80、穢れない青い瞳が問いかけるは。――対エリミタリア永世帝国、最終局面開始。
じっと、その差し出された少年帝の手を。取るでもなく俺が見つめていると。
「ねえー? あたしからも一つだけ聞いていーい?」
今度は左隣のアリューシャから少し間延びした声が上がる。
永世皇帝ネスカリシュオは、手を差し出した体勢のまま、あからさまに表情を歪めた。
「……いま、余は貴公らに結論をはっきりと申し伝えたと思ったのだが、まあよい。何だ? あの英雄気取りのまるで力の足らぬ道化、天技将帝キルシュアーツを下せし娘よ」
「んー。あなたにとって大事で大切なのは、自分と、そのマリアリテレザ……さんだけなんだよねー?」
「余は、二度そう申したはずだが? まさか三度目が必要か?」
「なら、なんで最高権力の座にこだわるのー? なんで自分の国の人たちから、お金も魔力も生命もたくさん奪うのー? なんで他の国を侵略し続けたのー? そして、なんでまだもっと侵略して、たくさん奪おうとし続けるのー?」
間延びした、だが真剣な怒りを滲ませたその声音に、永世皇帝ネスカリシュオはアリューシャをその翠の瞳で黙って、じっと見つめた。
絶対者の圧を持ったその視線を、だが正面からアリューシャは、その穢れのない青い瞳でまっすぐに見つめ返す。
「あなたたちが二人でずーっと寄り添って、どこか綺麗な所で静かに暮らすだけなら、あたしたち誰も邪魔しないよー?」
「ほう。と、いうことだが? そうしないのは、何故だ? その理由、ぜひ俺も聞きたいものだ。永世皇帝ネスカリシュオ」
「…………わからぬ、か?」
アリューシャに同意して俺も重ねたその問いに対し、永世皇帝ネスカリシュオは、深々とため息を吐く。
そして、さも当然のように、微塵の躊躇もその自身の言に一切の疑いもなく宣言した。
「余こそが、この世界で、いや過去現在未来を含めたこの世界史上で、最も優れた人間であり個体なのだ。ならば、遍くこの世界の全てが余によって蹂躙され、ありとあらゆる存在が屈服し、そして一切の例外なくこの大地が余によって統治されることは、もはや論ずる余地もなく自明の理であろう?」
「……なるほどな。よくわかった」
その、まるで誰もが知っているこの世界の常識をもう一度あらためて問われたかのような心底呆れ返ったような少年帝の表情。
俺は、すでに決まっていた決意をもう一度固め――バサリと魔王のあかし、漆黒のマントを翻す。
「ならば! やはりおまえは、俺の敵だ! 永世皇帝ネスカリシュオ! ふはははは! 傀儡を押し出しそのおまえ自身は座ることすらない! 数多のものたちの血と生命と嘆き、そして無念によって創り上げられし空の玉座! いまその座に真に相応しき主人として、この俺に差し出してもらおう!」
そして、まっすぐに指を突きつけ、このエリミタリア永世帝国掌握における最大最後の障害に向けて――真なる宣戦を布告した。
魔王国エンデとエリミタリア永世帝国。この俺、魔王ジュドと永世皇帝ネスカリシュオ。
――その勝敗を決するための最終局面を。




