。


「人国の迷宮は、魔国のものと大分勝手が違う。しっかりついて来い。逸れるなよ」

「ありがとうございます」


 私を気遣って下さるのはアドラール様。

 獣人族で、虎のような猫科の顔と人の身体を持つ逞しい騎士様で魔国における魔宮探索のエキスパートの一人。

 地下二十五階まで到達し転移陣を始めとする『神の遺産』を齎した方でもある。


『魔宮を探索することで、有効な技術や術式が手に入る可能性がある』


 その情報が魔国に齎されたのは本格的な探索が始まって、数十年目のことであったという。魔国は強大な御力を持つ魔王陛下の元、国全体が纏まっていたので人国が攻めて来ない時には、魔宮を探索する余裕もあったそうだ。

 とはいえ、いくら調べても、探しても目ぼしい成果が得られない。そろそろ、探索を放棄してもいいのではないかと誰もが思いかけた頃。地下十五階でそれは発見された。


「転移の魔方陣、だと?」


 それは二か所を繋ぎ、空間を移動する特別な術式が籠められた方陣で、片方はなんと魔宮の一階にあった。最初はただの装飾と思われていたそれは後の研究で、両方に魔力を持つ者が力を流すことで、指向性を与え二か所の同じ方陣のある空間を繋ぐことができると解った。方陣を開く為に、一人が残らないといけないので、全員で脱出はできないけれど、迷宮探索の所謂セーブポイントにでき、その後の魔宮探索が格段にやりやすくなったのだ。

 そして転移方陣は生活などにも利用されるようになって流通時間の短縮や、地上に子どもを得る為に隠れ住む人々の命綱として重要な役割を果たすことになる。


 その後、他にも価値あるものが見つかるのではと、本腰を入れて魔宮探索を続けた魔国は地下20階で通信石、そして地下25階で迷宮の主要階層への行き来ができる一種のエレベーターである『テレポーター』と人国の『神の塔』に通じる扉を発見した。

『神の塔』の扉に関しては私が教えてウォルが見つけたのだけれどね。


 私が書いた小説の中では、魔国の王子と人国の王子は、その扉を通じて、邂逅を果たす。

 そして魔国の迷宮と人国の塔に秘められた謎を解くきっかけになる重要な場所になる。

 今回は、その扉を通じてリュドミラ王女を助け出す計画なのだ。


「先発隊が、行った先に印をつけてくれている。

 セイラ。マッピングは任せたぞ」

「はい」


 私には戦闘能力は今も昔も無いので、皆様に探索と魔物退治はお任せ。

 マッピングをしながら一生懸命付いていく。

 リュドミラ王女はお独りだからまだ、そんなに上に上がっては来ないだろうけれど、未知のダンジョン約20数階分。探索は簡単な話ではない。多分、一週間か、十日はかかりそうだ。それまで、ご無事でいてくださればいいのだけど。


 そうして、ダンジョンを下ること約五日。

 私達は見ることになる。


「リュドミラ様!」


 どこか、焦点の合わない眼差しで迷宮を一人彷徨う第三王女の姿を。


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