86、フェストア聖教国事変・1。――辺境の見習いニノハ。
――ハイ! 突然ですが、ボクの名前は、ニノハ!
つい先日から、縁あってこのフェストア聖教国の辺境の小さな教会で司祭見習いとして、小柄なボクには袖口がいっぱい余ったサイズのいまいち合ってない青い法衣を着て毎日お仕事を頑張っています!
……ここだけの話なんだけど。実は、一つ前にいた教会では、同じく青いシスター見習いの服を着てたりなんかして。
これには深ぁい深ぁい理由があるんだけど、まあいまはあんまり関係ないので、一度ペッて置いといて。
えっ? 結局どっちなの? 気色悪い? 失礼しちゃうなぁ! ボクってば自慢じゃないけど顔立ちも幼いし、可愛いからどっちもイケるし、大丈夫! 自慢じゃないけど!
それに――おっととと、脱線しちゃった。
とにかくいまは司祭見習いとして、狭い部屋と固くていまいち寝心地のよくないベッドと、最近湿気が強くてぴょんぴょんと跳ね気味な肩までの栗色な猫っ毛と闘いながら、日々頑張っています! ……ボクなりに!
いまは夜! そしてボクがその狭い部屋で向かっているのは、書き物机!
書いているのは、日記……備忘録? 報告書? まあ何でもいいや! とにかく書くのはあんまり得意じゃないけど、ボクの愛しの上役への提出が義務づけられているので、頑張って書きます!
何もない日は、うんうん唸って書くのに苦労したりするけど、今日は大丈夫!
だって今日は、この国で上から数えた方が早い、偉ぁい偉ぁい選ばれた人しか着れない金刺繍を施した白い法衣を着た聖司教さまの一人がこの教会に巡察に来た日だから!
ああいうのって、好々爺って言うんだっけ? 穏和で人当たりのいい、白髪で髭の生えてないおじいちゃん聖司教さまで、名前はペドロスさん!
なんと可愛いボクってば、一目で気に入られちゃったみたいで、ペドロスさんのご指名で案内役を仰せつかって教会内をあちこち案内してあげちゃったりして!
この教会を管轄する司祭さまの元々の予定では、この教会最年長と最年少のシスター見習い二人組で案内とおもてなしをする予定だったらしいけど……まあ仕方ないよね!
だって、二人合わせてもボクのほうがずっと可愛いし! えっへん!
それで、案内中にもどんどんお話して、すっかりペドロスさんと仲よくなったボクは、ついさっきまでペドロスさんにあてがわれた客室に特別に招かれちゃってたんだ!
聖都から持ってきたっていう高級なお茶と、果物のジャムとクリームたっぷりの甘ぁいお菓子をご馳走になったりして!
甘ぁいお菓子っていいよね! 食べてるだけでとろとろ蕩けて頬っぺた落ちそうで幸せになっちゃう!
……さすがに今日のは、ちょっと甘ったるすぎるかな? って気もしたけど、甘いお菓子久しぶりだったから、まあよし! 無料だし!
お茶の味は普段飲んでるのとの違いはボクにはよくわからなかったけど、きっといいものなんだよね! ペドロスさん、高級って言ってたし!
いいなぁ。聖都にも早く行ってみたいなぁ。その頃にはお仕事落ち着いてたら、愛しのマスターと一緒に町娘風にお洒落して、いろんな甘ぁいお菓子を思う存分に食べ歩き……! それか男の子の格好でデートなんてのもいいかも……!
――おっとととと、また脱線しちゃった。
うん! じゃあいまは、その日が来ることを楽しみに、お仕事お仕事!
そうして、ようやく本当の意味で書き物机に向かう気になったボクは羽ペンにインクをつけて書き始めた。
今日さっきペドロス聖司教から聞き取ったばかりの、この辺境の教会では普段漏れ聞こえてしかこない出来事。
――いま、このフェストア聖教国の上層部を根幹から揺るがしている一大事変と、その影響について。




