88、フェストア聖教国事変・3。――ニノハの朝と愛しのマスター。
「ふわぁ〜。なんだか久しぶりに、よく寝たぁ〜。……あれ? 朝? じゃあ、やっぱり来なかったり? ならいいけど、ん〜〜! ……って、ぽよ、よん?」
差し込む朝の光に小鳥が囀る中。
なんだか久しぶりに、いい気分で目が覚めたボク。
まだ少し眠い目を擦り、ベッドの上で体を起こし、いつものように大きく両腕を広げて寝間着のまま伸びをすると――伸ばした左手の先にぽよよん、と柔らかな感触……それも、かなり、いや、すごくすごく大きい。
――え!? 待って待って! って、ことは……!
「……………………おはよう。…………………ニノハ」
「わわわっ!? お、おはようございますっ! ボクの愛しのマスターっ! イクチノさまっ!」
その事実に気づいたときに上からかけられたのは、涼やかで小さく、ぼそりとした――ボクの大好きな声。
それからあわてて、ボクはベッドの上で寝間着のまま正座をして、あわてて挨拶を返す。
――もう何度となく伝えたように、ボクにできる精一杯の愛の言葉を添えて。
「で、でもイクチノさま? なんでいまここに?」
頬を紅潮させたまま問いかけ、ちらと見上げれば。
艶やかな黒髪ポニーテールに黒の瞳。
肢体にぴったりとした黒の装束の上に黒のケープマントをそのとっても大きな胸で押し上げたイクチノさまは、こくりとうなずくと。
「……………………通り道。……………………疲れ。……………………代わり」
口元から垂らした黒の布にふぅっ、と息を吹きかけながら、いつもどおりに最小限の言葉で。
――潜入任務で疲れているだろうボクを朝まで起こさないように、代わりに任務は終わらせてあげたよ! 褒めて褒めて!
と、多分ボク以外には伝わらないかも? な優しさと、甘えを滲ませた言葉で、そう教えてくれた。
……だって、黒の布で隠した唇の端がほんのちょっと持ち上がってるなんて、多分ボク以外気づかないですよ? 愛しのマスター。
だからこそ、それがわかるボクは。
「わあ……! ありがとうございます! イクチノさま! おかげでボク、久しぶりに朝までぐ〜っすり寝れました! ボク、ここのところの続く潜入任務で少し疲れてたけど、イクチノさまのおかげで、まだまだがんばれそうです! やっぱりボクの愛しのマスターは、とっても優しくてあったかいですね! えへへ!」
心からの親愛と思慕とありがとうを込めて、花咲くような笑顔でそう応える。
すると。
「…………………………………………ん」
ボクの愛しのマスターは、イクチノさまは、黒の布で覆われた口元の向こう。
さっきよりもほんの少しだけわかりやすく唇の端を上げたまま、照れたようにほんの少しだけ頬を朱に染めて、そう応えた。




