第二部 エピローグ 1 魔国 魔国王女の思い
エピローグ 3本やったら、第二部終了です。
一週間後、私は魔国に帰国した。
直ぐに魔国王陛下との帰国報告会が行われる。
「ただいま戻りました」
「随分と遅かったな」
戻った途端、苦労をいとわれる間もなく、お義父様のお説教だけれど、私も遊んできたわけじゃないのだ。
「次にいつ戻れるか解らないので挨拶とか、貿易関係の指示とか、その他できる限りのことはしてきたので」
ホント。次にいつ人国に戻って来れるか解らないから、アインツ商会に貴族リストを残したり、新作のアイデアを伝え、実験したり、といろいろ頑張ってきたのだ。文句を言われる筋合いはあまりない。あ、あと人国でお世話になった方達に御挨拶したりとか。
一番最初にご挨拶しに行ったのは第三王妃様の所で
「ありがとう。セイラ。あの子に。グリームハルトに生きようとする力を取り戻してくれて」
そうエルネリア様に、ハグされた上でお礼を言われてしまった。
肩に濡れた感覚がしたのはきっと涙。
私にとってはグリームハルト様は、出会った時から強かで賢い理想的な王子様に見えたけれど、実際の所はそうではなく、表向きは真面目で、でもその裏ではちょっと怠惰なところも御有りだったらしい。
私と出会ってからやる気を取り戻し、王族としての職務でも精彩を放つようになったという話は、実はエルネリア様以外にも色々なところで聞かれた。
「グリームハルトは心に傷を負っていてね。
見かけは本人の器用さで取り繕っていたけれど、『聖女』にも治療できず、どうにもならなかったのよ。それが見違えるほどに変わったのは、間違いなく貴女のおかげだと思うわ」
と話して下さったのは聖女にして、第一王女フェレイラ様。
「貴女にはミアの裏切りや、エルンクルスの転身などで面倒のかけ通しね。
でも、貴女と出会えたことで、人国はエルンクルスを失った以上のものを手に入れたと思うの」
「こちらこそ、フェレイラ様には陰に日向にととても良くして頂きました。
もし、フェレイラ様と出会えなければ、私はきっとここまで辿り着くことができなかったと思います。今後は条約が結ばれたことにより、魔国との関係も深まって参ります。
私はあまりこちらに来れなくなりますが、今後ともアインツ商会と魔国をよろしくお願い致します」
「こちらこそ、良しなに、ね」
「その後もソフィア様や、アルティラ様。コレット様などに挨拶回りして、国王陛下やウィシュトバーン様、宰相閣下や侯爵などに根回しもして、とっても大変だったんです!」
「グリームハルト王子と寝てはいないな?」
「寝っ!」
苦労して根回しをしてきた娘に向かって、さらっと、そんなことを言ってのけるお義父様のデリカシーの無さに絶句した。
この場合の『寝る』示す意味が、一緒に布団の中でグースカピー、でないことは解ってるから。
「私、十歳ですよ! 私とグリームハルト様を、なんだと思ってるんです!」
「その十歳の娘の唇に触れ、弄んだのが人国の第一と第三王子だろう。
釘は差したが確認はしておかねばならん」
「してません! 過度の接触禁止は守っています!」
「過度でない接触はしたのか?」
「お義父様!!」
戻って早々の派手な親子喧嘩に王妃様や、文官の方達が笑っているけれど、まあ仕方ない。やらかしたのは私だ。
「まあ、多少のことは目溢ししてやろう。
お前はこれから最低二年の間は魔国で、魔国王女と次期魔国王の教育をみっちり叩き込むからな」
「はい。覚悟しております」
神妙に頭を下げてみる。
「今回の騒ぎの原因の一部は、お前の『神の国』の知識と下地に懈怠し、王女としての基本を教え損ねた我らにもある。
私の隣に立ち、政務の代行ができるくらいになるまでは国から出さぬからそのつもりでいるように」
「解りました」
「陛下は、貴女のことが心配でいらっしゃるのですよ。セイラ」
「ベルナデッタ様……」
「余計な口を挟むな。ベルナデッタ」
くすくすと、上品に、でもはっきりと、確かな笑みを頬に乗せる『聖女』ベルナデッタ様にお義父様は憮然とした顔をしながらも止めたり、怒ったりはしていない。
「お義父様のツンデレは解ってますので大丈夫です」
「セイラ。お前はまったく……。まあいい。一通りの報告と検証が終わったら、ベルナデッタの所で検査して貰え。体液交換、特に魔王とのそれの影響が気がかりだからな」
「解りました」
今の所、魔王との接触で体調不良を来したりはしていない。
むしろレベルが上がった感がある。その点も見て貰った方がいいかもしれない。
「それから、セイラ」
「はい」
「第三王子の方はどうだ? 死んではいなかったか?」
「精神、肉体、能力、全ての面で充実し今までにできないことができそうだ、とことでした。必ず、四年以内にお義父様の課題をクリアして、私と共に歩んで下さると言って下さいましたから」
「それは重畳。で、何かできるようになっていたか?」
「グリームハルト様を芸人みたいに……。でも、転移術が使えるようになったみたいです」
「ほほう~」
隠しても仕方のないことだから告白するけれど、その途端。お義父様の瞳がキラリん、と輝いた。 最初は確かに心配してくださっていたみたいだけれど 今はまるで獲物を見つけた鷹のよう。
「私達のそれとは質が違うようですが。私と一緒か、私が呼ぶと多分、どこにでも跳べるっておっしゃっていました」
人国で挨拶回りの中、何度かグリームハルト様と、検証実験をしてみたけれど、私のいない、関係ない状態での飛翔は、目に見える範囲の部屋、もしくは空間だけ。
距離は10m位。ただし、私と一緒であるのなら、イメージできる場所ならかなり移動できるそうだ。最初の城の尖塔の上よりもっと。
フォイエルシュタインのアカデミアまでは行けた。第三王妃の館とアインツ商会の本店にも。魔国まではちょっと無理だったみたいだけれど、私がピンチで、助けを呼ぶような局面なら行けるかも、って。
当分、離れ離れなので検証の続きができるのはもう少し先の話になりそうだけれど。
「それは興味深い話位だな。他者に口付け一つで転移の術を授けるとは。サクシャの力か?」
「え? 魔国王、お義父様のお力では?」
お義父様が転移術を覚えた後、私を強化した。
だから、私とキスをしたグリームハルト様に転移術が移ったんだと私は思ったのだけれど……。
「違うな。私から、であれば王妃も転移術を習得している筈だ。
だが、そのような事実はない。故にお前からで間違いない。セイラ」
え? あ、そうか?
王妃様と魔国王陛下は御夫婦だから、キスよりもっと凄い体液交換、してるよね。
でも、移ってないなら、私が原因か、それともグリームハルト様の才能が凄かったのか?
「お前と口付ければ誰でも移るのかは、検証の必要がある。
後で、王妃にやってみせろ」
「え~。お義母様とキスなんて嫌ですよ」
「成功した時、他の者に転移術を渡すわけにはいかん。黙ってやれ!」
お義父様、横暴!
でも、結果から言えば、お義母様には転移術は移らなかった。
グリームハルト様が、私を守りたいと思って下さり、私がグリームハルト様に助けを求めたから、特別な反応を起こしたのだろう。だって。
私は、グリームハルト様が下さった、無償の優しさと思い。
自惚れていいなら、愛に。
応えたい。応えないといけない。
その為なら、どんな厳しい勉強にも耐えようと、決意を新たにしたのだった。