72、魔喰いの『闇』。……そして、七の光が戦場を満たす。
バキンッ!
――あたしは、キタナイモノを知っている。
「貴様ぁっ! 『闇』などとっ! 一体どこまで民の希望を穢せば気が済むというのだっ! 堕ちた勇者アリューシャぁっ!」
天技将帝キルシュアーツが叫び、〈赤の命石〉を噛み砕くと再び両手に『光』を携えて、激昂と共にあたしに襲いかかった。
迎撃するあたしと、左右の剣閃が交錯する。
右は拮抗。左の『闇』は――
「なっ……!? 何だとぉっ!?」
「これが『闇』の力。つまり、魔喰い、だよー」
――あっさりと、天技将帝キルシュアーツの組成も剣閃も甘々な左の『光』を散らした。
さらに、その『光』を吸収した余剰魔力で。
「リジェネレイトー」
継続回復魔法を唱えたあたしは、自分の傷を徐々に癒す。
バキンッ、バキンッ!
「貴様ぁっ! よくもこの私の『光』を、魔王の傘下に降って得たという、薄汚い『闇』などでぇぇっ!」
赤と青の〈命石〉を怒声を上げる英雄が立て続けに噛み砕いた。
「今度こそ、この極光で――!」
「させっ! ないっー!」
「ぐぅっ!?」
輝きと大きさを増し、振り上げかけた『光』へと肉薄し、あたしはここぞと『光』と『闇』の双剣で猛攻を仕掛ける。
――新たなあたしの切り札。魔喰いの『闇』は、万能じゃない。ううん。むしろ酷く脆い。
はっきりと言えば、いまのあたしが使える程度の『闇』では、巨大すぎる魔力は、喰べきれないのだ。
だから、もしさっきの挟みくる極光にこの『闇』をぶつけても、普通に「残念ながら、勇者アリューシャの冒険はここで終わってしまったー!」ってなること受け合いなわけで。
――だから二度と、撃たせない。
「ぐっ……! くっ……!」
「たぁっ! やぁっー!」
斬り続ける。打ち続ける。ゼロ距離で。間髪入れず。
本来なら、悪手。最初の打ち合いのとおり、あたしと英雄の実力は、拮抗しているから。
でも、いまのあたしは知っている。
「たたたたったぁーっ!」
左、なら。
利き手との違い、左右のバランスも考えて、魔力収束の素体に短剣を選んだ。
そしてスキルを覚えてから、しっかりと基礎から寝る間も惜しんでみっちり鍛錬してきたあたしの左の『闇』と。
素体なしで左右のバランスも歪で。多分自前の剣才だけで振ってる練習不足の英雄の左の『光』なら。
――練度も、性質も、あたしの方が遥かに勝る。
「やぁっーー!」
「ぐうぁぁっ!?」
そしてあたしの『闇』がついに天技将帝キルシュアーツの左の極光の組成を破壊し、浅いが手傷を負わせる。
「き、貴様ぁっ!」
ブン、と苦し紛れに大きく振られた右手一本になった極光をあたしはタンッとかわし、距離をとった。
ただし、一足で飛び込める間合いを保ち、油断なく双剣を構えつつ。
――油断はしない。このまま押し切る……!
と、そのとき。
「この、私に、傷を…………?」
いま初めてそのポタポタと血を流す左手に気がついたように、呆然とそれを見つめる天技将帝キルシュアーツ。
「お、おおぉ…………!」
ねちゃり、と。その整った顔全体に血塗れの手を英雄がこすりつける。
手で覆われた赤く染まった顔の先、その口元が裂けたように凄絶に歪んだ。
――そして。
「お許し、ください……! 国母将帝マリアリテレザ……! この堕ちた勇者一人を屠るのに、万軍を相手にするための、この切り札を……! 我がエリミタリア永世帝国の精兵千人の生命を束ねた、この〈金の命石〉を使うことを……!」
――バキンッ。
儀礼的な装飾の施された業物の剣の柄頭が、白銀の鎧の胸の中心の、そこだけ色の違う金色を砕いた。
「光栄に思うがいい……! 堕ちた勇者アリューシャ……! このスキルを使うのは、いつだったか、そう……! かつて単身で万軍を屠ったあのとき以来……! そして、ただ一人に使うのは、おそらく貴様が最初で最後となろう……!」
――ぞわり。
ただその場に立っていることがやっとな、圧倒的なまでの膨大な魔力の奔流が英雄に渦巻き。
「刮目せよ! 七聖永世天下を照らす栄光!」
そして、戦場に七条の黄金の光が放たれ――光輝く英雄がその場に浮かび上がった。
《面白いと感じて頂けましたら、ブクマと☆評価よろしくお願いします!》




