53、傲慢なる魔王と四大将帝。――会戦最終局面開始。
本日2話目。
この世界最大の侵略軍事超大国、エリミタリア永世帝国。
その頂点。至尊の玉座に君臨するは、ネスカリシュオ永世皇帝。
永世皇帝の称号の示すとおり、建国以来千年の間、玉座に代わらず君臨し続ける。
まあ実際には、代替わりしながらも初代永世皇帝ネスカリシュオの名前を継承し続けているというのが永世帝国内、そして各国の暗黙の了解だ。
もっとも我が魔王国エンデは、概ねは同じながらも少しだけ見解を異にするわけだが。
そしていま実際に玉座に座すのは、まだ成人前。年端もいかないが、それは眉目麗しい少年らしい。
だが、その永世皇帝の直下。
建国以来千年、ほぼそれに近くあるいは数百年に渡り実際に君臨し続けるおよそ人間から外れた四人のものたちが存在した。
禁忌の外法の一つとされる他者の魔力や生命を自らに吸収し永らえる秘術を使うことで。
それが実力主義を旨とするエリミタリア永世帝国の最高幹部にして最強戦力、四大将帝。
その筆頭。常に代々の永世皇帝の傍らに侍り、補佐する立場にある。
四大将帝の中で最も長く君臨し、約千年を生きながら変わらぬ若さと美しさと、母性の象徴たる超のつく豊かな胸を恣にする国母将帝マリアリテレザ。
まだ地位についてからは百数十年程度と四人の中では最も若輩ながらも、最底辺の奴隷身分からその力一つで成り上がり、単騎で万の軍勢にすら匹敵するとされる永世帝国の武と暴力の化身、破軍将帝ヴァザヴォーザ。
数百年の間、奢ることなく弛まぬ研鑽を積むことで、ついにその技は人の限界を超えた高みへと到達し、エリミタリア永世帝国においては勇者をも超える世界最強の剣士とうたわれる天技将帝キルシュアーツ。
そしていまこの俺の眼前に数十人程度の手勢を率いて立つ、約五百年に渡るその生涯の全てを魔法の研究に費やし数えきれないほどの非人道的な実験を繰り返し続けた純凶の探究者、魔導将帝ジャクム。
「ほっほっほ。いやはや敵国とはいえ仮にも御前とあれば、御目汚しをするわけにもいかぬのう。そりゃ!」
白髪に長い髭をたくわえた、そしていかにも宮廷魔導士師然とした華美ではないながらも豪奢な衣装に身を包んだ目を細めた老人。
その老人が手にした杖を無造作に振るうと、先端に付けられた細く長い管が外れ、その先に繋がれた干からびた枯れ枝のように成り果てたつい先ほどまで人だったものが二体、棄てられ地面へと崩れ落ちた。
その光景を見て、思わず俺は眉をぴくりと震わせる。
――これは……! 事前に永世帝国に潜ませていた元四天王のイクチノたち諜報部隊から得ていた情報どおり、いやそれ以上だな……!
エリミタリア永世帝国は完全実力主義……! 上位のものは下位のものの全てを恣にする権利があると……! 労役、尊厳、魔力はおろか、その生命までも……! それも、こうも容易く使い捨てにできるほどか……!
「ほっほっほ。では、あらためて。儂は栄光あるエリミタリア永世帝国の最高幹部にして最強戦力たる四大将帝が一人、魔導将帝ジャクムと申すもの。まあ短い付き合いになるかと思いますが、どうぞ以後よろしく願いますぞ。魔王殿」
「魔王国エンデの頂点、魔王ジュド。短い付き合いになる、か。ふ。同感だ。まあ精々、俺に名前を覚えるだけの価値があると思わせてみせるがいい。老害」
慇懃に頭を下げてみせたその老人に相応しい挑発的な態度で俺が返すと、魔導将帝ジャクムはその片眉をぴくりと震わせた。
――くく……! この安い挑発一つすら流せないとは、聞きしに勝る矜持の高さだな……! 四大将帝という奴らは……! むしろ傲慢とすら言える……!
まあ、でなければ、わざわざ魔王たるこの俺の眼前に立つなどしないか……!
「ほっほっほ…………価値を示せ、ですか。さすがは至尊の地位におられる方ですな。国は変われど全く変わらぬ、まさに傲慢そのものの物言いじゃ……!」
すうっと、その細い目が開き、瞳孔までも白い瞳と共にまっすぐに手にした杖が俺に突きつけられた。
「よかろう! ならば篤と示して見せよう! 傲慢なる魔王殿だけではなく、そのご自慢の側近たち全員まとめてのう! 魔王殿の右腕と左腕の元へと向かった破軍と天技! 国母を除きここに参じたる我ら四大将帝三人と! 意思を奪うことで不要な恐怖心を失わせた虚心兵と並ぶこの儂の研究成果の一つ! 理性のたがを意図的に外し人間以上の力を発揮させるこの暴心兵どもの力をもって、文字どおり魔王国エンデの全てを尽く蹂躙することで! さあ、待たせたのう! おまえたち! まずは、あの女どもの意思を、尊厳を、生命を奪い、存分に好きにせよ!」
「「あばぁぁぁぁ……!」」
魔導将帝ジャクムの号令と共に、奴が連れてきた数十人程度の全身の筋肉が異様に肥大化した兵士たちが一斉に大口を開け、血走った目でだらりと涎を垂れ流す。
まるで獲物を前にした獣のような醜悪そのもののその姿からは、理性の欠片も感じられない。
「「ジュドさま……!」」
「ラベンダ! リリフ! ジオレ! サフィア! チェリ! あの醜悪な獣どもは、おまえたちに任せる! あの思い上がった老害は、この俺が直々に相手をする! 蹂躙し、屈服させ、その力の差を思い知らせてやる!」
「「はいっ!」」
そして、魔王国エンデ対エリミタリア永世帝国。
互いの最高戦力を四局面で同時にぶつけ合う、このロズトー平原における会戦の最終局面がいまここにその幕を開けた。




