76、邂逅。永世皇帝と国母将帝。――傾国の微笑み。
コッ、カッ、コッ。
エリミタリア永世帝国、帝都。
上層と中層、下層に分かれ、光と闇、栄華と退廃を極めたその都の中心。
唯一の最上層に位置するは、さらに上へ、まるで天に届かんと聳え立つ荘厳なる帝城。
「二人とも、いいな。開けるぞ。……手筈どおりに、頼む」
「うむ! ジュドさま! まかせよ!」
「ジュドー……うん! あたしもー!」
直後。空の玉座の間の奥。
下した四大将帝より奪った権限で、俺はその固く閉ざされた大扉を開けた。
両隣には、最も信頼する右腕、前魔王のデスニアと左腕の魔勇者アリューシャを傍らに。
その帝城最上階の豪奢かつ広大な部屋の中にいるのは、二人。
贅の限りを尽くしたような典雅な長椅子に寝そべる赤を基調とした衣装を身にまとう年端も行かない金髪の少年と。
その少年の頭をその母性を象徴したかのような溢れんばかりに豊かな胸を枕として侍り受け止める、ふわりと広がる桃色の長い髪の女。
金髪の少年は一切の関心がなさそうに、こちらにほんの一瞥だけくれると、再び何も映していない翠の瞳で虚ろに天井を見上げる。
一方の桃色の髪の女はまるで俺が来ることがわかっていたかのように、一切の驚きも見せず微笑みと共に、甘く蕩けるような声音で口を開いた。
「あら。ここに来られるまで、てっきりまだ数日はかかるかと思っていましたが。うふふ。どうやら、随分とお急ぎになられたのですね」
女は寄りかかっていた赤を基調とした典雅な衣装を着た少年を自分の肢体から丁寧に離れさせ一人で座らせると――ふわりと立ち上がり、楚々と俺に頭を下げる。
その袖が長く羽衣のように薄い白の衣装と、その全身を彩る金鎖と色とりどりの宝石の飾り、その溢れんばかりに限界まで晒け出された母性の象徴がしゃなり、と揺れた。
「お初に御目にかかります。わたくしはマリアリテレザ。この千年、エリミタリア永世帝国の最強戦力にして最高権力の座にあります四大将帝が筆頭。国母将帝を務めさせていただいております」
そして、顔を上げると。
「この度は、一昨日のロズトー平原における我が永世帝国との会戦における戦勝、おめでとうございます。新興とは思えない御国、魔王国エンデのご躍進、心よりお慶び申し上げます。魔王ジュド陛下」
そうして四大将帝最後の一人、国母将帝マリアリテレザは艶然と美しく赤い唇で微笑んだ。
その微笑み一つで国一つを惑わせ傾けさせかねないと俺に確信させる、絶世なる――傾国の微笑みで。




