49、魔王国エンデ 対 世界最大の侵略軍事帝国、開戦。
本日4話目。
高難易度ダンジョン攻略型RPG〈ダンジョンブレイバー〉。
その世界において、大国と呼ばれる国は三つある。
一つは、ゲームにおいて戦いの舞台となる、魔王を倒し世界を救う勇者を擁する国、クインブレン王国。
一つは、この世界に遍く浸透し、ほぼ全ての人々が信仰する〈聖なる女神教〉の総本山たるフェストア聖教国。
そして、最後の一つ。
――ゲームの舞台の外にあるその大陸は、いまはエリミタリアと呼ばれている。
そして、その大陸にある唯一の国の名前もまた同じだった。
そう。その大国は武力をもって、いまから数百年前にこの大陸での群雄割拠の時代を制したのだ。
小国、強国、数多あった大陸内の他の全ての国を滅ぼし、最終的に全て自らのその巨大な版図に呑み込むことで。
最後の一国。世界一の軍事力を誇る超大国、その名をエリミタリア永世帝国。
ロズトー平原。
大陸全てを支配するエリミタリア永世帝国の広大な国土の中ほどに位置する、いまはただただ広く遺跡すら何も残っていないその地。
そう。かつてエリミタリア永世帝国に全て滅ぼされた亡国の名前からつけられたその地に、少数だが精鋭たる手勢を率い俺は立っていた。
――平原に広く布陣する、軍事演習という名目で集められた総勢十万もの大軍を目の前にして。
それが俺たち魔王国エンデを誘き寄せる罠だと知りながら、それでも、あえて。
――地鳴りのように、帝国兵士たちの叫びが響く。
『『我らは常なる勝者! 偉大なるエリミタリア永世帝国の勇猛果敢なる兵士!』』
『『我らは選ばれしもの! 偉大なるネスカリシュオ永世皇帝陛下に忠誠を捧げし至高なる剣!』』
『『我ら選ばれし勝者が! 下賤にして野卑なる魔族風情に敗れる道理なし!』』
『そうだ! ものども! 進めぇぇぇぇぇぇぇぇっ!』
『『おおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!!』』
――くくっ。さすがは世界に覇を唱える侵略軍事超大国エリミタリア永世帝国。
これはまた、随分と教育が行き届いていると見える。
こんな末端の兵士一人一人に至るまで、その唾棄すべき選民思想が骨の髄まで染みついているとはな。
奴隷を最下級に置き、この戦場にも来ているごく一部の特権階級を最上位に、あとは帝国への貢献度ごとに国民を下級、中級、上級に分類。
まあ実際は等級内でさらに細分化されて管理されているということだが、基本的に等級が上がるごとにその富や持てる権利が上がっていき、上の階級のものが下の階級のものを搾取する社会構造。
言わばその国是は、かつての俺たち魔族や魔物と同じ弱肉強食。
最も完全なものではなく、その生まれ育ちに応じて、富めるものはより富みやすく、貧しいものはより貧しくなりやすい歪みを多分に抱えているということだが。
「ふはははは! だがしかし! それがおまえたちの国是だというのは紛れもない事実! ならば! 絶対かつ圧倒的な力の前に平伏すのもまたおまえたちが当然に享受すべき道理!」
そして俺は、いつものように敵全軍に向けてその言葉を告げる。
「さあ! 古き老害と成り果てた愚劣なるエリミタリア永世帝国の兵士たちよ! この魔王ジュドの前に――『跪け!』」
瞬間。まるで目に見えない波のように戦場全体に、俺のスキルレベル最大まで強化した一定以上の能力値を持たないものたちを強制的に行動不能にする魔王専用スキル〈魔王の威圧〉が広がっていく。
『『う、あ!? うおおあああああぁぁぁぁっっっっ!? な、なんだっ!? か、体がっっ!? 勝手にぃっっ!?』』
「「……………………」」
「ほっほっほ。これが噂に聞く魔王殿の力か。まさか所詮雑魚どもとはいえ、十万もの兵士のほとんどをとは。これは壮観壮観。さて。では、露払いも済んだところで、虚心兵どもを率い、我らも往くとしようかのう」
「全て喰らう、のみ……!」
「鍛えし我が剣にかけて、あの何よりも許せぬ人類の裏切りものを……!」
この戦場においては有象無象の塵芥に等しい兵士たちが蹂躙され、なす術もなく大地にその膝を屈する中。
最上位の特権階級でもあるごく少数の強者と、おそらくはそれ以外の理由で逃れたものたちが一斉に俺と率いる手勢へと向かってくる。
「くくく……! さすがにいままで俺があっさりと降してきた小国とは違うな。ここからが本番ということか。さあ! 気を引き締めよ! 我が精鋭たちよ! 予定どおり、この一戦での勝利をもって! 俺はエリミタリア永世帝国の掌握に王手をかける!」
「「うむ! うん! はい! 御意」」
――そして、強者と強者。
それ以外が相対し、新進新興国家たる魔王国エンデと侵略軍事超大国たるエリミタリア永世帝国の趨勢を決する真の開戦の幕はいま切って落とされた。




