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人国 第三王子の思い

 打ち合わせの後、私とグリームハルト様は少しだけ、二人だけにして貰った。

 二人だけって言っても、部屋の外に護衛はいるし、時間も遅いから


「セイラ様。明日のご準備や、魔国王陛下とのお約束は忘れないで下さいませね」


 ってアリーシャ様に釘を刺されているので、そんなにいちゃいちゃもできないのだけれど。明日は式典と舞踏会で一日潰れるから、もっと無理だ。


「グリームハルト様。先日は失礼しました。せっかく迎えに来て下さったのに、私結局、夕方まで寝呆けてしまって、その後は赤ちゃん誕生の宴会になってしまって、ゆっくりできなかったですよね?」

「その辺は気にしなくていいよ。パーティはとても楽しかったし、君と一緒に魔国の新しい民を祝福できたことは、とても嬉しいことだったからね」

「ありがとうございます。

 そうだ! あの日、生まれた子にご両親はセインハルトと付けたんですって」

「それは……僕と君の名前から?」

「そうみたいです。ちょっと恥ずかしいですよね」

「でも、少し嬉しくもある。 魔国の民に、僕が君と近しい、そして、未来ある子どもの名前に相応しい存在だと、思って貰えるようになった気がするよ」

「グリームハルト様が、私が魔国から出られない間も時間を見つけては村に来て、村人の相談に乗って下さったりしたからだと思います。今では子ども達、すっかり懐いてますしね」

「村の若長君には嫌われているけど」

「ジャハーン君は、嫌っている、というよりやっかんでいるだけだと思いますよ。

 魔国王女の婿として上に立たれるのは嫌、でも実力は認めているって感じなので」

「そうだといいな」


 隣り合って、そんなたわいもない会話をする。

 通信石でこまめに連絡はとっているけれど、やっぱり違う。

 当たり前の時間が、今はとても貴重に思えた。


「今夜は家に戻られるんですか?」

「いや、君がそっちにいるのなら城に泊まって、時間に合わせて迎えに行くよ。

 式典まで僕も色々とやることもあるし、周囲も煩いし、僕も、君の着飾った姿を楽しみにしたいしね」


 ホッとしたような、でも、ちょっと残念な気持ちになる。


「式典のドレスはどんな感じ?」

「魔国の小人族の皆さんが凄く気合を入れて作ってくれたので、凄く綺麗です。

 限りなく黒に近い濃紺に、青や紫や透明のビーズが華のように縫い付けられていて」

「それは、凄いな。今までも魔国のドレスはお披露目された後、人国の流行になっていた。

 今年のも、きっと女達が夢中になるね」 

「今の私だと、まだドレスに着られているみたいなんで、もっと、スタイルを磨いたり、自分に自信をつけないといけないな、って思うんですけれど」

「大丈夫。君は十分に美しい。魔国王陛下が丹精を込めて磨き育てているのが目に見えるようだ」

「グリームハルト様……。ちょっとほめ過ぎです」

「ほめ過ぎじゃなくて本当のことだから、ね。

 さっきの会話も状況の分析も流石だと思った。今はもう、魔国の統治も半分は手伝っているんだろう?」

「流石に半分までは。人国との貿易を中心に外政関係は預からせて頂いていますけれど、魔国の内政はまだまだです。顔つなぎと本質的な『力』がものを言いますからね」

「簡単に言うけれど、君はまだ十三歳だよ。

 本来ならアカデミアでまだ生徒をしている年齢だ。

 そんな子どもが政務を、特に外交を預かるなんて本来ならとんでもない事だ。

 僕もウィシュトバーンも同じ歳の頃には、まだ王族の自覚なんか、まだ全然無かった気がするよ。それなのに、君の言葉は、簡単に母上達はおろか、父上さえも黙らせてしまう」

「あ~、それは、まあ、そうかもしれません。魔国に戻って三年、本当にみっちり王族教育叩き込まれてますから」


 謙遜はしない。

 お義父様は、私を魔国に連れ戻してからというもの、ご自身で教育計画を立てて、御自ら、私に『魔国王』教育を施している。そのかいあって、貴族や王族としての渡り合い方はかなり身に着いた自覚もある


「お前には『神の国』の記憶があって、素地が整っている。手加減はいらんな」


 ってもう、一切の手加減無し。厳しいのなんの。

 二年くらいは、殆ど休みなしにみっちり『魔国王』の教育を施された。

 歴史、地理、財政に、流通。法律などに加え、魔法に剣技などの実技まで。

 十歳の子どもにやらせるプログラムじゃないと思う。絶対。

 ただ、もうダメだ、と思うタイミングで、休みを与えられたり、ご褒美をくれたりするので投げ出せず、結局お義父様の思い通りに育てられた感がある。少し、息ができるようになったのは一通りの知識、技術を習得した最近のことだ。


「それは大変だね」

「はい。本当に大変です」

「……ねえ、セイラ。

 さっきの『魔宮』探索の休止については魔国王陛下は了承されている?」


 グリームハルト様は聞き上手だな、って思う。

 まずは傾聴。相手の言いたい事を良く聞き、それに共感しながら会話のキャッチボールをする。そして、タイミングを見計らって本題に入る。

 王族としてのテクニックなのかもしれないけれど。

 真剣な眼差しに私も頷いて同意を返す。


「はい。事前にお伝えしてあります」

「最大、どのくらいの休止を予定しているのか聞いても?」

「私個人としては、できる限り引き伸ばしたいと思っているんですが……、それだとグリームハルト様は困るんですよね」


 グリームハルト様が今、一番聞きたいことはこれなんだろうな、と気付いたから。

 思ったとおり、どこか困ったような表情を浮かべて彼は頷いた。


「当たり。僕としては一刻も早く『魔宮』を踏破したい。

 最悪でも『魔王』を倒したいんだ」


 確かに浮かぶ焦りの色。

『魔宮探索を凍結させる』ということは、確かに『魔王』を倒す最大チャンスが遅れる、ということだけれども。


「まだ三年目、ですよ? 猶予まで、あと二年あります」

「……もう、三年だ。陛下と約束した四年まで一年しかない。それに……」

「あっ」


 グリームハルト様が、突然、私の左手首を掴むと、トン、と胸を手で突いた。

 バランスを崩した私はそのまま、背中から倒れて、ソファの背面に背をつけることになる。


「もう、色々と限界なんだ。

 君のいない世界で生きるのは」


 私を押し倒し、覆いかぶさってくるグリームハルト様の、熱の宿った眼差しを見上げながら。


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