71、極光と光と、……『闇』。
――止まる。
深く、長く、深く、息を吐く。
振り上げる。
心を――決める。
「勇輝のーー天・一閃っー!」
そしてあたしは一心に、いまのあたしにできる最長最大威力の輝く光の刃のスキルを振り下ろした。
左右から迫りくる比べものにならないほどに巨大な死神の鎌のごとき極光のスキルの、見定めたその交点に向かって。
「くっ……! ううぅぅっーー!」
容赦なく、抗しきれなかった光が左右からあたしの両腕を刻む。
「ぅうあああぁぁっっーー!」
それでもあたしは精いっぱいに奥歯を噛み締めて、いまのあたしにできる最大を維持し続けた。
そして。
ザスッ……!
「くぅっ……! はぁっ……! はぁっ……! はぁっ……! な、なんとか……なったぁ……!」
刻まれた両腕から血を流しながら、あたしは地に刺した剣を杖にして立ち、荒く荒く、息を吐く。
いまのは、本当に危なかった。
あの左右から挟みくる死神の鎌のような極光。
防ぐことも対抗することも、タイミング的に避けきることもできないと思ったあたしは、考え方を変えた。
最大限にダメージを減らす。そのためにあたしがやったこと。
それは言わば――鋏を開いたのだ。
そう。死神の鎌のごとく左右から迫りくる極光の刃を閉じないように。
その支点となる交点目がけて、いまのあたしのできる最大で。
その結果、衝突の余波で飛び散った魔力の光で刻まれて、ズキズキと両腕ともすごく痛むけど、あたしはまだ生きてるし、ちょっとやせ我慢すれば剣だって振れる。
――それにしても、さっきのは一体なんだったんだろー?
天技将帝キルシュアーツの魔力が、あのバキンッて音がした瞬間、とんでもなく一気に膨れ上がったよーな……?
「おおおおぉぉぉぉぉぉっ!」
その訝しむあたしに応えるように、視界の先、英雄が慟哭のような雄叫びを上げる。
「なんということだ……! 犯罪奴隷どもの赤ではない……! 〈青の命石〉を……! 最底階層にすぎないとは言え、それでも栄えあるエリミタリア永世帝国の無辜の臣民たち百人もの生命をこの私に使わせておいて、なおもまだ生きているとは……!」
それから、手にした『光』の消えた左手で顔を覆い、英雄が天を仰いだ。
「ああ……! この非才なる身を、どうかお許しを……! 永世皇帝ネスカリシュオ陛下……! そして、国母将帝マリアリテレザよ……! 次こそは、必ずや民の生命を無意に犠牲にすることなく、この忌々しい堕ちた勇者をこの私が……!」
「……ねー。ちょっといーい?」
「……なんだっ! 神聖なる懺悔の時間を邪魔するなど、貴様は礼節もわきまえぬのかっ! 堕ちた勇者アリューシャ!」
――いや、いまって戦闘中だしー。そっちが勝手に陶酔したみたいに寸劇じみたこと始めただけだしー。
と、喉どころか口元まで出かかったけど、どうしても気になったことがあったあたしは、それをどうにかお腹の中に押し戻した。
「ねー? さっきからあなたがバキンッ! て握り潰したり、噛み砕いたりしてるそれー。赤と青の……〈命石〉だっけー? 潰したら、いっぱいの他人から奪った魔力があなたに流れるんだと思うけどー、使わなかったらそれ、元の人たちに戻せるのー?」
――そのあたしの問いに、英雄は心底不思議そうに。いっそのこと、小馬鹿にするように。
「……はぁぁ? 貴様は何を言っている? すでに死体になったものに、一体何を戻せるというのだ?」
――事もなげに、あたりまえのように、そう告げた。
……ああ。もしかしたらと思ったけど、やっぱり、ただの英雄的自己陶酔なんだねー。
――ふざけないで。
それを聞いて、使うと決めたあたしは、収納空間から左手に、真っ黒な短剣を取り出した。
そして、告げる。
「傲魔の闇剣……!」
バヂッ!
あたしの意に応え、そのスキルが発動する。
黒の短剣を黒の光が、『闇』が覆い、真っ黒な長剣を象った。
右手の『光』を、左手の『闇』を。
実戦では初めて使う両極端な双剣の感触をズキリとする両腕の痛みを堪えながら、軽く振って確かめる。
――っつ。なんとか、大丈夫そうだねー。
「な、何だ貴様……!? それは、その禍々しい『闇』は……!? 堕ちた勇者アリューシャ……! 貴様は、一体……!?」
あたしは、訓練で色々試して、これが一番しっくりとくる両手の双剣をだらりと下げた構えをとる。
「んー。じゃあー、天技将帝キルシュアーツ。さっきのあなたに倣って、あたしの切り札のスキルを使ったところだし、あらためて名乗るねー」
そして、一度目を閉じ、心を、覚悟を決めてから、青い瞳を開き、宣言した。
「あたしは、魔王ジュドの左腕。魔勇者アリューシャ。あなたが言うところの堕ちた勇者。そしてこの『闇』は、この世界の歪みからもう目を背けずに、もう現実から逃げずにジュドーと一緒に覇道を征くと覚悟を決めたあたしが――魔王の軍門に降って手に入れた新たな力だよー」
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