8、戦闘開始。……そして俺は、高笑いとともに蹂躙する。
ボッボッボッボッボッ……!
この広間、階層のマスターたる俺の意思に応え、壁際に備えつけられた魔力の明かりがいっせいにその火を灯した。
これから始まる決戦を彩るかのように。
「みんな! お願い! あたしに――力を貸して!」
「「うん! ああ! はい! もっちろん!」」
――ふ。確かめるまでもなくわかっていたことではあるが、やはり迷いはない、か。
先ほどまでよりも光源が増え、より明るくなった広間。
その赤く長い髪の少女の穢れのない青い瞳には、もはや先ほど同志と呼び俺と語らっていたときの感情の揺れはどこにもない。
人々の希望を一身に背負うその瞳には、真の平和のためと題しながらも間違いなくその覇道において人々に仇なす脅威となるであろう野望を抱えた俺を倒すと決めた揺るぎない意思の光があった。
それでこそだ……! 我が同志にして宿敵……! そして、かつての――――勇者アリューシャよ!
そして、俺と勇者パーティーとの戦いが始まる。いや――
「はあああ! セイクリッド・マジックガード!」
前に出たタンク役の大柄な男の聖騎士。その掲げた盾が光を放ち、パーティー全体に魔法の威力を軽減する透明な光の盾を授ける。
「いきますよ……! リジェネ・サークル!」
後衛にてメイスを掲げた優男のビショップが一定時間継続して一定のダメージを回復する癒しの空間を辺りにもたらす。
「わたしも! 戦意昂揚マーチ! ♫〜」
小柄な歌姫の少女が透き通る歌声で継続中は味方全体の攻撃力を上げ続ける強化をかけた。
「ハイスピード・スペル! よし! あとは一気に……!」
勇者アリューシャの親友である少女魔導師メルニが自らに一定回数高速詠唱の補助スキルを使い、さらに畳みかけるべく早口で単体上級攻撃魔法への詠唱に移る。
「勇輝の光剣ー! たああぁぁっっー!」
もはや語ることはないとばかりに、その独特の間延びした叫びと裂帛の気合いとともに少女勇者アリューシャが勇壮な光を放つ剣で一足飛びに俺に斬りかかる。
――俺の外見的特徴や過去の戦闘経験などから、魔法タイプと判断。
全員に魔法の威力を軽減する光の盾を。継続回復手段を整え、それぞれに最も効果的と思われる強化スキルを選択。
そして最大火力で一気に攻めかかる、か。
やはりパーティーメンバー同様、戦術も基本に忠実。それゆえに最も堅実かつ効果的。
「だが、それも……!」
その全てを見届けると、俺はゆらと右手をゆっくりと前にかざし、高笑いとともにそのチート級最強最悪スキルの一つを発動させる。
「ふははははっ! 残念だが、いまの俺が手に入れたこのスキルの前には、全くの無意味! これで終わりだ! 冥府より来たる闇の紫炎に焼き尽くされるがいい! アビスフレイム!」
「「「きゃあああああああぁぁぁっっ!?」」」
「「ぐおああああああぁぁぁぁっっ!?」」
瞬間。戦場に渦巻くは、全てを焼き尽くす紫に燃える冥府より喚び出したる闇の炎。
そして、勇者アリューシャを含め、敵パーティー全員が悲鳴とともに尽く倒れ伏し――戦いという名の、俺の一方的な蹂躙の時間は、呆気なく幕を閉じた。
お読みいただきありがとうございます。
夜にもう一話投稿予定です。