91、フェストア聖教国事変・結び。――魔王と聖天司教。その会談。
「多忙の中、俺との会談に応じてもらい感謝する。聖天司教ミョルギニル殿」
「いえ。こちらこそ。魔王ジュド殿」
フェストア聖教国の聖都中心部にある、荘厳かつ壮大な教会型の建築物である聖庁。
その聖庁の長、実質的にこの聖教国を統べる頂点たる聖天司教。
その余人の入ることのない執務室の中。
応接テーブルを挟み、俺はそのまるで全ての色素が抜け落ちたような印象を受ける白髪に純白の法衣を着た色白の男、聖天司教ミョルギニルと向き合っていた。
出された紅茶で一口喉を湿らせると、俺は本題を切り出した。
「……先刻、俺が魔王国エンデよりこの聖教国に放った手の者より報告があった。聖天司教ミョルギニル殿より情報提供を受けたこの国の上層にありながら民を虐げる暗愚どもの粛正、全て完了したと」
「そうですか。では、これでこのフェストア聖教国が全てではありませんが、浄化されたということですね。実に喜ばしいことです」
――感動のないその答え方は、どこか他人事のように思えた。
捉えどころのない男だった。
公的年齢は不詳。若くも見え、それなりに歳を重ねているようにも見え。
常に穏やかに微笑みながらも、その薄く細められた瞳からは、何の感情も色すらも読み取れない。
内心だけで俺が眉をひそめていると。
今度は、聖天司教ミョルギニルが自分用に用意したテーブルの上の水で一口唇を湿らせてから、口を開く。
「では、魔王ジュド殿。先に申し出のありました件、正式に回答をお伝えします。この私、ミョルギニルは天に座す聖なる女神よりこのフェストア聖教国を預かる聖天司教として、御国、魔王国エンデと正式に友好国として国交を結びましょう」
「ああ。こちらこそよろしく頼む」
立ち上がり、すっと差し出された色白の手と固く握手を交わす。
――これで、ついにこの俺の下にこの世界が……!
確かな達成感と安堵に満たされて、俺は再び来客用の椅子に腰を下ろす。
「ふ。……だが、正直いささか意外ではあるな。こう言ってはなんだが、魔族を人類の怨敵と定義した御国が」
「魔王国エンデのいままでの実績によるものです。それに」
ある種の皮肉とも取れる俺の発言に、聖天司教ミョルギニルは全くその穏やかな微笑みをくずすことなく、こう答える。
「我らは所詮、等しく聖なる女神より土地を、国という単位で管理者として預かっているにすぎません。いずれ御使いと共に聖なる女神が降臨されるその時まで、世界はより平和で安定しているべき。そうでしょう?」
「…………ああ。そのとおりだな」
――世界は平和で安定しているべき。
そう答えながらも。そして心からそう思いながらも、俺はどうしようもなく引っ掛かりを覚えた。
――天に座すという聖なる女神。神……か。
ゲームのときには、終ぞ一度もその存在を目にすることなどなかったが、この世界では……いや。いまはまだ考えても詮なきことか。
俺はそこで物思いを振り払い「今日はこれで失礼する」と、ガタッと席を立った。
「では、聖天司教ミョルギニル殿。次は魔王国エンデの友好国クインブレン王国にて開催される、この俺の世界統一制覇記念式典にてお会いしよう」
「ええ。楽しみにしています。魔王ジュド殿」
――不敵に笑う俺に、聖天司教ミョルギニルは、最初から最後まで全く変わることのない目を細めた穏やかな微笑みのまま、そう返した。




