94、そして、遍く全てをこの手に。――全次元制覇編開幕。
かつて日本人、プレイヤーだった頃の俺が最も愛し、ときに寝食を忘れて熱中し狂ったように何度も何度もプレイした。
一部に根強い人気を誇る高難易度ダンジョン攻略型RPG〈ダンジョンブレイバー〉。
そのストーリー上のラストダンジョンは魔王城。その最奥に座す少女魔王デスニアを倒せば、ストーリーはクリアとなる。
――だが、そこは進行度で言えば、まだこのゲームの半分にも満たない。
むしろ、そこからがこのゲームの高難易度の本領発揮であり、かつてのプレイヤー時代の俺が狂ったように熱中してプレイした本質だった。
――そう。裏ステージ、数多の次元の先の異世界に君臨する、表ストーリーを遥かに超える強さを持つ邪神たちとの死闘こそが……!
「そ、空がっ……!? わ、割れっ……!?」
「そ、空に穴がっ……!? 幾つもの、穴がっ!?」
「な、何だっ……!? これはっ!? こ、この世の終わりかっ!?」
――観覧席の阿鼻叫喚を背景音楽に、雲一つない青空に、前触れもなく、大小数多のそれが開いていく。
次元の穴。炎獄。氷獄。歯車。死霊。獣。植物――その他その隙間のような穴から覗くだけでは何も判別できない。
その先全てに異なる世界へと、そしてその最奥に座す邪神たちへと繋がる次元の穴が。
……さすがに各国の首脳たちとはいえ、これほどの天変地異、何も知らなければこうして惑乱の極みとなるのも無理はないか。
……いや?
観覧席を見上げ、俺は口の端を持ち上げる。
クインブレン王国、フェストア聖教国、そして元エリミタリア永世帝国。
さすがに全員ではないが、かつての三大国の首脳たちを含む一部の人間は、この事態に混乱しながらも、キッと次元の穴を、その先に座す邪神たちを見つめていた。
さらによく見れば、三大国だけではない。トーリラとフレトを初めとする小国の王の一部のものたちも。
……そしておそらくは、いまこの場にはいない、あの千年を君臨した金髪の元少年帝も。
――右手を天に掲げ、俺は魔力の光を大きく見えるように打ち上げる。
そして、一時的にどよめきがおさまり、再び壇上の俺へと観覧席の注目が集まるのを待ち、宣言した。
「恐れるな! いまここに集まりし、各国の首脳たちよ! なぜならば! 俺は、『この時』を予期していた! ゆえに俺は、あの次元の穴の先へと打って出る! 最強の同胞たちと共に!」
一瞬の沈黙。
そして、一斉に湧き起こる先程とは違う種類の観覧席のざわめきの中、なおも俺は続ける。
「聞け! いまやこの世界は、この俺のもとに一つとなった! 闇も光も、いま全ての力は我が手にある! そして、この世界に生きる全てのものは、我が愛する同胞なり!」
徐々にざわめきはおさまっていった。代わりに観覧席から降り注ぐ数多の視線が、熱を持つ。
――熱く燃え盛るほどの、熱を持つ。
「恐れるな! 我を信じよ! 我が名を唱えよ! 我が征くは覇道! その傍らを共に歩むは、いまや意思を同じくする、この世界の全ての同胞なり!」
「ジュドさま……!」
「ジュドー……!」
デスニアが。アリューシャが。
後ろに控えていた俺の大切な二人の少女たちが、いつか俺が贈った右腕と左腕のあかしのマントをなびかせて、そっと俺の左右へと寄り添う。
「さあ! この俺が愛するこの世界の全ての同胞たちよ! いま一度その魂に刻むがいい! 我が名は、制覇王ジュド! いずれ、この全次元の――遍く全てを手に入れる者なり!」
――その左右にかつて蹂躙し屈服させ、いまは心から信頼し信愛する勇者と魔王の少女二人を従え、俺は宣戦布告した。
天に空く数多の次元の穴。
その先の世界の最奥に座し、いまこのときも間違いなく俺たちを見て嘲笑っているはずの邪神たちに向かって。
「待っていろ! 邪神ども! 必ずやこの俺がそこに征き、おまえたちを蹂躙し、この俺の足下に屈服させてやる! くくく! ふはははは! はーはっはっは!」
そして俺は、全世界の人間の前で誓いの高笑いと共に。
――次なる、そして真なる戦いの始まりを告げた。
〈全世界統一制覇 編、了〉
ひとまずこれで区切りとなります。
ここまでお付き合いありがとうございました。




