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人国 第三王子のアプローチ

 かくして私は伯爵の仲介で第三王子と面会することとなった。

 第二王女、第三王女、第四王子、第一王女、第一王子、そして今回の第三王子。

 一般の商人がフォイエルシュタインの王族、コンプリートしそうな勢いで縁を得ているなあ。ちょっと怖いくらい。

 それが、いいことなのか悪いことなのかはともかく、とにかく知見は得ておこうということでお義父様にも話をして、面会の準備を整えた。


 場所はアインツ商会本店。貴族用応接室。

王族がわざわざ出向いて下さるとのこと。番頭のジュスターさんと一緒にお出向えする。


「邪魔するぞ。セイラ。

 王子もあまり固くならなくていい。非公式の会談なんだからな」

「そうは言ってもバルナーク。王位継承戦の鍵を握るアインツ商会の姫君との面会です。

 まったく気を使わない訳にはいきませんよ」


銀髪の不良お兄さんって感じの伯爵と一緒にいらっしゃったのは柔らかい金髪に緑の瞳の精悍な若者だった。確か第二王子が十九歳だから、第三王子は十八か七。

でも、身長も高くて、身体も逞しくてもっと年上に見えるかも。


「セイラ。こちらがフォイエルシュタイン第三王子 グリームハルト殿だ」

「始めまして。アインツ商会を幼くして束ねる聡明な姫君。

 黒水晶のような輝ける瞳に、どうか一時、私を写して頂ければ幸いに存じます」

「お初にお目にかかります。グリームハルト様。

 聡明にして、人々への思いやり厚き王子を当店にお招きできましたことはアインツ商会の誇りでございます。どうぞこちらへ」

 

 私が王子のことを見ながら色々と考えているように、王子も私を値踏みしているんだろうなあ、って思いながら応接の間の椅子へと促す。


「よろしければアインツ商会自慢の菓子などいかがでしょう? 甘いものはお嫌いではないでしょうか?」

「ゴテゴテと蜜や糖で飾り立てた甘すぎるものは、好きではありませんが、アインツ商会の菓子は、程の良い甘さがとても心地よく好みです。

 頂いてもよろしいでしょうか?」

「どうぞ。こちらがカステラ、こちらがクッキー。そして、これが最近作り始めたコンペイトウです」

「粒の容がとても愛らしいですね。ただ、それにただ、丸く甘みがあるだけではない」


 星を象ったような粒粒のコンペイトウを手に取り眇める第三王子。その視線の先には砂糖菓子と共に、私が、いる?


「周囲に注意を怠らず、少しずつ、でも確実に注意や知見を積み重ねていく。この砂糖菓子はアインツ商会、いえ、貴女のようですね。セイラ様」

「それは……」


 にっこりと、静かな微笑と共にコンペイトウを口に含むグリームハルト様に、私は今まで出会って来た王子、王女様とは違うどこか、気が抜けないものを感じていた。


 

 少し前に魔国で第四王子 シャルル様が話してくれた人国、フォイエルシュタインの次期王位継承権騒動の話を覚えている。


 現在人国には六人の王子と四人の王女がいる。

 女性には王位継承権がない。

そして、現在の人国連合 フォイエルシュタインの王様は我が子達に


『長子だからと言って相続はさせない。実績をもって次代の王太子は決める』


 と、宣言したので、それぞれの王子達が実績を上げようと文武と策略に勤しんでいる。

 だっけ。

 

 第一王子エルンクルスは父王様によく似ていて、国内の有力貴族を母に持つ。

 今までフォイエルシュタインが踏襲してきた王族貴族の支配下の元、人々をクラスごと管理する体制を望んでいる。

 第二王子、ウィシュトバーン様のお母様は連合国でも力の強いダージホーグの出身で、我が子を王位に着かせることを望んでいる。

 第三王子がこのグリームハルト様で、お母様は国境沿いで一番連合国の中では力の弱いカイネリウスの御出身。ただ人望は厚く、民衆の立場に立った政を目指しているとの話。

第四王子である勇者、シャルル王子は第六王子と同じく母親の身分が低い事と、クラスが王族ではなく勇者、なので争奪戦には参加しない。その代わりこのグリームハルト様に心酔しクーデターを指示しても彼に王位について欲しいと思っているようだ。

 第五王子は神殿の後ろ盾を持っている。表立って今は強く支持されたり実績を得たりしている訳ではないけれど、第一王女が後ろ盾で『神官』のクラス。王子達も無視はできない存在のようだ。

 

「アインツ商会には実は以前から親近感と敬意を持っていたのですよ」

「第三王子様が、私共に?」


 交渉の為のリップサービスだとは解っていても、随分ストレートに攻めて来るな、とちょっと思う。褒められて悪い気持ちになる人はあんまりいないものだし。


「はい。ご存じとは思いますが、母の故郷 カイネリウスはフォイエルシュタインの北方に位置し、野菜や麦などの農作物の育成には適していません。その為、大陸全体ではかなり貧しく、国力も低い。その分、民と公家の距離と団結は強いと自負しておりますが」

「そうなのですね。第三王子は常に民の目線に立ち、共に歩もうとしている、というお噂はかねがね伺っておりました」

「父王や兄上達は、民は国、という機構の部品であり与えられた役割を果たせば良い、というお考えのようですが、私はそうではないと考えています。国と言う機構を動かす部品というのはその通りかもしれませんが、部品も愛着を持ち、丁寧に手入れをすればより良く、長く働いてくれるものでしょう? 全体的な能力や機構も伸びが見込めます」

「そうですね」

「何より、民の血税で我々王族貴族は養われているのです。民が豊かに、幸せになることは我々の幸福にも繋がる。故に幸せになって欲しい。私は、そう思っています」

「とても立派なお考えであると存じます」

「ありがとうございます。私の考えを理解して下さる人、特に女性は少ないので嬉しいですね」


 民の目線に添った、というだけではなく王族としての冷静な計算なども含めた上での人民優先政策というのが優れているな、と素直に思う。第一王子とは大違いだ。


「伯爵に対して無理を言って、紹介をお願いしたのは外でもありません。

 もし、宜しければ、なのですが姫君」

「はい」

「私とお付き合い頂けませんか?」

「お付き合い、ですか?」

「ええ。アインツ商会の商売と、それから個人的にもぜひ」


 そういうと王子は私の前に膝を付き、恭しく微笑んだのだった。


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