57、マイナス二百。――決着。四大将帝、魔導将帝ジャクム。
本日3話目。
くいっとワイングラスを傾けると、酒精は入っていないながらも、芳醇な香りのする赤い液体が三度俺の喉を満たした。
「さて。では、教えてやる。老害。まず先ほど俺が放ったチート級最強最悪スキルの一つである、〈死穢ノ呪界〉。あのスキルの効力は、必中かつ確定で範囲内の対象の全状態異常耐性を強制的にマイナス二百にする、だ。その効果時間は、一度死ぬまで」
「ご、ほっ………!? げ、はっ………!?」
「ふ。もっとも、その対象範囲が俺の想像を遥かに超えてあまりにも広すぎて、万が一にもラベンダたち戦闘メイドやパペネクタを巻き込まないように、最初に慌てて戦術的撤退を余儀なくされたのは、この俺にとっても実に大きな誤算だったがな」
――そう。この魔導将帝ジャクムとの戦闘開始と同時に俺が右手を前にかざしたときには、本当に唖然としたものだ。
そのあまりの効果範囲に。そして同時に、空恐ろしくも思った。
間違いなくゲームのとき以上。まさに世界を単騎で滅ぼせるほどの、いずれ俺にとって最大の脅威となるであろうチート級最強最悪スキルの元々の持ち主である裏ステージの邪神たちを。
「げ、ぼっ……! な、なるほ……の……! さ、さすがに……甘……見す……いた……か……! ぐばっ……! だ、だ……敵に教……ると……迂闊……な……! ごぶっ……! ち、沈黙に……毒……! こ、この程度……じょ、状態……異常……なら……魔法……えずとも……く、薬……で……!」
「スロウ」
「が…………ばっ…………………………!?」
大量に血を吐き声が掠れ激しい悪寒に体を震わせながらも、這いつくばったまま手を懐に伸ばしかけた老人。
その震える枯れ枝のような手がピタリと――いや、より正確には、ほとんど止まっているとしか見えないほどに至極ゆっくりとしか動かなくなった。
「さて。説明の続きだ。老害。すでにその身をもって気がついていると思うが、マイナス二百という通常あり得ないほどに極めて低い耐性は、単に状態異常に百パーセントかかるというだけではなく、その効果も著しく高める」
地面に這いつくばりながらも玉座に座る俺を見上げる老人。
憎悪に満ちたその赤く血走った瞳孔までも白い瞳に向けて、俺は順番に一本一本丁寧に指を立てて示して見せる。
「沈黙は時間経過で自然に解けることなく永続に。毒は死毒に。スロウは亀の歩みよりもなお遅く。くく。わかるか? 老害。いまのままなら、おまえは確実に死ぬ。懐から薬を取り出して飲む、たったそれだけの幼子でもできることもできずに。いまのように徐々に徐々に確実に死毒に蝕まれ、一切の抵抗もできずに虫けらのようにな……!」
そこで俺は簡易な玉座から立ち上がると、バサリと漆黒のマントを翻す。
「ふはははは! それを望まぬならば、この魔王ジュドの軍門に降れ! 我こそは、エリミタリア永世帝国を! そして、いずれこの世界の全てを手に入れるものなり!」
「ぐ、がっ……………………!」
ついにその瞳孔までも白く血走った目が俺に畏れを抱くと同時、体を蝕む死毒の痛みに耐えかねたのか、薬を取り出しかけていた老人の体がどしゃりと完全に地面に倒れ伏す。
その拍子に偶然にも懐から小瓶がこぼれ落ち転がり、やがてコツン、とその弱々しく伸ばされた枯れ枝のような手の指先へとあたる。
「お、お……お……………………!」
――それは、取りも直さず、希望。
苦痛から逃れ、自らの尊厳を回復し、憎き俺への反撃へと転じ得る、魔導将帝ジャクムにとって、唯一にして最後の希望。
「パラライズ」
「がっ………………!?」
――掴みかけたその最後の希望を俺は、無慈悲に丁寧に、手折る。
ザッ、ザッ、ザ。
そして、筋肉、神経、内臓、血流すら含む身体機能の全てを急速に麻痺して廃人となっていく老人を俺は真下に見下ろしながら、宣告した。
「これで本当に最後だ……! 我が軍門に降れ……! エリミタリア永世帝国の四大将帝が一人、魔導将帝ジャクム……!」
「わ……………。な……え…………」
見開かれた瞳孔までも白い目がわずかに怒りや憎しみとは違う感情に打ち震える。
老人の口もとが微かに動き、止まった。
「ぐ……も…………く、だ…………………………」
「クリアランス」
「ひ……ゅ……ひ……ゅ…………」
瞬間。白の浄化の光に包まれ、臓器までに麻痺が及び、老人の完全に止まっていた呼吸が極めて弱々しいながらも再開される。
「いいだろう。ひとまずは生かしてやる。だが、忘れるな。この俺に降った以上、いままでのように私欲で無為に他者の生命を弄ぶことがあれば、そのときは直々にこの俺が殺してやる。ふ。精々励み、示すがいい。魔導将帝ジャクム。この俺が生かし続けてもいいと思えるだけのおまえの価値をな。そう。これよりはあの唾棄すべき暗愚なる傲慢な暴君、永世皇帝ネスカリシュオではなく、この魔王ジュドのために……!」
俺は勝利宣言としてそう告げると、ぎりぎりで呼吸だけを繋いでいる老人に「ヒール」と、最低限の回復をかけてやる。
「さて。これでようやく一つ片づいたわけだが。他はどうなっているか……。パペネクタにラベンダたち戦闘メイド、右腕のデスニアに左腕のアリューシャ……うむ。やはり気になるのは、あそこだな。万が一にも遅れをとることはあるまいが、だが……いずれにせよ、行けばわかることか」
そうして、ひとしきり考えを巡らせると俺はバサリと漆黒のマントを翻し、敗者を置き去りに臣下たちの戦場、その一つへと向けて歩き出した。
まずは一戦目。魔導将帝、撃破です!
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