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人国 中ボス救出作戦

 当たり前の懇親会の筈だった夜から一夜明けたアカデミアは、突然の追放劇の話題で持ちきり。

 王国第三王女リュドミラの婚約破棄と失脚は、当然驚きはしたものの、同時にある種の納得と共に受け入れられていたようだった。


「リュドミラ王女は言ってみれば生贄ね。『神の塔』に捧げられた」


 懇親会の翌日、髪結いと化粧の代金を支払いに来た侯爵令嬢ソフィアは、どこか勝ち誇ったような顔で私にそう教えてくれた。

 狙いはリュドミラ様に納めていた口紅らしく


「彼女はもう戻ってこないから、今後はあの口紅を私に納めなさい」


 そう言い放ち、躊躇を見せた私に貴族が知る裏事情を少し零してくれたのだ。


「生贄、でございますか?」

「そう。王国はね、欲していたのよ。『神の塔』が求める餌をね」

「餌とか、生贄とか物騒な話ですね」

「だって、外に言いようがないもの。リュドミラ様……いいえ、魔女リュドミラの能力はなんだかんだいっても国内指折りですからね。彼女が少なくとも死ぬまで人国は『神の塔』に戦力を割かずに済むわ。その間に魔国襲撃の為の準備を進めるおつもりではないかしら?」

「なるほど。そういう意図が……」


 昨日の騒動は、私から見れば低級の茶番にしか見えなかったのだけれども追放側から見れば高度と信じている政治的戦略の結果であったらしい。


 この世界において『魔宮』(人国が呼ぶところの『神の塔』)は大きなアキレス腱のようなものだ。『神』から攻略を命じられた課題にして、魔性の巣穴。

 放置しておくだけで瘴気や魔物を撒き散らし、人々に害を及ぼす。

『魔宮』の中に人を配置しておけば、とりあえず瘴気や魔物の外部流出は抑えられるのだけれども、中にいる人間は瘴気に蝕まれ、数週間から長くても数か月で心身に異常をきたし酷い時には死に至るという。

 だったら、よくあるゲームのように賞金を懸け、冒険者のような存在を募ればいいと思うのだけど、こと人国において住民は完全に近い形で管理されている。5歳の儀式で『クラス』を定められ、職業を決められたら後はそこから抜け出すことはほぼできない。

 軍人系などは特に国家に厳しく管理されているので何が待つのか解らないやっかいな『神の塔』の攻略には人員を割きたくない、というのが正直な所であるようだ。『この世界』が今の容に成立してどのくらいの歴史があるのかは知らないけれど、かなりな年月時間が過ぎているのに、攻略が殆ど進んでいない事からも押してしかるべき。


「リュドミラ様が『神の塔』の影響を抑えている間に、『魔国』遠征攻略の為の準備をするおつもりのようね。今までの小競り合いではない、本格的な攻略戦を行うのだとおっしゃっていたわ」


『見るがいい。我が国の次代を背負う者達よ!

 魔国、魔族の浸潤はもはや王家貴族にまで及んでいる。奴らは狡猾で、今、この時にも豊かで、光り輝く地上世界を手に入れんと虎視眈々、狙っているのだ。

 最近、辺境界隈で隠れ住む魔族を発見したという報告もあった。

 そう遠くない未来、奴らは攻め登ってくる。滅ぼされる前に、我らが奴らを滅ぼすのだ!』


 リュドミラ王女の追放劇の後、第一王子はそう言い放ち、魔国遠征を正式発表したのだという。学園で公布されたということは、既に王宮などにも告知済み。近いうちに一般にも知れるだろう。

 小説の通りならば、だけれど。その後、準備期間も含めて三年間、魔国と人国は戦乱に入りどちらも多大な消耗と疲弊をする。

 その隙をついて出現するのが『魔女王リュドミラ』だ。

 単身で『神の塔』を『攻略』し戻ってきた彼女は魔性を従える人外と化していた。

 そうして彼女は生きた災厄として魔宮の門を開放。

 魔物を世に放ち人国を中心に破壊と殺戮を繰り返す。

 滅亡の危機を迎えかけた人国を救う為に、立ち上がったのが年少の為、魔国と人国の戦乱に参加しなかった第三王子シャルル。彼は仲間達と、途中で出会う魔国の王子と共に魔女王リュドミラを止めるべく『神の塔』を攻略していく。

 という所までが作品として仕上げられた部分だった。


 その後のクライマックスについては、エタったのでまだ私の頭の中にしかない。元々アンハッピーエンドプロットだし、私の癖全開なので、ファンタジーとはちょっと言えない流れになる。それが、この世界でも実現されるのだろうか?

 中ボス、リュドミラとの戦い。ラスボス、というべき存在との戦い。

 世界の真実を経て、この世界がどうなるか。小説通りの道筋を辿るかどうかは解らない。

 でも、今は、辿らせない為にできることをするつもりでいた。


「私、明日から三日ほどお休みを頂く予定でございます。

 父に今回の事を報告してこないといけませんので。口紅に関しても父と相談して参ります」


 そして、情報を集め、残務を熟しその日の夜のうち、私は先行して貰ったウォルと二人分、休暇申請を出して魔国に戻るつもりだった。


「アインツ商会のセイラ。第二王女様のお召である。

 大至急、身なりを整え御前に上がるように」

「え?」


 突然、見知らぬ上層部からの召還命令がかかるまでは。

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