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魔国 王都観光と逸れた二人

 以前、リュドミラ王女を案内した時にも伝えたれど、魔国の王都は国内の住人の半数以上が住む人口密集地帯である。その数およそ10万人。


 全長は約20kmに渡る城壁に囲まれていて、外には芋や甜菜、麦などを育てる畑がある。住人の約半数が農業従事者で外城壁の近くに住んでいて、毎日外に出ては農作業や採集などに勤しんでいる。

 残りの約4割が商業、工業の関係者で残り1割が王家に仕える公務員や職業軍人などだ。


 子どもの出生率が極端に低い為、殆どの家が夫婦共働き。

 彼らを当て込んでの外食産業がかなり発展しているのが特徴と言える。 だから……。


「こ、これは……美味しいな。鳥の焼き肉か?」

「そうですね。鳥の胸肉を塩と生姜で味付けして焼いたもの、だと思います」

「焼き立て、と言う事を差し引いても、噛みしめる程に味が肉汁と共に口の中に広がって行く……。柔らかいし、様々な部位が選べるんだな」


 魔国にやってきた人国の王子、王女様達はあっという間に、魔国の屋台飯の虜になってしまったようだ。貰った銀貨であれやこれやと買っては舌鼓を打つ姿は実に微笑ましい。


「王都で売っている食べ物は、串焼き系が多いんですよね。食器もいらないですし、その場で食べられるし、串を返せばゴミにならないですから」

「ホントだ。鶏肉、豚肉だけでなく、魚やキノコ? 卵や野菜も串に刺して売っているんだな」

「向こうにはテーブル席があって周囲の店から好きなもの買って食べることもできます。

 店が皿を貸してくれますが自分用の皿や食器を持って来て欲しい料理を入れて貰って食べたりもします。その方が少し安かったりするんですよね」

「工夫しているのね?」

 

 まだ使い捨てや持ち帰り文化がないからね。

 地下である魔国は資源関係も大事にしないといけないから、けっこうエコなのだ。


「あっちの白くて丸いものは?」

「芋団子ですね。芋を潰して丸めて焼いたりしています。お手軽甘味として最近人気なんですよ」

「庶民街で甘味が?」

「ああ。甜菜の栽培しているんだものな」

「ええ。ジャムなどは果物が手に入りにくいのですが、庶民でも砂糖はそこまで高嶺の華ってわけでもないので、芋や豆を素材に色々作っています。味も形も工夫されていて美味しいですよ」

「お勧めは、甘芋を潰して牛乳とバターと、砂糖を混ぜて焼いたもの。しっとりとした甘さが口の中に広がって行くのです」

「ぜひ、食べてみたいわ。リュドミラ。そのお店はどこ?」

「向こうの川沿いです。行ってみますか?」


 こんな感じで主に食べ歩きがメインになっているけれど、安息日の市は日用品の露店も多いので、買い食いしながら色々見て歩いた。

 

「ガラスや鉄、陶器などの店が多いね。細工が精緻で、しかも安い」


 グリームハルト様が目を止めたのはガラスのランタンだった。

 一般用の普及品だけどガラスに花びらの浮彫模様が施されてかなりキレイ。


「人国ではガラスは貴重品なんだ。原料があまり豊富には取れなくてね」

「工業、鉱業などに関して魔国はかなり進んでいると思います。資源的にかなり恵まれていますし。魔王陛下もおっしゃっていましたが、地龍族と言う種族がいまして特に技術力に優れているんです。

 あと、小人族は、その小さな身体と指を生かして細かい細工をするのが得意ですし」


 地龍族、向こうで言う所のドワーフさん達が精魂込めて作る細工ものは繊細で、でも品質の割に魔国ではお手頃価格で手に入りやすい。


「確かに陛下が自慢されるだけのことはある。これだけの工芸品を平民の日常使いの品として露店で売っているというのが凄いな」

「そうですね。その代わりというか、麦や果物、あと木材資源などが弱いです」

「となると、今後はやはり魔国にそういう資源や生鮮食料を提供し、代わりに工芸品や地下資源を輸出して貰うのが妥当だということだね」

「今はアインツ商会がこっそり買い付けた分を魔国に流していますが、目を付けられないように少量ずつなので安定供給できるようになると、きっとどっちの為にもなりますよね」

「そうだね。おや、装身具などもいいものがあるな」

「はい。宝石はやっぱりお高いので、専門店で売ってますけど、こっちは大量生産しているガラスビーズなんです。でも、屋台売りにしておくにはもったいないくらいですよね」

「うん。蒼や赤、黄色、色鮮やかだ」


 ガラスビーズのネックレスとかブレスレットは宝石などを普段使いできない庶民層に人気らしい。向こうの世界の子ども用アクセサリーっぽいけれど、トンボ玉などに工夫が凝らされているので、大人が付けていても違和感はそんなに無いと思う。


「これも人国に持って行ったら流行しそうだね」

「ビーズとか細工ものならあんまり重さも取りませんから転移陣を使って纏まった量を送れそうですね。

 転移陣は人数制限、というか物を運ぶようにはあんまりなっていなくって人が持てる範囲でしか物が持ち込めないんですよ」


 荷物だけ陣においても転移しない。人が持っているとなんとか運べるのだけれど。だから砂糖その他も、何往復もして運ばないとならない。

 まあ、魔国と人国を一瞬で行き来できるだけありがたいのだけれど。


「魔国と人国の転移陣は何本も通じているの?」

「以前は人国に隠れ住む家族の分だけ繋がっていましたが、今は絞られています。

 アインツ商会と村と、くらいですかね」


 隠れ里が軌道に乗ってからは全ての夫婦が里に集まり、子を産んでいる。

 今までは目立たないようにそれぞれの夫婦が山奥などにバラバラで住んでいたので色々な意味でリスクが大きかった。そういう親子を狙った人買いもいたようだし。


「……辛い話を聞くようだけれど、掴まった魔国民から転移陣が奪われるってことは無かったのかな?」

「転移陣の下には爆発の術式の込められた仕掛けがしてあって、発動すれば壊せるそうです。それから、地上に向かう夫婦には原則秘密保持の術式がかけられていて、魔国の秘密をしゃべると命が消えます」

「けっこう厳しいんだね」

「私もそう思ったんですが、それがむしろ民を守るって言われて……」


 幸い、と言っていいのか、指導と管理が徹底していたせいか、人国側に転移魔法陣が奪われた事例は殆どないらしい。多くの場合、命を懸けても人国に行った夫婦は秘密を守ってくれた。秘密保持の術式は非道に見えるけれど、事実、無理に口を割らせようとすると貴重な魔国奴隷を喪うと解ってからは、無理に聞き出そうとしなくなったようだし。


「魔国の政策は勉強になるな。本当に見ると聞くとでは大違いだ」

「私達の国を第三王子に認めて頂けると、嬉しいですね」

「セイラ……君は……」


 第三王子はこの時、何かを言いかけたように思う。でも……


「あああああっ!」

「な、何? どうしたんだい?」


 私は気付かなかったどころか、逆に大声を上げてしまった。


「どうしましょう? 王子! 皆さんと逸れてしまいました!」

「え?」


 気が付けば、私とグリームハルト様の二人だけ。

 リュドミラ様も、アドラール様も。

 ウィシュトバーン王子もフェレイラ王女もコレット様も。

 護衛騎士のリカルドさんまで。


 他の皆さんは、周囲、人ごみの中、どこを見回しても……見つけることはできなかった。

 


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