82、絶対者の慈悲と拒む嘲り。……いま確信は、結果に変わる。
俺たちの眼前に立つのは、迸る圧倒的な黄金の魔力と金色の怒髪を天にたなびかせる永世皇帝ネスカリシュオ。
肌に刺す魔力だけで総身を居竦ませるほどのその姿には、最初にこの部屋に入ったときに俺たちが見た力のない少年帝の面影はどこにもなく、まさしく絶対者と言えた。
くく……! なるほどな……!
確かに、これほどの魔力を自在に引き出し、自身を超強化……! そしてその力を自在に使いこなせるのならば、あの絶対者めいた異様なまでの自信もうなずけるというもの……!
だが……!
「…………何を笑う? 魔王ジュド。気でも触れたのか? まさか、いくら愚劣愚鈍な痴れものとはいえ、いまの余との力の差がわからぬほどの度し難さではあるまい?」
――そう。俺は口元をつり上げていた。
確かに、力の差は圧倒的。俺たちを遥かに超え、おそらくはその魔力量だけなら、裏ステージの邪神級に匹敵する。
だが、それは決して俺たちが勝てないことを意味はしない……!
――ゆっくりと、俺は右手を前にかざす。
「…………止めよ。無駄だ。魔王ジュド。貴公の魔力程度では、いかなる攻撃であろうと、いまの余には届かぬ」
「ふははは! さて、それはどうかな? 永世皇帝ネスカリシュオ……! よく言うだろう? やってみなければ、わからないと……!」
そうして高笑いを上げる俺に、目の前の少年帝があからさまにあきれたように深く長く溜め息を吐いた。
「…………まさか、本当にまさか、とは思うが。よもや貴公が会戦において、あの道を外れたにもかかわらず極めたなどと驕り高ぶった度し難き道化、魔導将帝ジャクムを下したときの手をいまの余にも使おうと?」
その翠色の瞳が剣呑な、侮蔑的な光を帯びる。
「だとしたら、現実が全く見えておらぬ痴れものであるとしか言えぬ。あのような詰みまでに二手以上を要する、遅きに失する低劣な手札……!」
言葉の終わりに、軽く、ごく軽く永世皇帝ネスカリシュオの右手が横に振るわれた。
――到底俺に、視認しきれない速さで。
「…………忠告する。一手切った瞬間に、余はその素っ首を刎ねる」
――幻視する。そこに、すでに断ち落とされた俺自身の首を。
諭すような口調で、なおも少年帝は続けた。
「無駄な抵抗は止めよ。然すれば、余が大いなる慈悲をもって一撃で終わらせてやる。あるいは、貴公らにわずかばかりの天運でもあれば、その生命を長らえる程度の一撃で」
「ほう? それはそれは、さすがは永世皇帝ネスカリシュオ陛下。非常に慈悲深いことだ、とでも言えばいいのか?」
その少年帝の諭しに、俺は嘲りをもって答える。
「で? その大いなる慈悲とやらをもって、力の差を見せつけたおまえが今度は我が魔王国エンデを属国にしようとでも言うつもりか? なあ、永世皇帝ネスカリシュオ……!」
金髪の少年帝は瞑目し、また深く長く溜め息を吐いた。
そして、その翠の瞳を再び開くと。
「…………余から告げることはもうない。貴公が『選択』せよ。次の貴公の言行をもって、余はそれを答えと見做す」
先ほどまで見せていた慈悲を捨て、冷徹なる絶対者の視線で睥睨する。
一方の、俺は。
――ほう? それはつまり、だ。永世皇帝ネスカリシュオ……!
先手は、俺に……! 最初の一手は見逃す、ということだな……!
それはまさしく、自分の勝利を絶対だと疑わない圧倒的強者の持つ余裕……だが、しかし!
――前にかざした右手に、俺は魔力を込める。
絶対者と化したいまの永世皇帝ネスカリシュオには遠く及ばない。
だが、俺の切り札を発動するに相応しい膨大な量の魔力を。
「ふはははは! だが、しかし! 永世皇帝ネスカリシュオ! その最初に放つ俺の一手こそが俺とおまえの! この魔王国エンデとエリミタリア永世帝国の戦いの勝敗を決定づける一手となることを教えてやろう! そう! おまえに相応しいこのチート級最強最悪スキルの一つの名をもって!」
指向性を持った魔力が俺の右手に。前方へ白光が放たれる。
「千年王国の崩壊!」
そして今この瞬間、俺の勝利の確信は――結果に変わった。




