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魔国 王族達の異世界転移体験

 魔国王都で魔国では通るのだけれど、正式名称はエイナルシスという。

 闇の国とか影の都とかそういう意味があるらしい。

 人国のような貴族の居住エリアというのは明確には決められていないけれど、街を四角に囲む王都の中央に王城があって、その周囲に貴族に相当する王城勤務者の居住区画がある。城壁に近づくに従って庶民色が強くなっていく感じ。


「改めまして、ようこそ魔国。私の館へ」


 王城から出て私達がまず向かったのは、城下にあるリュドミラ王女のおうちだった。

 魔国に保護されたリュドミラ王女は、今、この館で一人暮らしをされている。多分。

 多分、というのは引っ越して暫くの間は私がお世話をしていたけれど『神の塔』の探索とか、その後、魔王陛下の養女になるとかいろいろあってその後はあんまり関われないでいたからだ。

 でも明るい笑顔で迎えてくれたリュドミラ様と、その傍らで忠犬、と言ったらあまりにも失礼だけれど騎士として佇む変わらぬ虎将軍、アドラール様を見て安堵する。

 私がいなくてもリュドミラ様はしなやかに逞しく、自分の居場所を切り開いておられる。


「私の館、と言って居ましたが、貴女。ここで一人で暮らしているの?」


 心配そうに問いかけたのは姉であるフェレイラ様。

 男兄弟はほぼ敵対関係にあってあまり仲が良くないけれど、姉妹の方はそれほどでもなかったみたいだね。


「はい。王城で魔国王陛下のお手伝いをしたり、魔宮探索に加わったりすることで生活費を頂いて。洗濯などには手伝いの者を頼んだりしますが、基本は料理も掃除も自分でなんでもしておりますわ」

「まあ、姫様が自ら家事を?」

「料理などは特に楽しく、また奥が深く学びが多いです。グリームハルト様が料理がご趣味だと言ったのがよく解りました」

「変われば、変わるものですわね。でも、王宮におられた時よりいい笑顔をされおいでで嬉しい限りです」


 コレット様も顔なじみであったみたいで目を見開いて驚きながらも、リュドミラ様の幸せそうな様子を喜んで下さっているようだ。

 一方で男性陣はといえば、アドラール様に興味深々の様子。


「魔国王の騎士、アドラール。

 この度はリュドミラ王女と貴公らの護衛をさせて頂く。礼儀も弁えぬ武人故、無礼もあろうが許されたい」

「いや、こちらこそ魔国には不慣れな身。何か粗相有ればご指摘頂きたい」


 代表で応えたのは第二王子ウィシュトバーン様だけれど、


「獣人族の肉体、というのはここまで鍛え上げられるのか……」

「マルティも鍛えている方だと思っていましたが、大人と子ども、といった感じですね」


 虎がそのまま人間になったような隆々たる肉体から目が離せない、様子だ。

 マルティ、っていうのは多分、今回留守番に回った第二王子家の魔国奴隷さん。

 まだ顔を合わせていないけれど、狼タイプの獣人族だと聞いた。

 外にも人国にいる魔国奴隷にも獣人族はいるけれど、子どもが多いからここまで鍛えた人はそういないだろうしね。


「アドラール様は魔国でも最高の戦士の一人ですから」

「だが……それでも、肉体的に優れた戦士、特殊能力を持つ騎士を多く有する訳だ。

 魔国を攻略する、と兄上は簡単に言うが……これは……」

「まあ、その辺の話は後にしましょう。

 とりあえずは街の市を案内するように仰せつかっています。予算もたっぷり頂いているので食べたいもの、欲しいものがあったら遠慮なく言って下さいね」


 実際、夜には戻らないといけないので時間はあるようであまりない。


「確かに、こうしている時間が勿体ないな。案内を頼む。リュドミラ。セイラ」

「お任せ下さい。できるだけ、みんな一緒に行動して、万が一逸れた時には王城に向かって戻る事。でも、できれば逸れないようにして下さい。魔国王陛下、怒ると本当に怖いので」


 私が軽い感じで伝えたせいか、皆様の間に笑みが零れる。冗談だと思っているのかもしれないけれど、私は未だにトラウマなのだ。


「じゃあ、行こうか。セイラ」

「はい。行きましょう!」


 そうして総勢十名弱の大所帯で、私達は魔国の城下町に繰り出していった。



 魔国の町は、レンガ、石造りの家が多い。

 そしてとても清潔だ。白やクリーム色を基調とした壁に赤や青やオレンジ。様々な色の瓦屋根が生えている。


「道が綺麗だね。ゴミや汚れがあまり目立たない」

「馬車などは結構行きかっているのに、馬糞とかもないな」


 道路の端を並んで歩く。

 王子様らしい目線で、獣の国、と呼ばれていた魔国の意外な美しさを認めているようだ。


「魔国は地下世界だからか、衛生などにはけっこう気を遣っているんです。肥や馬糞に関しては畑の肥料にするので業者が定期的に買い取っていて、町民のお小遣い稼ぎになっているそうです」

「活気も凄いわね。私達のような目立つ人間が纏まって歩いても誰も気にしないし」

「今日は祭り、という訳では無いのでしょう?」

「はい。ただ、一週間頑張って働いた休みの日、なので今日はパーっと美味しいもの食べて遊ぼうっていう人が多いので、それを当て込んだ店が多いんですよね」

「確かに美味しそうな食べ物屋台が多い。いくつか買って食べてもいいかな?」

「大丈夫ですよ。私が買って来ましょうか?」

「いや、自分で選んで買ってみたくもある」

「解りました。これ、どうぞ」


 私は財布から銀貨を一枚出してグリームハルト様に手渡す。


「これは、銀貨?」

「はい。屋台の食べ物くらいなら、大抵買えるかと」

「魔国も金貨、銀貨、銅貨で買い物をするんだね」

「魔国で鋳造しているので、まったく同じではないですが物価は少し人国より安いかもです」

「セイラ。我々も貰えるか?」

「はい、どうぞ」


 お金を渡すと、皆様、なんだか妙に嬉しそうに眺めたり、触れたり、握りしめたりしている。まるで、初めてお小遣いを貰った子どものよう。

 と思って、気付いた。もしかしたら本当に初めてなのかもしれない。


 以前、リュドミラ様も街に出て買い物をした時、凄く感動していた。


「セイラ。お勧めの店とかあるかな? 色々あり過ぎて目移りしている」

「そうですね。今、行きます。個人的には串焼き系は外れが無いと思いますよ。あと、甘味とか、ですかね?」

「最近、魔国では甘味が本当に素晴らしく発展しているんです。お勧めがたくさんありますよ」


 グリームハルト様に呼ばれて、私は案内役に戻る。

 彼らにとっては、ある意味私とは違う、異世界転移体験なのかもしれないな、と呑気に思いながら。


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