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人国 強引過ぎるスカウト

 中世異世界においての就業は、現代のような自由契約雇用ではなく、基本的に圧倒的に雇い主有利である。特に人国のような、圧倒的な管理社会で、身分の在る相手に仕えている身分が下の存在にとっては、職場環境はブラックinブラック。粗相をすれば命が落とされることも当たり前の厳しい世界だったりする。


休みも殆どなしで滅私奉公当たり前。労働基準法? 何それ美味しいのレベルである。

 国ガチャ、主ガチャによって当たり外れはあるようだけれど。

 魔国の王宮は、少なくとも私が見て知る中では職場環境が悪くない、子どもも働ける準ホワイトだったと思う。

 私が今、隠れ蓑として所属して言えるアインツ商会もその流れで、社員を大事にしている。正社員の大半が魔国の間諜で下手に厳しくすると寝返られる可能性もあるから。有給や給料福利厚生は整っている方だと言えるだろう。


 そんな中でアカデミアの職員は一種の国家公務員なので、人国の中ではかなりマシな方に位置する。給料も悪くないし、昼休みなども与えられているし、申請すれば給料が減らないですむ休みも数日ある。向こうの世界の有給だね。

 本来なら厳しい採用試験があるのだけれど、私達はアインツ商会が


「見習い達に、礼儀作法やマナー、実務などの実戦経験を与え、次代を担う方々との好を結ばせたいので」


 と逆にお金を少し渡して働かせて貰っている一種の行儀見習い待遇、コネ採用なのであまり煩い事は言われなかった。実力で使えることも示してからは、子どもと侮っていた教師や職員達も、ガンガン仕事を任せて来るし。

 

 まあ、前置きが長くなったけれど、私達の現在の雇用主はアカデミアと国家であり、さらに上がアインツ商会。例え王族、貴族であろうとも無茶ぶりを言われる筋合いはない。筈だった。なのに。


「アインツ商会のセイラ。

 お前を今日より、我が臣下として雇い入れます。頭を垂れ忠実に仕えなさい」


 諸般の事情の為、三日間帰京する。と出した有給申請を踏み潰された挙句、呼び出された第二王女の私室で、私は、既に決定事項と言わんばかりの口調で、そう宣言された。


「今まで、お前はリュドミラと契約を結んでいたのでしょう?」

「はい。従属ではなく商業契約。必要に応じてアインツ商会の技術や品物を提供する、というものですが」

「お前は知らないでしょうが、昨晩リュドミラは魔国の血を引く者、敵国に通じていた疑いあり、と暴かれ王族としての権利を剥奪され、罪人として『塔』に送られました。従事者達はその罪の解明に協力した一部の者以外は連座として処断されています。直接の配下ではないとしても、リュドミラと親しかったお前にも、疑いがかけられているのです」


 部屋の主にして第二王女アルティナ様とは、今まで碌に面識もない。

 っていうか、まともに顔を合わせたのも今日が初めてだ。


「処罰の対象になる所を、私がお前の後見となる事で救ってやろうと言っています。

 伏して感謝を言上し、私に忠誠を誓いなさい。

 リュドミラに献じていた品々も私に捧げる事を許しましょう」


 今まで、アルティナ様は、私に接触して来ることは無かった。

 現在、アカデミアの女性最高位であるプライドからなのか、それともリュドミラ様と同じモノ、というのが嫌だったのかもしれないけれど。

 まさか、リュドミラ様がいなくなった直後に、こんな荒事に出来るとは思わなかった。

 油断したなあ。


「人国の柱たる国王家の麗しき薔薇、王女アルティナ様に失礼ながら申し上げます」

「何ですか? 感謝の礼であるなら聞いてやってもいいですが、反論など許しませんよ」

「いえ。ありがたいお申し出なれど、はっきりとお断りさせて頂きたく存じます」

「なんですって! 私の誘いを断るというの?」


 断られるとは思っていなかったのだろう。王女アルティナは甲高い奇声を上げた。


 私の書いた小説において妾腹で苦労人のリュドミラ様。第一王女として、聖女として名高いフェレイラ様と違い、第二王女アルティナはスタンダードな悪役令嬢として設定されてあった。リュドミラをいびり倒し、多くの男性と浮名を流す正真正銘の悪役令嬢。

卒業後、南方の豊かな穀倉地帯の領地に嫁ぐことになっている。

これでも「貴族」だというのだからクラスというのが本当に意味をなしていないという事がよく解る。

 私は息を大きく、わざとらしく吐き出して、視線を再びアルティナ王女に合わせた。


「私はアインツ商会に所属しており、義父であるヴィクトールに買われた身、忠勤の誓いも立てておりますので、二君に仕えることはできません」

「私がお前をアインツ商会より買い取ると言っているのです。商会と王族の、隷属者売買。

その契約にお前の意思など本来、関係ないわ!」

「であれば、どうぞ、アインツ商会長、ヴィクトールと正式な契約を終えてからお命じ下さい」


 小説よりも我儘さ、傲慢さが明らかにグレードアップしている気がする。

 私自身も彼女の事をそれほど思い入れを持って書き込んでいた訳ではないけれど、手が付けられない駄々っ子のようだ。


「……アインツ商会には既に打診したわ。お前を私が買い取ると……」

「承諾の返事はございましたでしょうか? 正式な書面、もしくは商会長直々の命令があれば私は心よりお仕えいたしますが……」

「あ、あるわよ。勿論。正式な書面はまだ、だけれど……」

「嘘ですね」

「!」


 なるべく冷静に、相手を刺激しないように、と注意したつもりだったのだけれど少し、棘が出ていた事は自覚している。


「商会長が、お父様が、私を簡単に手放す筈がございません」

「第二王女アルティナの要請を、一商人が断るなんてありえないでしょう! 何かの間違いで既に了承されているの!」

「ああ、断りの連絡が届いているのですね。ならばそちらの方が正解です」

「何ですって?」

「義父、ヴィクトールは『私に望まぬ要請に応える必要はない』」と約してくれておりますから。今まで、ありがたくもリュドミラ王女や、侯爵令嬢ソフィア様、そしてアカデミアからも正式に異属のお誘いを頂きましたが、全てお断りさせて頂いております」

「第二王女である私の要請を、リュドミラやソフィアと同列に扱うというの!」

「必要とする相手。売りたい、使って欲しいと思う方に適切な品物を届ける。その前に王族も市民も貧民も関係ありません」

「無礼者!」


 パシン、と手に持った扇子が私の顔面に向けて投げつけられる。

 苛立ちと怒りに顔は真っ赤。

 怒りが爛々と燃え上がっているのが見えた。


「この娘を地下牢に閉じ込めなさい!」

「王女様!」「それは……」

「私の命令に、お前達も逆らうというの!?」


 かくして、私は一切の釈明も、反論も許されること無く地下牢に放り込まれたのだった。

 まったく、自分が書いたとはいえ横暴な王族ってホント、手に負えないわ。

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